第040話 お・や・く・そ・く

「いいか?こうやって耕して、そこにこうやって植えるんだ。わかったか?」

『ウォンッ(ナーン)』


 俺は銀狼たちとチャチャに畑の耕し方を実演しながら教えたら、彼らは自分たちで耕すのも種まきも、そして収穫までできるようになった。


 これで彼らには、害から拠点を守りながら留守の間も、手の届く範囲で栽培もしてもらえる。


 防壁と留守番により、拠点の守りがある程度形になったので、俺たちは町に行くことにした。


『それではアイギス。乗るがいい』

「今日は少し小さいな?」


 ソフィはいつものように変身したが、本来のサイズよりも小さく、四~五メリルほどの大きさになっている。


『うむ。普段の大きさでいくと混乱を呼ぶため町にあまり近づけぬからな。この大きさなら歩いて数刻くらいのところまで近づいても大丈夫であろう』

「そんなこともできるのか。便利だな」

『そうであろうそうであろう』


 まさか大きさの調整もできるなんてな。


 でも確かにあんな大きな体で町に近づいたら、一般人はモンスターとかもみたことないかもしれないし、驚くか。


 俺はソフィまでとは言わないまでも大きなモンスターも見慣れていたから全然怖くなかったけど。


「よっと」

『うむ。乗ったようだな』


 俺は軽く跳んでソフィの背中に飛び乗った。ソフィはそれを確認して上昇し始める。


「それじゃあ、留守は頼んだぞ。銀狼たち、チャチャ」

『ウォーンッ(ナーン)』


 俺は上昇の最中、チャチャたちに声をかけて、町に向かった。


「やっぱり空の旅は気持ちがいいな。こんな体験ができるのもソフィのおかげだ」

『ふはははっ。我の背に乗せるのはお主だけなのだからな。感謝せよ』

「ああ、ありがとう」


 俺がソフィをほめたら、彼女は尊大に振る舞うが、それがとても似合っているので、素直に感謝する。


 俺が徒歩で二週間かけて歩いてきた道のりをソフィは半日もかからずに飛んでいけそうだ。


 無の大地から深淵の森や山に行く時は平地と遠くに森や山が見えるだけだったけど、こっちは草原や森、川、湖など様々な景色が流れていく。


 町に行ったらまずは誰かに農作物の売り方を聞かないといけないな。そういうことは全く知らないし。


 お金が手に入ったらソフィの服や普段使う毛布や食器などを最優先で購入して、仕送りを依頼して、一泊して可能であればちょっとでも料理を勉強するか、販売金額によってはレシピを買ったり、人を雇ったり、奴隷を買ったりしてもいいかもしれない。


『むっ』

「ん?どうかしたのか?」


 俺が考え事をしていると、ソフィが何かに気付いたような声を出す。


『うむ。どうやら馬車が襲われているようだぞ?』

「何?どこだ?」

『あそこだ』


 ソフィは少し先を指さして見せる。


 確かに猛スピードで馬車が走り、その周りを迷賊にも似たガラの悪そうな男たちが取り囲んでいた。


 どうやら外には迷賊はいないと思っていたが、俺が遭遇しなかっただけらしい。気付かなかったのならまだしも、気付いてしまったら見て見ぬふりはできない。


「よし、ちょっくら助けに行ってくる」

『あ、おいちょっと待て!!』

「大丈夫だ。このくらいの高さなら死にはしないさ」


 俺はソフィの制止も聞かずに飛び出す。


 大方俺のことを心配してくれてるのかもしれないけど、たぶんこの高さくらいから落ちても問題ないはずだ。


 猛スピードで地面が近づいてくる。


「誰もおぬしの心配などしておらぬ!!こらぁあああああっ!!」


 後ろでソフィが何か言っているが耳元で風がビュービューと鳴っていてよく聞こえなかった。


 大したことじゃないだろう。


 体制を変えると、落ちる位置を調整できそうなので、迷賊もどきの上から強襲する。


―ズドンッ


 しかし、慣れない俺はそのまま地面に着地……できなかった。なぜなら地面に穴が開いて俺は埋まったからだ。


 いかんいかん失敗失敗。


『ヒヒヒヒヒーンッ』


 穴の外では馬が嘶いている。どうやら止まってくれたらしい。


 俺が自分が開けた穴から這い出すと、迷賊らしき男達に馬車同様に取り囲まれてしまっていた。


「何者だ!?」

「こいつ空から降ってきたぞ!!」

「何者と言われても通りすがりの牧場主だ」

「牧場主だぁ!?舐めてんのか!?あぁん!!」


 ざわざわと騒然となる迷賊もどき。何者と聞かれたので正直に答えたらなぜかキレられてしまった。


 解せぬ。


「まぁいい。いい度胸じゃねぇか。邪魔するならお前には死んでもらうしかないな」


 気を取り直した迷賊もどきたちが抜刀して俺に武器を突きつける。正直迷賊よりも弱い気配しかしない。


 雑魚だな。


「今なら見逃してやるからやめておいたほうがいいぞ?」

「てめぇ。マジで舐めやがって!!許さねぇ!!」

「なんでこうなるんだ?」


 忠告したはずなのになぜかキレられてしまった。迷賊もどきが俺に切りかかる。


―バキンッ


「へ?」


 俺は特に躱すこともなく、攻撃を受けた。相手の剣がすさまじい音を立てて折れて切っ先がどこかに飛んでいく。


「ふげぇ!?」


 間抜け面を拝む趣味はないのでほんの軽く殴ったら大げさに吹き飛んで気を失った。普通に迷賊より弱かった。


「てめぇ!!」


 それを皮切りに俺に次々と切りかかってくるが、全て一度も躱すことなく叩き潰してやった。馬車を取り囲む男達もただごとじゃないと応援に来るが、弱すぎて話にならなかった。


「これはこれは助けていただいて誠にありがとうございます」


 すべての迷賊もどきを倒し終えると、人が馬車から降りてきて近づいてくる。


 彼は恰幅のいい体を仕立てのいい服で包みこみ、人好きのしそうな笑みを浮かべていた。

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