第084話 顔合わせ
「えっと……ソフィさんって高位古代竜の長だったんですか……?」
「ん?ああそうだが?」
ビクビクしながら尋ねるリビータに、なんでもないように答えるソフィ。
「ひぇえええええええええ!?今までのご無礼を――」
その瞬間リビータはその場にひれ伏した。
えぇえええええええええええ!?
むしろこっちが驚きなんだが?
ドラクロアって国で守り神みたいなことをやっていたソフィだけど、気さくだし、見た目が見た目だけに、威厳という物があまりない。だから、凄いという気持ちは湧いてきても跪かなければならないという気持ちは全く出てこなかった。
勿論俺の仕事を凄く手伝ってくれるし、一番の理解者でもあることは分かっているからとても感謝はしているが。
「よい。あくまで種族のまとめ役のようなものだ。別に我の前で畏まる必要などない」
「し、しかし……つまりそれは……」
ひれ伏すリビータに向かって膝を付いて体を起こそうとするソフィだが、リビータはどうやら国を治める立場にあったことにも気づいてるらしく、頭を上げようとしなかった。
まぁ俺みたいに権力者と関わる機会が全くなかった人間には貴族、まして王様なんて雲の上の存在で、そういう存在がいるんだくらいにしか思っていなかった。
だから、目の前のリビータの行動が酷く滑稽に見えてしまうが、これが本来の姿なんだろうな。
「良いと言っておる。すでに引退して姪に国を任せた身だ。気にするな。今まで通りでよい。むしろその態度でいられた困る。ほれ、周りの人間も困惑してしまっておるではないか」
「わ、分かりました……」
リビータの突然の行動に商会内は騒然となっていた。
その事実をリビータに見せることで彼の気持ちを落ち着かせ、普段通りの対応をするように頼み、彼もそれを了承して立ち上がる。
「職員が血相を変えて私を呼びにきたと思ったらどうやら落ち着いたようですな」
そこに恰幅のいいおじさん、もといエルヴィスさんが冷や汗をかきながら部下を引き連れてやってきた。
「あ、エルヴィスさんこんにちは」
「ああ、アイギスさんこんにちは。それで……これはどういった状況なんでしょうか……?」
俺がエルヴィスに挨拶をしたら、彼はこの状況の説明を望んだ。
「それが、リビータはソフィが高位古代竜の長だったことを知らなくてな」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「まぁそういうことだ」
俺が少し説明をしただけで状況を理解したエルヴィス。
「皆さま、お騒がせ致しました!!ご迷惑をおかけしたお詫びに、今ここにいるお客様限定で、二割引きにて商品をご提供いたします。どうぞよろしくお願い致します」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
エルヴィスは客たちの方を向いて、混乱を収めるためサービスして彼らの意識をこちらから逸らした。
流石貫禄が違うな。
客たちは他の店員たちとのやり取りに夢中になっている。
「うむ。やるではないか」
「ありがとうございます」
エルヴィスの対応に満足げに頷くソフィ。エルヴィスはソフィの方を向き直って笑顔で答えた。
「と、父さんは知っていたのかい?」
場の雰囲気が活気づいた後、困惑した様子でリビータはエルヴィスに尋ねる。
「ああ勿論だ」
「それじゃあなんで……」
エルヴィスはさも当然と言わんばかりに答えたら、最後まで言葉が続かなかったが、教えてくれなかったんだ、という言葉が来ることは容易に分かった。
「お前も勉強になっただろう?ソフィさんは見ていれば分かると思うが、お前が先程取っていたような対応をされることを好んでいなかった。私はそれが分かっていたから普通に対応したに過ぎない」
「なるほど……」
どうやら敢えて教えていなかったらしい。
リビータはエルヴィスの言葉に自分の力を試されていたことを知る。
「ソフィさんはこういうことがあったとしても怒らない方だと思ったので息子には言わなかったんですがね」
「この程度の事で怒ったりせん。まぁ我以外は分からないがな」
「ええ、お客様にはお忍び来られる方もいる。相手の地位を知ることがあったとしてもどのような対応を望むかは自ずと分かるもの。これで息子も懲りたことでしょう。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
リビータの教育が終わったところで、ようやく俺達の用件へと移る。
「ああ。今後俺が牧場を空けることもあるだろうから、そういうときのためにも納品を別の人員に任せようと思ってな。その人員を連れてきたから顔合わせも兼ねてそいつらに納品の流れを教えてやりたいんだよ」
「なるほど。そういうことでしたか。それではここからは私が引き継ぎましょう。リビータは通常業務に戻りなさい。反省して今後に活かすように」
「分かりました……」
リビータと別れた俺達は外で待たせていた馬車たちを急いで商会内の納品所まで連れて行き、納品や商品の購入方法などを説明してもらった。
竜人達を見た時、エルヴィスさんがとても驚いていたが、ソフィの方が凄いということが分かっているからか、それほど動揺することもなかった。
こうして俺無しでも納品できる体制が出来上がっていった。
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