第013話 最強を超える最硬(第三者視点)
「むあっ?」
間抜けな声を上げて目を覚ましたのは、見た目は青みがかった光沢放つロングヘアーと漆黒の瞳をもつ角を生やした美少女ではあるが、その正体は
「ああ、そういえばそうだった」
起きるなり見覚えのない場所にいたため、眠気眼のまま辺りをキョロキョロと見回し、自分がどういう状態になっていて、どこで寝ていたのかを思い出す。
狭いテントの中で、彼女の目の前には一人の人間の男が眠りについていた。
「まさかこんな雄がいるとはな……」
ソフィーリアは、眼前の男を眺め、今日の出来事を思い出しながら呟く。
彼女は高位古代竜の中でも最強であり、他のドラゴンでは足元にも及ばない程に強い。生まれたころから負け知らずで、他のどんなドラゴンも彼女の攻撃を止められる者はいなかった。
しかし今日、その彼女の攻撃を受け止められる存在が現れた。
それがソフィーリアのすぐ前でグースカと寝ているアイギスである。
アイギスはしばらく寝付けなかったものの、一ヶ月半程の旅の疲れが出たせいか、気づけばその寝入っていた。
「まさか我の攻撃が何一つも効かぬとは……」
彼女は自身が振り下ろした前足も、尻尾の払いも、ブレスも何もかもアイギスに一切のダメージを与えることも出来なかったことを思い出しながら呟く。
「一体どんな体をしておるのだ……」
ソフィーリアは何の警戒心も抱かずに寝ているアイギスの頬を突っついた。そこには硬さだけでなく、きちんと人間の肉の柔らかさが存在していた。
「全く持って不思議だ」
ソフィーリアは、柔らかさを持ち合わせているにも関わらず、なぜか自身の攻撃が一切通じない目の前の存在を不思議そうに見つめる。
「その上、この無の大地の地盤を割るとは……ここは神々の戦いの跡地。善神と悪神が戦った結果、ここはこのような何人も破壊できない真っ平な地盤に覆われた不毛の大地となった。その大地を破壊できるなど尋常ではないぞ」
そう、人間に無の大地のことを知る者はいないが、ソフィーリアは数千年の時を生きるドラゴン。親の世代にこの土地のことも伝え聞いていた。
ここは、地上に降りて悪さをして世界を滅ぼしかけた悪神を止めるため、善神が降臨して戦闘になった場所で、お互いの本気の攻撃がぶつかり合った結果、地盤が硬質化し、何物も通さない地盤が出来上がってしまった土地である。
神の御業によって出来上がったその土地は、本来何人たりともその普遍性を犯すことは出来ないはずだった。
しかし、その普遍性をアイギスはいともたやすく打ち崩し、内部に溜まっていた水を湧き出させ、普遍性の及んでいない土を露出させた。
その所業は明らかに異常である。
「こやつは全く理解してなかったがな……」
ソフィーリアは日中のアイギスの様子を思い出しながら、再びアイギスの頬をツンツンとつつきながら微笑みを浮かべていた。
「まぁ……普通に教えてしまうのも面白くないし、なんだか癪だから、暫くは教えてやらんがな。くっくっくっ」
その微笑みは悪だくみを企む子供のような笑みを変わる。
彼女は生まれてこの方、”敗北”を味わったことがなかった、目の前で規則正しい呼吸を繰り返し、呑気に眠っている男に出会うまでは。
その可愛らしい報復のようなものである。
「こやつに興味をもって、本調子でないと嘘をついて様子を見ていたが、それは正解であった」
彼女がここに留まったのは、体の不調などではない。なぜなら、吹き上がった水で受けたダメージは脳を揺らしたせいで気を失ってしまったものの、すぐに抜けていたからだ。
本当の目的は、破壊不可能なはずの地盤を破壊し、自身の攻撃も一切通じない、アイギスを近くで観察するためだった。
そのおかげで、ソフィーリアは彼女にとって新鮮な反応をいくつも体験することができた。
破壊不能な地盤を簡単にブロックに切り出したり、高位古代竜であるソフィーリアを普通の女性として扱ったり、彼女がアイギスを力で動かすことができなかったり。
それはこの数千年生きてきて初めて経験する出来事ばかりであった。
「今日ここでアイギスに出会ったのも何かの縁だ。此奴の一生は百年程度。それなら我にとっては大した時間でもないし、その程度ならこやつを観察して過ごすのも悪くないかもしれぬ」
ソフィーリアは今日だけでこの数千年で一度も味わえなかった興奮を複数体験した。この男の傍にいれば、その体験をもっとできるのではないか考えた。
「我の初めてを奪った責任はとってもらわねばなるまい。くっくっく」
自身に敗北を与えた目の前の男を可笑しそうに笑いながら、今後の事を思い浮かべながら楽しそうに語る。
ただ、彼女自身、自分の中に芽生えた初めての感情には気づいていなかった。
そう。それは一人の雄に惹かれているという淡い感情。
ただ、それはアイギス自身のとんでもなく規格外の力に興味があるという気持ちの中に埋もれているため、その気持ちがいつ花開くのかは今は誰も知らない。
果たして開花する時は来るのだろうか。
それは神のみぞ知る。
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