第079話 決闘

 俺達はまだ耕していない無の大地の一角にやってきた。十メリル程の距離を挟んで俺とプリムが相対している。


「それでは、これより、模擬戦を始める。双方準備はいいか?」

「おれはいつでもいいぞ?」

『私もいつでもオッケーだよ!!』


 ソフィの言葉に俺とプリムが頷いた。


「うむ。それでは……はじめ!!」


 お互いの顔を見て問題ないと判断したソフィが合図をして戦闘が始まった。


―ドンッ


 先頭の火ぶたが切って落とされた瞬間にプリムが俺に襲い掛かる。プリムは他のレッドドラゴンよりも体が小さく、ソフィに十分の一程度。それでも十メリル程はあるが、ソフィたちよりも小回りが利き、動きも素早い。


 初手は蹴りのようだ。


 ソフィの尻尾攻撃に比べればまるで危機感がない。俺は特に防御することもなくそのまま受けた。


―ズンッ


 多少重みはあったが、やはりダンジョンのモンスターよりもほんの少しだけ重いかな、程度。


『え!?』


 プリムは俺の対応に驚き、動きが止まる。


「おいおいこの程度なのか?」

『もうどうなっても知らないんだからね!!』


 プリムはそれからなんども俺を殴ったり蹴ったりする。


『なんと!?まさかあのようなことが起こりえるのか!?』

『ドラゴンの攻撃を受けて微動だにしないなんてあの男は一体何者なんでしょうか』

『プリムでもSランク探索者程度の力はあるはずなのに……』

『私でも手加減して相手をするのは大変なのに……』


 外野から何やら思念が伝わってくるが、内容までは把握できない。


 俺は一歩もその場から動くことなく、プリムの攻撃を受け続けているが、その攻撃が俺にダメージを与えることはなかった。


『はぁ……はぁ……』

「ふわぁ~……。もう終わりか?」

『くっ。このぉおお!!』


 肩で息をするプリムを挑発すると、彼女はイラついた声を出して、最後の力を振り絞って俺にラッシュを仕掛ける。


―ドドドドドドドドッ


『はぁあああああああああ!!』


―ズドーンッ


 そのラッシュの最後に彼女の口から特大の炎が吐き出された。


『はぁ……はぁ……やったの?』


 荒い呼吸をしながら俺の安否が気になるようだ。


「フンッ!!」


 俺の周りを舞っている煙を手を振るうことで吹き飛ばす。


『ひぇ!?』


 俺が姿を現すなり、怯えたような声を出すプリム。別にこちらからは一切攻撃していないのにおかしいな。


『バカな……』

『無傷……』

『信じられない……』

『一歩も動いていないなんて……』

  

 外野のドラゴン達に動揺が走っているらしい。そろそろ終わりにしよう。


「それじゃあ、俺からもいかせてもらうぞ?」

『ま、待っ――』

「シールドタックル(盾無し!!)」


 プリムは何か言っている気がしたが、それは無視して俺は本来盾を持ったまま敵に肩から体当たりをする攻撃をぶちかます。


―ズドォンッ


『きゃぁあああああああああああっ』


 鈍い音がしたと思ったら、プリムは吹っ飛んでいった。


『えぇええええええええええええ!?』


 ドラゴン達はからは口を揃えて驚愕の念話が伝わってきた。


「勝者、アイギス。どうだ?お主達も分かったか?」

『は、はい。竜皇様』


 勝利宣言をした後、ソフィはリーダードラゴンに視線を向けると、彼はペコペコ頭を下げる。


『娘の様子を見てきてもいいでしょうか?』

「うむ」


 彼らは許可を得て、皆でプリムの許に駆け寄り、安否を確認して、問題ないのが分かると安堵して彼女を皆運んで戻って来た。


『娘がやられてむざむざ黙っているわけにも参りません。私も彼と戦わせていただきたく』

『私も同じく』

『僕も』

わたくしも』


 かと思えば、全員がソフィに向かって頭を下げ、俺と戦いたがった。


「はぁ……まぁドラゴンとはそういう種族であるからな。仕方あるまい。アイギス頼んでもいいか?」

「ああ。俺は殆ど何もしてないからな」

「うむ。それでは頼んだぞ」

「了解」


 俺はソフィには世話になっているし、大した労力でもないので彼らとの模擬戦も引き受けた。


『無念』

『手も足も出ませんした』

『化け物』

『強すぎる』


 結果は勿論一切のダメージを受けることなく完勝した。


 正直全員が似たり寄ったりの力しか持っていなくてソフィの足元にも及ばない重さの攻撃しかしてこなかったので、プリム同様相手が息切れしたところに止めを刺して終わりにした。


 当然、極力ダメージを与えない攻撃で意識を刈り取ったので全員無事だ。


「我が勝てぬのだから当たり前の結果だがな」


 彼らの醜態を見て、ソフィは肩を竦めた。


 その後は、遅れてしまった作業に従事して、その日の仕事を着々と進めていくのであった。


『申し訳ございませんでした!!』


 夕方になるころに彼らは目を覚まし、全員が人型に変身して俺に土下座をする。


「いやいや、別にただの模擬戦だったんだから気にしないでくれ」

「はっ。寛大なお言葉感謝いたします。つきましては、我らはあなた様の言葉であればなんなりと従いますので、何かございましたらご用命ください」

「あ、ああ。ありがとう」


 そして、何故か俺の配下みたいなものなった。


 ただの模擬戦だったはずなのに一体どうしてこうなったのか。


 まぁ結果的にソフィ以外の移動手段が手に入ったと思えば、手間が省けたので良かったと言えるかもしれない。

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