第041話 助けた人物の正体……それは!?

「いや、気にしないでくれ。たまたま通りがかっただけだからな」

「いえいえ、そうもいきませんとも。あれほどの盗賊に襲われたのに助かったのはあなた様のおかげですからね。ぜひともお礼をさせていただきたい」


 礼をされるまでもないほどに相手が弱かったので気にしなくてもいいんだが、彼はそれでは気が済まないようだ。


 あの迷賊もどきどもは外では盗賊というらしいな。そんなことはさておき、お礼と言われても特に思いつかない。


「それなら町まで乗せてってくれ。それだけでいい」

「うーん。それは、護衛が全てやられてしまったこちらとしては、願ってもない話ですから礼にはなりませんよ」


 絞り出した答えだったが、それはむしろ彼の利益になるということで却下になった。


 利益ということで思い出したが、俺は町に農作物を売りに行く途中だ。


「そうか?それならどこか商人に伝手はあるか?もしあれば紹介してほしい」


 だから、もし誰か知り合いがいれば紹介してもらうのがいいだろう。


「おお!!商人をお探しですか!?何を隠そうこの私、商いを営んでいるのです。名をエルヴィス・カーンと申します。以後お見知りおきを」

「そうだったのか。アイギスという。こちらこそよろしく頼む」


 商人を紹介してもらおうと思ったら、助けたエルヴィスさんがまさか商人だったとは。


 確かに言われてみれば、仕立てのいい服を着ているし、良いものを食べているだけに恰幅も良い。それに馬車に沢山の箱が積んであるのが見える。


 商人と言われればその通りだった。


『これ!!お主!!』


 そこにバサァと降りてくるソフィ。


「ド、ドドドド、ドラゴンッ!?」


 ソフィを見た瞬間怯えて後ずさるエルヴィスさん。


「エルヴィスさん、こいつは危害を加えたりしない。安心してくれ」


 俺はエルヴィスさんを安心させる。


 それにしてもドラゴンって恐怖の対象なんだな。そうなると、ソフィが言っていた町を消し飛ばすとかいう話もあながち間違っていないのかもしれない。


 俺は自分以外の反応を見て初めてソフィの力を少し実感する。


『全く、お主というやつはいきなり飛び降りおって!!』

「心配かけて悪いな」


 俺に顔を近づけて怒鳴り散らすソフィ。


 心配の裏返しだと思って苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


『心配などしておらんと言っておろうが!!それよりも空から飛び降りるからあんな風に地面に穴を開けることになるのだ。少し高度を落としてからでもよかったであろう!!』

「それもそうだな……」


 しかし、ソフィは本当に心配してなくて、あの高さから落ちたら地面に穴が開くという方を考えていたらしい。


 言われてみればそうだ。


「あの……そ、そちらのドラゴンさんとは、お、お知合いですか?」

「ああ。うちの牧場に居候している。ちょっとソフィ。馬車の裏で変身してきてくれ。エルヴィスさんが怯えている」


 エルヴィスさんが恐る恐る尋ねてくるので答えた後で、ソフィに人間になってもらうことにした。


 俺自身ソフィの裸は直視できないが、エルヴィスさんに見られるのはなぜかもっと嫌だったので、見えないところで変身するように頼む。


『そうであったな。しばし待っておれ』


 ソフィはそう言って軽く羽ばたいて馬車の裏手に飛んでいった。


「待たせた」


 数十秒で戻ってきたソフィはきちんと俺のローブを羽織ってきた。


 よかった。真っ裸でやってこなくて。


「え?」


 ソフィの姿を見るなりエルヴィスさんは間抜けな声と顔をした。


 その気持ちは俺もわかる。


 まさかあんなに大きなドラゴンがこんなに小さな女の子になるとは思わないからな。人間形態は俺よりも全然小さい。


「えっと……どちら様で?」


 ソフィだと分かっているけど、確認せずにはいられないといった感じで、エルヴィスさんがおずおずと尋ねた。


「我はソフィーリア・オニキス・ドラクロアという。よしなにな。それと分かっておろうが、我のことは他言無用だ。竜人のソフィとして扱って構わぬ」

「は、はい。わかりましたでございます!!」


 ソフィが尊大な態度で名乗った後、その爬虫類を思わせる瞳でぎろりとにらみつけた。途端にエルヴィスさんはガクガクと震えながらビシリと軍隊のように敬礼してみせる。


「こら、威嚇するな」


 俺はソフィの頭に拳骨を落とす。


 怯えさせたらせっかく見つけた商人なのに取引してもらえなくなるかもしれない。


「いったぁ!!何するのだ!!」

「お前がエルヴィスさんを威嚇するからだろ?」

「す、すまぬ」


 抗議するソフィに言い返すと、ハッとした表情になってソフィはエルヴィスさんに軽く頭を下げた。


 素直でよろしい。


「いえいえ、お、お気になさらず……」


 エルヴィスさんはあたふたしながらも笑って許してくれる。


 なかなか懐が深い人だ。


「それで、町まで乗せていってもらうことは可能だろうか?」

「ええ。先ほども申し上げましたが、こちらとしてはあなた方のような強い方にご同行願えるのはありがたいことですので問題ありませんよ。ぜひお願いします」

「そうか、よろしく頼む」


 俺たちはエルヴィスさんの馬車に乗って町に行けることになった。盗賊たちはまとめてふんじばって荷台の隙間に詰め込んだ。


 その場に残っていた馬はつないで連れていくことになった。

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