第080話 彼らの用事
「それで、お前たちは何の用でここにきたんだ?」
「そうだな。何の用だ?」
俺達は模擬戦を行った場所から移動しエルフに作ってもらったテーブルを囲んでいた。
なぜそんなことが出来るかと言えば、彼らはソフィと同じ種族だけに、他人に変身することができるからだ。ただし、ソフィよりも術が拙いのか、角以外にも竜の象徴たる尾がお尻の辺りから生えていた。
それにソフィとは違い、普段から人間の姿になっているらしく、人間の姿になると服を着用されるようになっている。是非ともその技術は未だに人間になった後で服をいそいそと着ていて、目のやり場に困るソフィに教えて欲しい技術だ。
それと、ソフィは今俺の膝の上に乗っている。
「私はここ~」
そんなことになっている理由は、プリムという一番小さなの竜の女の子が、ここに移動してくるなり何故か俺の膝に乗ろうとした。
「それは出来ぬ相談というものだ。ここは我の席なのだからな」
しかし、あろうことかソフィが俺の膝のひょいっと乗っかってプリムの行動を先手を打って制してしまった。
プリムは少し不服そうな顔をしたんだが、相手がソフィでは分が悪いようで諦めてトボトボと別の席に腰を下ろした。
俺のボコボコにされてなんで俺の膝の上に乗ろうとしたのかが分からない。
ソフィが強い者に服従するみたいなことを言っていたことがあったので、その辺りが関係しているのかもしれない。
「プリムは良くて、我は駄目なのか?」
俺の膝に乗ったソフィを下そうとしたが、そう言って目をウルウルされると拒みようがない。
まだ十にも満たない少女を膝に乗せるのと、十代後半のそれなりに発育のいい女の子を膝の上に乗せるのでは全く意味が違うだろうと叫びたい気分だった。
俺が少し彼らの人間の姿をボーっと見つめていたのも膝から腿にかけてと胸に感じるソフィの柔らかさと甘い香りにクラクラしてしまい、理性がどこかにいってしまいそうだからだ。
俺とソフィの身長差がそこそこあるので、皆の顔が見えなくなることはないが、膝の上に美少女を乗せているという状態は中々に恥ずかしい。
「はい、我らの用件というのは、これから約九カ月ほど先に我らの国ドラクロアで王の交代の式典が行われるのです。そこに建国の祖である竜皇様にご参加いただくために、私達がお連れするように指示されましたので、お迎えに上がった次第です」
「そういえば、そんな理由で起こされたのであったか」
彼らの用件を聞いて今思い出したとばかりに返事をするソフィ。
「忘れてたのかよ」
「うむ。我は隠居の身。どうしても参加しなければいけない行事でもあるまいし、我にとっては只の王の交代だから忘れておったわ」
俺があきれ顔で俺の胸の少し上にくらいにあるソフィの頭を見下ろすと、彼女は体を反らして俺の顔を下から見上げて答えた。
いきなりそうやって目を合わすのは止めてくれ。
俺の心に効く。
「それでどうするんだ?行くのか?」
「まぁ特別用事があるわけでもない。参加してもよかろう」
「本当ですか!!助かります!!」
ドキドキする気持ちを押し殺してソフィに尋ねると、参加するという。その返事にリーダードラゴンも嬉しそうに頭を下げた。
そういえば、このリーダードラゴンはアトモスさんというらしい。
「ただ、それまでにここの牧場に我とアイギスが居なくても暫くの間は回るように準備しておかねばなるまいがな」
「アイギス様もお連れになるので?」
まさか俺も一緒に連れていくとは思っていなかったのか首を傾げるアトモスさん。
「うむ。こやつに我が作った国を見せてやろうと思ってな」
「なるほど。しかし、竜皇様の隣にいるのが人間となると、トラブルに巻き込まれる可能性がございますが……」
ソフィの答えに納得するアトモスさんだったが、どうやら今回模擬戦をすることになったように、そういう厄介事に巻き込まれる可能性があるようだ。
確かにソフィは竜の中で一番偉い。隠居したとしてもそれは国の神としての仕事からの引退であり、竜の頂点であることは止めようがない。竜と言えどやっかみというのは何処にでもあるものだと思った。
「問題あるまい。こやつにはお前たちはおろか、我の攻撃さえ通らぬ。それに、深淵の森の状態異常を引き起こす果実や木の実を食しても健康そのもの。そんな奴に危害など誰も加えられぬ」
「まさか状態異常までとは……確かにそれなら害を及ぼしようがないですね」
呆然とした表情で俺の顔を見てくるアトモスさん。それだけじゃなくて、奥さんのアリーナさん、長男のアッシュさん、長女のビオランテさん、次女のプリムちゃんも一斉に滅茶苦茶引いた目で俺を見てくる。
一体俺が何をしたっていうんだ?
「で、あろう?問題あるまい」
「そ、そうですね、それなら何も言うことはございません」
ソフィは彼らの驚愕など知らないと言った風に話をまとめてしまった。俺が辞退しようかと考えていたところだったが、あっさりと問題がないと認めらることになったのだった。
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