第039話 元仲間達の不調(第三者視点)

 世界最大のダンジョンの二十八階層。男一人、女二人の探索者パーティがモンスターと戦っていた。


「はぁ!!」


 前衛で剣を振るうのは剣士のアルバ。


「しっ!!」


 中衛から後衛で矢を放つのは弓士のルリ。


「ストーンニードル!!」


 後衛で地面から硬い岩の棘が生える攻撃魔法を唱えるのは魔導師のリーナ。


 アイギスの元仲間達である。


「グギャッ」

「ちっ!?」


 しかし、モンスターは着実に減ってはいるが、押され気味だ。


 今戦っているのはゴブリンの亜種レッドキャップ。


 ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンキングなどの系譜とは違うが、その戦闘力はかなり高く、その上残忍な殺し方を好み、繁殖よりも殺戮を優先する。


「アローレインッ!!」


 ルリが敵を何匹も巻き込む範囲攻撃のスキルを使用し、敵に致命傷やけがを負わせた。


―ギロリッ


 その矢にダメージを負った何匹かが、ルリにターゲットを変更し、こぞって向かっていく。


「くっ……!!」


 突然自分にむいた敵意に軽やかに後ろに下がりながら弓を放つルリ。一匹、また一匹とモンスターは消えていく。


 しかし、バックステップで下がりながらと、全速力で向かってくる敵とではスピードが違いすぎる。


 何匹かはルリに徐々に近づいていく。


「ルリッ!!」

「グギャッ!!」

「ちぃっ!?」


 それに気づいたアルバはレッドキャップを倒して助けに行こうとするが、次の標的が現れてなかなか助けに行けない。


 得意技であるサンダーストラッシュを放てればある程度一掃できるのだが、敵はそんな暇を与えてくれない。


 敵に攻撃する際に自分にヘイトが向いているので溜めの時間がないのである。アイギスが居た時は、ヘイトの全てをアイギスが引き受けていたので、溜めの時間など気にする必要などなかったが、今はそうはいかない。


 それは自身の攻撃によって敵のヘイトを集めたルリも同様である。


「サンダースパーク!!」


 なんとか二人が敵のヘイトを集めている間に次の詠唱を完成させたリーナ。


『グギャアアアアアアッ』


 空中に浮いた雷の球体から、選考が飛び散り、モンスターを殲滅していく。


「よしっ!!」


 ルリに向かっていたモンスター達も倒れて、後顧の憂いがなくなったアルバは、押さえていたレッドキャップを押し返し、切り捨てた。


「サンダーストラッシュ!!」


 そして残りのモンスターが狼狽えている内に溜めに入り、自身の代名詞と言えるスキルを発動し、そのモンスター達を殲滅。


 今彼らの周りにいるモンスター達はいなくなった。


「はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……」


 洞窟の空間内に三人の荒くなった呼吸だけが聞こえる。


「くそっ!!」


 アルバが開口一番に悪態をついた。


 なぜならたった一回の戦闘で息が上がり、ギリギリの戦いになったからだ。


 アイギスが居たころは、アイギスがヘイトも攻撃も全て受け切っていたので彼らは目の前の敵や、アイギスに群がる敵を殺すだけで良かった。


 しかし、アイギスがいなくなった今となっては、周囲警戒に意識を割かなければいけなくなったり、他のメンバーのヘイト管理まで注意する必要が出てきてしまったり、慣れないことをやらざるを得なくなってしまった。


 そのせいで今まで温存できた力を使わざるを得なかったのである。


 さらに、いくら戦っても同じような結果に終わり、自身達の最高到達階層である三十二階層では戦いにさえならなかったことも、アルバをイラつかせる原因でもあった。


 そして、その原因がアイギスの追放にあることを彼らも薄々気づき始めていた。


「はぁ……。やっぱりもう一人のメンバーを入れましょう。これでは力が発揮できないわ」

「そうだね。アイギスが出来たことくらい、他の盾役タンクでも簡単にできるでしょ。それで問題解決だよ」

「ちっ。しょうがねぇか。こんな所で俺達が止まるような雑魚じゃねぇからな」


 ただ、アイギスのおかげというよりは盾役が一人いれば問題ないと楽観的に考えている。


 アイギスのその圧倒的な防御力の事を知らない彼らは、普通の盾役をパーティに居れれば解決できると思っていた。


「そうと決まったら、早速帰ってギルドに斡旋を頼むぞ」

「分かったわ」「うん」


 彼らはこれ以上戦うのは無駄だと考えて切り上げて街に帰ることにした。


「サンダーストライクの皆様、おかえりなさいませ。今日はどのようなご用件でしょうか」

「ああ。ちょっと盾役を探していてな。良い奴はいないか?」

「そういうことですか。少々お待ちください」


 今日もアイギスの退会手続きをした受付嬢ユイナが対応する。


 アルバの言葉を聞いたユイナは案の定という気持ちで現在フリーで潜っている盾役のギルド員のリストの確認を始めた。


「そうですね。今紹介できるのは三人です。いずれもCランクの探索者のため、皆さんよりもランクは低いですが」

「ちっ。仕方ねぇ。その三人と会わせてくれ」


 自分たちよりもランクが低いと聞いて苛立つが、いないものはいない。アルバはいないよりもマシだと考えて、その三人と会うことにした。


「分かりました。でも、くれぐれも揉め事は控えてくださいね?」

「そんなもの起こすわけないだろ!!」


 自分の事を他の人間のように持ち上げないユイナにカッとなるが、ここは冒険者ギルド。自分よりも上位の人間はいくらでもいる。ここでユイナに手を出せば、降格、最悪除名もあり得る。


 アルバはなんとか気を落ちつけながらも、苛立った様子を隠すこともなく返事をしてギルドを後にした。


「やれやれ。この調子では紹介した人たちとも揉めそうですね。念のため、保険をお願いしておきましょう」


 その様子を見ていたユイナは、ため息を吐いて最悪の事態にならないように手を打つのであった。

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