第014話 元仲間達の違和感(第三者視点)

「アルバ、そろそろ探索に戻りましょ」

「んあ?それもそうか。アイツがいないから楽しくて少し長く休みすぎたな」

「ホントだね」


 ベッドの上で一人の男と二人の女が話している。布団の端から覗く肌から三人の関係が窺える。


 彼らはアイギスの元パーティメンバーであり、幼馴染のアルバ、ルリ、リーナの三人であった。


 彼らは、アイギスがいなくなったことで歯止めが効かなくなり、怠惰で爛れた生活を送っていた。


 アイギスを解雇した三人は、彼が参加した最後の探索で大きな報酬を得ていた。長い期間潜っていたので、依頼と拾得物で暫く遊んで暮らしても問題ないくらいの金額になっていたのだ。


 そのため、彼らがアイギスが街を去ってから今まで、ダンジョンにも潜らずに遊び呆けていたのである。


「お金も目減りしてきてるわ。また稼いでまたゆっくりしましょ」

「それもそうだな」


 お金の管理をしているリーナの言葉にアルバは頷いた。


 三人は身だしなみを整え、如何にも熟練の探索者であるという質の良い装備に身を包み、探索者組合へと向かった。


「あ、サンダーストライクの三人が来たぞ!!」

「ホントだ。かっけぇええええええ!!」

「マジでやばいよな!!」


 探索者組合に向かった三人は新人たちの熱烈な視線と感嘆の言葉に出迎えられる。三人とも何食わぬ顔をしているが、内心では自分に酔いしれるように自己承認欲求が満たされていた。


 新人たちはアイギスがいないことを全く気にしていない。


「よぉ」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」

「俺たちにちょうどいい依頼はあるか?」


 アルバは受付嬢の一人に話しかける。その受付嬢はアイギスの退会の手続きをした人物であり、名をユイナという。


「そうですね。今はそれほど大きな依頼がないのでCランクの依頼。エビルスネークの牙を二十個納品していただくというのはいかがでしょうか?」


 受付嬢はアルバの言葉を受け、彼らのサンダーストライクが受けられる依頼を探して提案する。


 アルバ達サンダーストライクは、Bランクの探索者パーティだ。


 探索者のランクは上から、S、A、B、C、D、E、Fの順になっており、彼らは上から三番目。この世界では成人が十五歳であり、彼らは五年という期間でそのランクを駆けあがり、二十歳という若さでその地位に付いた。


 ただ、彼女はアイギスの実力もある程度把握していたし、アルバ達が最近全くダンジョン探索もしてなかったようなので、少しランクの低めの依頼を出したのである。


「ん~、まぁ少し物足りない気もするが、休み明けならそんなもんでいいか」

「そうだね。あんまり無理するのもよくないと思うよ」

「んじゃそれで」


 アルバとしては普段相手にしているモンスターよりも少し弱い相手に少し不満だったが、ルリの取りなしでその討伐依頼を受けることにした。


「しばらく休んでいたし、この依頼で体を慣らしていきましょう」

「そうだな」


 依頼を受けた彼らはダンジョンに向かった。


 ダンジョンは階層構造になっており、各階層を降りてすぐのセーフティルームにある転移柱に触れて念じることで、一度訪れた階層には一瞬で移動できるような仕組みになっていた。


 転移柱とは、モノリスのような見た目をした、表面に複雑な模様が刻まれている柱の事である。初めて訪れた階層で転移柱に触れると、その階層が登録され、以後その階層に一瞬でやって来れるようになるわけだ。


