第056話 家畜を探して三千里、という程のことはない
俺とソフィの前を小さくなったチャチャがトコトコと先導しながら歩いている。
大きいチャチャも触り心地や寝心地、そして抱き心地などどれをとっても非常に良いが、小さくて愛らしく、尻をフリフリしながら頑張って歩いているように見える姿も非常に可愛いくて甲乙つけがたい。
今すぐにでも抱き上げて頬ずりしたいところだが、チャチャが一生懸命俺たちを案内してくれているのでグッと堪えた。
「チャチャ、本当にこの先に鶏がいるのか?」
「ニャウンッ」
俺の問いかけに少しだけ振り向いて返事をすると、再び前を向いてそのまま進んでいく。
今俺たちがいるのはチャチャと銀狼達を負かした山を越えた辺りだ。周りは深淵の森程に茂ってはいない森というか林というか、そんな場所を歩いていた。
森人族のおかげで農業ばかりやっている生活からついに抜け出すことができた俺は、牧場に森人族と銀狼を残して家畜を探すためにソフィの背中に乗ってやってきたわけだ。
なぜチキンバードなのかというと、図鑑で見る限り、モフモフで抱き心地がよさそうだからというのと、何よりチャチャが自分が住んでいた山の近くにチキンバードが住んでいる場所があるというからだ。
銀狼もモフモフでフサフサなんだけど、抱きかかえるには少し大きい。でも、チキンバードは昔読んだ本によると、大人が抱きしめるのにちょうどいい大きさらしい。
勿論卵も食べたいところだが、まずは何をおいてもモフモフも重要視されるのだ。その次に卵。可哀想なので、基本的には鶏肉にする予定はない。
「ソフィはチキンバードのことは知ってるのか?」
「ん?もちろん知っているぞ。それくらいは当然だ。むしろアイギスは知らないのか?」
俺は実際にチキンバードの姿を見たことがなかったのでソフィに問いかけたんだが、若干呆れるような声色で返事を返してきた。
「ああ。俺はチキンバードを見たいことがない。だから楽しみなんだ」
「まさかこの時代にチキンバードを知らぬものがいるとは思わなんだ」
俺の答え聞いたソフィは、不思議な生き物を見るような眼で俺を凝視した。
「いやぁ、俺はダンジョン以外のことはほとんど知らないからな」
「そんなのだから騙されるのだ」
「返す言葉もないな」
苦笑いを浮かべて頭を掻く俺に、辛辣な言葉を浴びせるソフィ。勿論そこに侮蔑の感情が乗っていないのは感じているし、呆れているのであろうことは理解できる。
俺には肩をすくめるしかできなかった。
「仕方ないから我が騙されないように見ておいてやる」
「いつもありがとうな」
呆れながらも仕方がないという表情で俺を見上げるソフィに俺は感謝を告げた。
今でこそエルヴィスさんとの取引で上手い事農業が軌道に乗っているわけだが、もしソフィがいなければ、エルヴィスさんを助けることもできなかっただろうし、エルヴィスさんと対等に取引できていたかもわからない。
そして買い物の度に値段交渉などもしてくれるので騙されていることもほとんどないだろう。
俺には感謝しかなかった。
「ふん!!我にとってこの程度大したことではないわ」
「そうか……そうだったな」
俺の言葉を聞いたソフィは俺から顔を逸らしてプリプリとしながらズンズンと先へと歩いていく。ここしばらく一緒にいる内に分かったことだが、あの態度は全く不機嫌なのではなく、いつもの照れ隠しだ。
その足取りは軽く、どことなく弾んでいるようにさえ見えるのだから、恐らくこの予想は間違っていないはずだ。
その予想の答えを現すようにソフィのスピードが遅くなり、しばらく歩けば俺の隣に納まり、また二人で他愛もない雑談をしながらチャチャの後を追っていく。
「ニャーンッ」
「どうやらお目当ての相手が見つかったようだぞ?」
「そうみたいだな」
三十分ほど歩くと、チャチャが振り返って元気に鳴いた。俺たちは顔を見合わせて次の家畜を手に入れることへの期待に胸を膨らませた。
「おお、あれがチキンバード」
「むっ。確かになんだか淡く光っているような気もするが、チキンバードに間違いないだろう」
彼らが居たのは林の中に静かに佇む小さな泉。そこにだけ光が差し込んで幻想的だ。
そんな泉の傍に二十羽程の鳥が水を飲んだり、毛づくろいをしたり、ぼーっとしていたり、仲間とじゃれあったりしている。
確かにソフィの言う通り、なんだか体表が輝いている気がする。実際に見たことがあるわけではないからよく知らないが、それもチキンバードの特徴なのだろう。
「どうやって捕まえるつもりだ?」
「銀狼みたいに力で打ち負かすのはダメなのか?」
「あやつらは臆病だ。すぐに逃げてしまうであろう」
小声のソフィの質問に前回同様の作戦でいこうと思っていたのだが、すぐに否定されてしまった。
そうか、力比べで勝てばいいというだけではないんだな。
それではどうしたらいいのだろうか。
そういえば、昔猫探しの依頼をした後で、その猫に餌をあげたことがあった。そのおかげか、見つけた猫は俺に一番懐いたことを思い出す。
チャチャには通用するだろうが、他の動物にも使えるのかは分からない。ましてや野生の動物となれば、いつぞやの猫のように人馴れしてないだろうし、難しい可能性もある。
「それなら餌付けするのはどうだ?」
そう言ったことも考えながら提案してみた。
「ふむ。悪くないだろう。こちらにはとんでもなく美味い野菜があるからな」
却下されるかと思いきや、ソフィはなんでもないことのように受け入れてしまった。
「そうか。確かモロコシーが好物だと読んだ覚えがある」
「うむ。早速やってみようではないか」
俺たちはソフィの亜空間倉庫からモロコシーを取り出してチキンバードの下にこっそりと近づいていく。
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