第087話 なんかいる

「それじゃあ俺たちは先に帰ってるからよろしくな」

「はい。お任せください」


 顔合わせと納品を終えた俺は、ヤルトに後のことを任せてソフィと一緒に買い物をして帰路についた。


「これで上手くいくといいんだけどな」


 やれることはやったので俺が出かけていない時も滞りなく生育と出荷、納品が上手く回ってくれることを願う。


「問題ないであろ。エルヴィスだけでなく、リビータも竜や竜人がお主とかかわりがあることを知っている。そんな相手にバカなことはできん」

「そういえばめっちゃ驚いていたなリビータ。エリヴィスさんは少し目を見開いただけだったのに。それはエルヴィスさんが表情を隠すのが上手かったってことか。そう考えると、ドラゴンって俺が思ったよりも凄かったんだな」


 リビータの驚きようったらなかった。まさかソフィに向かって土下座までするなんて。あれで本当にドラゴンて人から恐れられてるんだなって理解できた。


「だから言っておっただろうに」


 呆れるように俺も見るソフィ。


「そんなこと言われても。その見た目じゃなぁ。威厳なんて皆無だし、ただの可愛い女の子にしか見えないからな。ドラゴンの姿も綺麗だし、強そうには見えないし」


 俺はソフィを見下ろし、初めて見た美しいドラゴンの姿と今のソフィの姿を重ねながら話した。


「か、可愛!?き、綺麗だと!?ふ、ふん、我が可愛くて綺麗というのは数千年前からの事実だ。わざわざ言うほどのことでもあるまい」

「それもそうか」


 ソフィは不機嫌そうにそっぽを向いた。


 確かにそんなことはこの数千年の間にドラゴンだけでなく、人間たちにも数多く言われてきたことだろう。


 今更言われたところで嬉しくもなんともないか。


「なんでそこでやめるのだ!!」

「面倒な奴だな」


 そう思ってこれ以上何かを言うのを止めたのにさらに機嫌が悪くなった。


 一体俺にどうしろっていうんだ。


「それよりそろそろ乗せてくれ。帰りが遅くなる」


 俺は話を変えてそろそろいつもソフィがドラゴンの姿になって帰る場所に付いたことを告げる。


 これ以上は俺には何もできない。ソフィを妹達のように撫でるなんてもってのほかだしな。


「はぁ……仕方があるまい」


 なんだかがっくりと肩を落としたソフィだが、それ以上は何も言わずにドラゴンに変身する。


 ソフィは服をアトモスさん達から教わって服を着たままでも破らずに着脱できる魔法を使えるようになり、そのままドラゴンの姿に変われるようになったので、目に毒な光景をみることがなくなって嬉しいやら残念やら正直複雑な気持ちだ。


 ソフィの裸体を直視はできないけど、見れないは見れないで残念だと思ってしまうのは男の悲しいさがだろう。


『ほれ、早く乗るのだ』

「はいよ」


 俺はソフィに促されて彼女の背中に飛び乗った。それを確認したソフィは俺を乗せて牧場へと飛んだ。


「んー、で、この人は誰だ?」

「なんでもクーデル王国の騎士団から派遣された調査団だそうです」

「クーデル王国って確か俺が探索者をやっていたダンジョン都市なんかを抱える国だたったか」


 そして帰ったら、無の大地の端っこに、なんだかばっちい鎧を身に着け、悪臭を放つおっさんが白目をむいて大の字に倒れていた。


 体中が真っ黒に染まっているところを見ると、モンスターかなんかの返り血を浴びているようだ。


 でも変だな。この辺にはモンスターなんか住んでなかったはずなのに。少なくとも俺が初めてここまでやってくる間にモンスターに出会ったことはない。


 出会ったのはチャチャたちを連れ帰ってきた山に行った時だけだ。


 この人は一体何と戦ったんだろうか。


「ねぇねぇ、アイギス様、私がちゃんと死なないように倒したんだよ、偉いぃ?」

「ああ、そうだな。偉い偉い」

「えへへ」


 ソフィ以上に見た目幼女のプリムが俺に褒めてほしそうに話しかけてきたので、頭を撫でてやった。プリムは凄く嬉しそうだ。


「む~っ」


 なぜかソフィに睨まれたが、俺にはどうしようもない。


「それでこの人は一体何を調査しに来たんだ?」

「どうやら点を貫くほどの水柱が上がったという報告を受けて、異変が起こっているのではないかと調べにやってきたみたいですね」

「なるほどな。あれは我に直撃するほどの勢いだったからな。人間の国が気になって調査に来るのも頷けることだ」


 何を調査に来たかと思えば、俺が地面を割った時に沸いた水柱の件が王都まで報告がいったということらしい。確かにあんなに高く噴出した水なんてみることがないから気になるか。


「それなのになんでこの人は白目剥いて倒れているんだ?」

「それなのですが、この者がどうやら戦いが好きらしく、戦意をもってきたようでしたのでプリムに応えさせたところ、幼い少女の姿のプリムにあっけを取られたらしく大きく隙を作ってしまい、娘の攻撃を無防備なところに食らったんですよ」

「そうなのか」


 俺にとってはプリムはただの幼女に過ぎないが、どうやら他の人間にとってプリムの攻撃は白目をむいて気を失うほどには強いらしい。


「とりあえず臭いし、気付けもかねて水で洗い流そう」

「かしこまりました」


 いつの間にかウチの執事ポジション納まっているアトモスに指示を出し、俺は彼を洗ってたたき起こすことにした。

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