第081話 下僕増殖

「まずはなんと言っても人員の増加だな」

「うむ。今のままでは一日はともかく、それ以上離れるのは厳しい。数カ月という単位になると最早不可能と言えるな」


 まず出かけるためには今の状況を打開するための労働力と、エルヴィスさんとの交渉ができる存在、そして納品物を牧場からが必要だ。


 むしろそれが解決できれば今後俺はエルヴィスさんとの交渉をせずにずっとここで生活することが出来る。


 それは是が非でも叶えたい話だ。


 正直一々商品を卸しに行くのも面倒だし、あまり人とも関わりたくはない。勿論エルヴィスさんが俺を騙すような人ではないことは、これまでの付き合いで分かっているが、気疲れはどうしようもない。


「それでしたら、竜人と我が配下たちをお使いください。彼らの国から連れてまいります故」

「それは……大丈夫なのか?」


 アトモスさんが提案してくれるが、要するに別の国から勝手に連れてくるってことだよな?それって国同士の大問題になるんじゃないか?


「あほう。あ奴らは我らが言えば喜んでついてくるような奴らだ。大した影響などないわ」


 アトモスさんに言った言葉だが、ソフィが心外だと言わんばかりの表情で言った。


「はい、竜皇様のおっしゃる通りで、全く問題ございません。むしろ平和故に少々暇をしているくらいなので、ここでこき使っていただきたいほどです。ただ、ここに連れてきた際に、我らと同様にアイギス様に決闘を申し込む可能性がございますが……」

「いや、それくらいなら構わないよ。多少体を動かさないと鈍るしな」


 アトモスさんもソフィに同意し、懸念点を教えてくれたが、別にそれほどなら全く構わない。むしろ運動相手に丁度いい。


「それは彼らも喜ぶでしょう。自分が一方的にやられるような戦闘は滅多にありませんので、いい経験となるのでぜひお相手しやってください」

「任せおけ。それと、ウチに来てくれそうな人員はどのくらいで、その中で人と交流できる見た目の者はどれくらいだ?」


 何より大事なのはどのくらいの人員が来てくれるのか。それによってどの程度作業は分散されるのかが決まる。


「集められるのは七十五程でしょう。そのうち二十五が赤竜で、残りが竜人という我らの人間形態に近い体をもつ人型の種族になります。竜人であれば、人との交流は問題ないかと思います」

「おお、そんなに来てくれるのか」


 思った以上の数に俺は滅茶苦茶喜ぶ。それだけいれば納期にかかる時間が少し遅れるかもしれないが、植える数を増やせば、なんとか調整できるレベルだろう。


「そうですね。ただ、それ以上は難しいかと」

「それだけ来てくれるなら十分だ」


 これ以上は流石に無理だと申し訳なさそうに語るアトモスさんだが、俺としては予想以上の労働力が手に入りそうなので何も問題はない。


「それでは人員を確保してまいります。それまでは家族がお仕えいたしますので、どうぞご随意にお使いください」

『よろしくお願いします』


 すぐに竜の姿に戻り、アトモスさんは飛び去った。


「私たちは如何すればよろしいでしょうか?」


 彼を見送った後、アリーナさんの方に向き直って尋ねる。


 すぐに思いつくのは俺たちの作業を手伝ってもらうこと。


「そうだな。それじゃあ俺たちと一緒にウシモーフのブラッシングをしてもらおうかな」


 だから、彼らの襲来でブラッシングがまだ終わっていなかったので、一緒にやってもらうことにした。


『ウ、ウシモーフですか?』


 しかし、彼らは辺りをきょろきょろと見回してからそろって首を傾げた。


 どうやらウシモーフが見当たらなかったようだ。


「ああ。あそこの牛舎に隠れてしまっているが、こっそりこっちを覗いているのがウシモーフだ。あいつらはからはとてもこの世のものとは思えない乳が取れるんだ。手伝ってくれるのなら飲ませてやってもいいぞ」


 だから俺は見えているウシモーフを指さして説明してやった。


「なんかわたしの知ってるウシモーフと違う気がするけど、わたしのみたーい!!」

「そこはかとなくウシモーフとは違う覇気を感じますが……いやでも、僕もアイギス様がそれほどまで言われるのであればさぞかし美味しいのでしょう」

「そうですわね。ウシモーフにはどうにも見えないですが、私も非常に興味があります。ぜひ、手伝わせてくださいませ」

「私も旦那様の名代として精一杯お手伝いさせていただきます」


 どうやらウチのウシモーフはそこらのウシモーフと一味違うらしい。それもこれもウチの野菜と魔力を存分に含んだ水のおかげだろう。


 それから俺が実践しながらブラッシングを教えると、あっという間に吸収してしまった彼らのおかげでまだ日が暮れる前に作業が終わった。


『おいしぃいいいいいいいいいいいいい!!』


 作業後に彼らにウシモーフの牛乳を飲ませたら、全員が天向かってブレスを吐く勢いで叫んだ。


 俺は勿論のこと、同じドラゴンであるソフィが「そうであろうそうであろう」と彼らの身上を深く理解した表情で頷いていた。


 その日は、またソフィに深淵の森の木を出して貰って別途彼ら一家の家を建てはじめて何とか夜になる前に完成した。


 アトモスさんの一家にはそこに泊まってもらい、次の日から森人族達にはこれから来るであろう五十人分の家を作ってもらった。


 それから数日後、アトモスさんが予定通りの人員を連れて帰ってくる。


「ほい」


―バキィッ


『我ら一同誠心誠意努めさせていただきます!!』


 そこでソフィに言われた通り、挨拶の前に地面の地盤を軽く割って見せたら、なぜか全員に心服されてしまった。


 それにより、俺とソフィの仕事は大幅に軽減されたのである。

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