第055話 農業地獄からの脱却
やってきた
「我らの森では、出生率が年々下がっているのと、男が狩猟に出て命を落とすことが多かったため、女の方が男より数が非常に多い……ひっ……のです。今回貴重な男は選出せずに女だけが選ばれました」
とは、シルヴィアの言だ。途中で人を見下すようなしゃべり方になりそうになる度に銀狼に威嚇され、言葉遣いを直す羽目になっている。
ダンジョンでもそうだが、戦闘にくり出すのは圧倒的に男が多く、男の方が圧倒的に早死にする。そのため、どの国も男より女の方が多いが、森人族は出生率が低いのも相まってそれがさらに顕著のようだ。
今は貴重な男は里で丁重に扱われていて、シルの捜索隊は女性だけが選ばれたらしい。しかも、出生率の低下にはシルの健康状態が関わっている可能性もあるのだとか。シルが全盛期の時は集落の人数もかなり多かったみたいだ。
シルの精神はまだ生まれ変わっていなくとも、体はこんなにも立派な大木になっているので、もしかしたらこれらエルフの集落の出生率の低下は改善されるかもしれない。
それと、森人族は森を通り抜ける際に汚れたということで、水浴びしたいとなった際に、その場で脱ぎだすのは非常に困惑した。
羞恥心はどこへ行った?
俺にはかなり美しい精巧すぎる人形に近い存在に見えるが、それでも女性に違いないし、視覚的に柔らかさがあるのも理解出来るので、目のやり場が困るし、男の本能としてついつい目を奪われてしまう。
「見るでない!!」
何故かソフィから不機嫌そうに目を塞がれてしまったので、水路から水を引いて彼女たち用の水浴び場を別に作り、壁を建てることで俺から見えないようした上で、そこで着るものを脱いだり、着たりするようにとルールを設けることになったことで事なきを得た。
それにしてもソフィはなんであんなの不機嫌そうだったんだ?
それは今でも謎である。
また、早速森人族に農作業を手伝わせてみると、全員で百人近くも来てくれたおかげで農業がだいぶ楽になった。
彼らは種族の特徴として、土壌や植物の健康状態を把握することができるので、作物ごとに必要な水分量を過不足なく撒くことができるし、土の状態に何か変化があればすぐに気づくらしい。
今まで収穫まで二日以上かかった作物はないが、これから繰り返し育てることによって土の栄養が減り、徐々に生育に時間が掛かるようになる可能性もある。
そうなったら病気や不作になる場合もあるので、とても役に立ちそうだ。
これにより、農業はほぼ森人族に任せることが出来る程度には余裕が出来たため、俺は畑をさらに拡張していく。
エルヴィスさんから催促が続いているからな。
それは止まるまでは拡張し続けるしかないだろう。
それから一週間ほどで拡張が完了し、収穫量が数倍に増えることになった。
「ひとまずこのくらいあれば大丈夫でしょう」
そのおかげでようやくエルヴィスさんから増産しなくてもいいよ、というお言葉をもらえたので、俺はものすごく安堵することになった。
無の大地が広いとはいえ、流石にこれ以上農作地ばかり増えてしまい、家畜が飼えなくなったら意味がない。
俺の最終目標は牧場だからな。
牧場なのに農業しか出来なくなったら本末転倒だ。
それから、彼らの家に関しては、深淵の森の木々を取ってきてやって森人族たちが自分たちで作り上げていた。ちょうどいいのでついでに俺の家も作ってもらった。
とても嫌そうだっが、「俺はお前たちが崇める神から種を託された者。つまり使徒なんだぞ」と言ったら、渋々ながらも作ってくれた。そのおかげで小屋よりも頑丈ではないが、それなりに立派な家ができた。
「なぜだ?一緒に寝ればよかろう?」
しかし、ソフィと俺の個室も作ったし、それぞれのベッドもあるのに、俺の思惑もむなしく、彼女は今までのように俺と一緒に寝ている。
そろそろ俺の下半身も限界に近付いているので、どうにか処理をしなければならないが、町には一人で行くには遠すぎるし、ほとんどソフィと一緒に行動しているので非常に問題である。
一人になるのは便所の時くらいだ。それだけでは少々時間が足りない。犯罪者になる前にどうにか改善しなければならない。
そして、ソフィの勧めもあって、従業員リストを作成することになった。きちんと書類として残しておくことで従業員の管理や報酬の支払いなどをしやすくするためらしい。
そういう話はよく分からないのでソフィに言われるがままに、記入形式を決定し、それを印刷した紙を買ってきて、ソフィ、銀狼、チャチャ、森人族の内容を記入して冊子にし、家に書棚を置いてそこに保管しておく。
契約書や売買証明書などは地盤を蓋にして収納を作りそこに放り込んでおけと言われたので、その通りにした。
また、従業員リストだけでなく、帳簿というものもソフィに教えてもらいながらつけることになった。
ここはどこの国にも属さない中立地帯のため、税金を納めたりする必要はないが、自身の家の支出と収入のお金の流れをきちんと把握したり、管理しておいたほうがいいということだった。
探索者時代からそういうことに無頓着だったでそういう部分に疎いので、ソフィには本当に助けられている。
とはいえ、お金を稼いでもここじゃあ今のところあまり使い道がないので、収入の多くは貯金と仕送りに回してしまっている。
今ではとんでもない金額を稼ぐ農家になってしまった。多少贅沢しても全く使い切ることができないほどだ。それは本当に探索者時代では考えられないことだった。
「そろそろ肉や卵とか食いたいな」
「そうだな。我もドラゴン故、そういった物の方が好きだ」
「よし、家畜を探しに行くか」
ようやく農業が落ち着いた俺たちは、牧場を始めるための家畜を探しに行くことに決めた。
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