 ダンジョンであれば必ず存在していて、どこの転移柱も同様の機能を備えていた。


 そして現在。


 世界最大のダンジョン都市であるこのラビリオのダンジョン『パンドラ』は、Sランクパーティによって五十四階層まで到達されているが、未だに最下層は見えていない。


 そんな中で、サンダーストライクは三十二階層まで到達していた。今回相手にするエビルスネークは二十五階層の森林エリアに生息している。


 彼らは特に考えることもなく、そのまま二十五階層へと跳んだ。


「それでモンスターはどこだ?」

「ちょっと待って。探知サーチ


 二十八階層へとやってきたサンダーストライクは、今回の依頼対象を探すため、魔法使いであるリーナが周囲のモンスターや人間などの気配を察知できる魔法を行使する。


「あっちにちょうど良さそうな群れがいくつかあるわね」

「それじゃあ、行ってみるか」

「私が斥候するね」


 探知によってモンスターの居場所を特定した彼ら。


 身軽で隠密術にも長けた弓使いのルリが木の上に登って、前の様子を確認しながら進む。


「見つけたよ。数は十匹。この先百メートルくらいの所に居る。どうするの?」

「そのくらいなら余裕だろ。いこうぜ」

「そうね」


 ルリの言葉に、普段戦っている相手よりも相当格下のモンスターのため、その程度の群れなら大丈夫だと考えて、彼らは攻撃を仕掛けることにした。


―ズバァンッ


 アルバの先制攻撃でエビルスネークが一体切り裂かれて絶命する。


『ギシャァアアアアッ』


 残り九匹のエビルスネークが突然現れた敵に首を持ち上げて威嚇しはじめた。


 エビルスネークは人間の胴回りくらいの太さはある巨大な蛇で、その暗い紫の色と邪悪な模様がその名をよく表している。


『ギシャァアアアアッ』


 九匹が一斉に彼らに攻撃を仕掛けてくるが、勿論、それぞれに三体が襲い掛かった。


「ちっ」


 アルバはまさか敵が分散するとは思っておらず、急いで襲いかかってきた三体を切り捨て、一番防御力と回避能力の低いリーナを助けるために、彼女の方に向かう。


「ファ、ファイヤーニードル!!」


 リーナは自分に迫ってくるモンスターに驚き、魔法を発動する。しかし、彼女が発動した炎の無数の針が敵に向かって飛んでいく魔法は、明後日の方向に飛翔して外れてしまった。


「え?」


 最近はそのようなミスをすることはなかったのだが、あまりの衝撃に呆けた表情をするリーナ。


「ばか!!くそっ」


 敵を前に呆けるリーナに悪態をつき、アルバは彼女を助けるために防御を捨ててリーナの前に全力で割り込んで蛇たちの攻撃を受けるが、全て受けきることは出来ずに、何カ所か傷をつけられてしまう


「ぐっ!?」


 アルバは暫く受けていなかった攻撃と、その痛みに顔を歪めた。


「アルバ!?」

「大丈夫だ!!せいや!!」


 アルバに攻撃を受けさせてしまった心配するリーナだが、すぐに体勢を立て直して一匹のエビルスネークを切り裂く。


「このぉ!!サンダーアロー!!」


 一方でルリは木の上から雷の魔法が付与された矢を連続で発射する。


『ギシャアアアアア』


 三匹ともに当たるが、モンスターの攻撃を躱すために木の上を飛び回りながら放ったため、狙った場所には当たらずに、魔法によって軽く痺れさせるにとどまった。


「うぉおおおおおお!!」


 リーナに襲い掛かったエビルスネークの内、残り二体を切り捨てるアルバ。彼はそのままルリの方に襲い掛かっているエビルスネークの許に走る。


『サンダーストラッシュ!!』


 ルリに気を取られているエビルスネークに渾身の技を叩きこむ。


『グギャアアアアア』


 雷を伴った斬撃が飛んでいき、三体のエビルスネークの体を切り離し、雷の追加ダメージを与えた。 


 ジュウウウウウッと肉が焼ける音が聞こえ、その後に気裂かれた上半分が地面に落ちて軽く辺りを揺らす。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 アルバは息が上がる。逃げまわっていたルリも同様だ。


「だ、大丈夫二人とも!?」


 ただ一人、動き回ることのなかったリーナが二人に駆け寄ってくる。


「今日は……はぁ……休み明けのせいか……ちょっと苦戦したな……はぁ……」

「ええ。ちょっと久しぶりにモンスターが私の方に来て焦っちゃったわ」

「私も……はぁ……ちゃんと止まって狙えなくて……はぁ……矢にちゃんと力を乗せられなかったよ……はぁ……」


 ルリとアルバは息を荒げながら、リーナは普通の状態で、今の戦闘を振り返る。


 自分たちでも信じられない程に苦戦した。それは三人とも理解している。


 ただ、それはどれもこれも敵を引き受けていたアイギスがいなくなったせいだったのだが、アイギスが何もしていないと思い込んでいる彼らは、休み明けの違和感だと断じてしまった。


「ちょっと今日は気を付けて戦った方がいいかもしれないな」

「そうね。次からはもう少し小さな群れを狙いましょ」

「そうだね」


 違和感がある状態で数の多い群れを相手にするのは危険だと反省した彼らは、次からはもっと少ない群れを狙い始めた。


 それから彼らはいくつかの群れを潰し、最終的に依頼を達成できたが、いまいち力が発揮できないという違和感を、最後まで払しょくすることは出来ないのであった。

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