第089話 集まっていく第三者の意見

「おいおい、流石に洗わせすぎじゃねぇか?」

「うるさい。それだけお前臭かったんだよ」


 適当に水を浴びて終わらせようとするバッカスを何度も水に沈めること数十分。ようやく匂いがマシになったので、こいつの服をソフィのブレスで乾かして着させた。


 あんまり血の色が落ち切っていないが臭くないし、汚い物が落ちたので良いとする。


「ったく、こんな所に何が居るのかと思ったら、こんな綺麗好きの男だとはな」

「なんだ?別に俺は来てくれなんて頼んでないが?それに無の大地は国外だ。国王様だか誰だか知らないが、その力は及ばないぞ?」


 嫌味を言ってくるバッカスに対して、俺も嫌味で返してやる。


「へいへい、大人しくすればいいんだろ、大人しくすれば」


 不貞腐れてツーンとした態度をとるバッカス。


「分かればいいんだよ」

「けっ。強く見えねえのに俺の力で動かせねぇんだからな。信じらんねぇぜ」

「お前が弱すぎるだけだろ」


 バッカスはあり得ないとでもいいたげな表情で話すが、俺にはソフィとの違いもそれ程分からない。俺に分かるのは二人の攻撃が総じて弱いということだ。


「はっ。これでも王国の兵士の中でも力は一番だっての!!」

「へぇ。兵士最強がこの程度なのか。王国の兵士って弱いのか?」


 俺の言葉に不機嫌そうにバッカスが答える。


 それを聞くと皆バッカスくらいの力しかなくて国を守れるのか、と不安になってしまう。


「そんな訳あるか!!長年魔族とやり合ってきた国の兵士だぞ?一兵卒だってそこら辺の国の兵士に負けることはねぇっての!!」

「ふーん。そんなもんなのか……」


 そんなことは初耳だ。まさか人間の兵士がこんなに弱いなんて。


 俺にはあまりに衝撃的なことだった。


「あっ!!お前今バカにしただろ!!」

「してない。ソフィの言ってたことが段々真実じみてきたなぁと思ってるだけだ」

「お主はまだ信じていなかったのか」


 俺が適当に返事をしたのをバカにしたと勘違いして指をさしてくるバッカス。俺が思ったことを呟いたら、ソフィが呆れるように俺に言う。


「そりゃあこの前街にいって少し実感できたけど、まだまだ客観的視点が足りないからな。俺がそんなに強いなんて思えないんだよ」

「一体何の話だ?」


 俺の返事にバッカスが割り込んだ。


「ん?こやつには常々お前が世界最硬の男だと言っておるんだが、一向に信用しようとせんのだ」

「こいつが世界最高?何を言ってるんだ?最高の男は俺だろ?」


 ソフィがバッカスの質問に答えてやると、彼は不遜にもドヤ顔で自分のことを指さす。


 こいつ凄い自信だな。どこから湧いてくるんだよ、その自信は。


「何を勘違いしているのか知らないが、こやつが世界で最も頑丈な体を持っていることは間違いない」

「なーんだ、そういうことかよ」


 ソフィがバッカスの勘違いを正してやれば、バッカスが拍子抜けしたような表情になる。


「何を勘違いしてんだ?」

「気にすんな。それで?」


 俺がツッコミを入れたら、バッカスはこれ以上踏み込まれたくないのか、俺を適当にあしらって、ソフィに話を促した。


「こやつは元々不遇に扱われていたせいか異常に自己評価が低いのだ。我が傷一つ付けられない上に、深淵の森の状態異常を引き起こす果実や植物を食べても一切効果のない体。不変の地盤をかち割る膂力と拳の硬さ。どれをとってもありえない程に頑丈な人間だ。もはや人間と言っていいのかも分からん」

「はぁ!?あんたの攻撃で傷一つ付かないだと?うっそだろ?」


 ソフィの言葉に、バッカスは目を大きく見開いて驚愕する。


「今やって見せるか?」

「すぐやってみてくれよ!!」

「えぇ~、俺も付き合わなきゃならないのか?」


 二人が勝手話を進め、俺を巻き込んでくるので俺は嫌な顔をした。


「別によかろ?減るもんでもないし」

「はぁ……まぁいいけどな」


 確かにソフィの言う通り、ダメージを受けるわけでもないし、体に傷がつくわけでもない。仕方がないので受けてやることにする。


 そうすれば大人しくなるだろうし。


「それじゃあ行くぞ。はっ!!」


―ズンッ


 ソフィが俺の前で構え、俺の腹部に向かって拳を放つ。俺は特に何をするでもなくその攻撃をうけた。


 衝撃で辺りが振動するが、俺の腹は特に何ともない。


「これでいいのか?」

「マジかよ……」


 俺が声を掛けたら、バッカスが呆然としてしまった。


「どうだ?分かったか?こやつの異常さが」

「ああ……こいつにはどうあっても勝てないことが分かったぜ。まさか俺が絶対に戦いたくねぇと思う存在がいるとは思わなかったぜ……」

「我もこやつと本気で戦えと言われたら、絶対にやりたくないな」


 呆然としながらもソフィの問いかけに答えるバッカス。バッカスの返事にソフィまで同意するように首を振る。


「なんだよ、二人して人を化け物みたいに……」

『正真正銘の化け物だ!!』


 なぜか俺をまるで人間じゃないみたいに扱う二人に不満そうに言ったら、人間であることを否定されてしまった。


 悲しい。


 俺は人間だと声を出して言いたい!!

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