第045話 お買い物と仕送り
「そういえば、こちらには商品をお売りに来られただけですか?」
「いや、他の農作物の種があれば買いたいと思っているし、生活に必要なものを改めて揃えたい」
商談を終えた俺たちは、この街に来た理由を問われたので、他にもやりたいことがあることを伝える。
往復一日かかるのだ。ただ野菜を売るだけというのは勿体ないので、町の中で出来ることは極力済ませたい。
「そうでしたか。それでしたら今日はもう遅いので、明日売り場をご案内いたしますよ。それと、今日はウチに泊まっていってください」
「いいのか?」
「ええ。もちろんです」
まさかの申し出に驚いて問い返すが、エルヴィスさんはニッコリと笑って快諾してくれた。
そこに悪意は感じなかった。
騙されたのを見抜けなかった俺が言っても説得力は皆無だが。
「それはありがたい。それと、俺が世話になった孤児院に仕送りをしてやりたいのだが、可能だろうか?」
買い物は勿論だが、これだけ稼げるとは思っていなかったので、出来れば早く仕送りしてやりたい。
「ええぜひ。それでしたら商業ギルドで手続されるのが確実でしょう。商業ギルドには登録されてますか?」
「いや」
なるほど。
探索者のギルドがあるように、商売に関するギルドもあるわけか。
探索者ギルドでもお金を預かってくれる仕組みがあったし、仕送りもできた。それが商業ギルドでも出来るというのなら登録して置いた方がいいだろうな。
「そうですか。本来ならこうやって商いをする前に登録する必要があるのですが、私から話をすれば問題ないでしょう」
「何から何まで助かる」
それもそうだ。
探索者としての依頼を受けたり、ダンジョンに潜る前に登録が必要だった。当然商売をする前にギルドに登録するのが筋だ。
勝手に商いをされたらギルドも面白くないだろう。
エルヴィスさんは有力な商人みたいなので、その辺りを取りなしてくれる腹積りなのだろう。
無知な自分にとって感謝しかなかった。
「いえいえ、こちらはいい商品を買わせていただきましたし、これから商品を購入していただくお客様。その上、命の恩人ですからね。このくらいのことはさせていただきますよ」
「お言葉に甘えさせてもらおう」
今後の予定を決めた俺たちは、商会のすぐ近くにあるエルヴィスさんの家に招待された。
そこで先ほど顔合わせした長男のリビータさんと奥さんのアニータさん、それと長女のアリーさん、次男のサントスさんを紹介された。お人好しなエルヴィスさんの家族だけあって、全員いい人たちだった。
「ふぅ。疲れたな」
「うむ。しかし、食べさせてもらった料理はなかなか美味かった。アイギスの牧場で取れた野菜を使えば、より美味かっただろう」
「それは確かに。料理人とか居てくれたらいいよな」
「そうだな。そうすれば毎日美味い料理が食べられる」
俺とソフィは一つの客室に案内された。そこにはベッドが二つ用意されている。流石に好意で部屋を貸してくれた手前、別々の部屋にしてくれとは言えないので、仕方なく一緒に部屋で過ごす。
それぞれのベッドに横になり、軽く雑談をする。
「うちの牧場まで来てくれる人は余程の物好きだろうけどな」
「そうであろうな。まぁ、アイギスの育てた農作物が有名になれば料理人の一人や二人、尋ねてきてくれるやも知れぬぞ?総じてそういう輩は研究熱心だし、モンスターから食材を取るために結構強かったりするから、無の大地にもたどり着けよう」
「そうなったら嬉しいな。そうなることを願って野菜を作り続けることにしよう」
「うむ」
いつかウチの農作物を使いたい、そう言って牧場を尋ねてくれるような人が現れるくらい美味い農作物を作りたいものだな。
俺たちはどちらともなく、口数が減り、いつしか眠りに落ちていた。
次の日、俺たちはエルヴィスさんに厚意に甘えて、商会の商品を見せてもらったり、懇意にしている店を紹介してもらって必需品や家具や農具の類を販売してもらったりした。
購入した商品はソフィが全て亜空間倉庫に入れてもってくれた。亜空間倉庫がなかったとしたらゾッとする。
「ん?」
「どうかしたのか?」
「いや、気のせいみたいだ」
買い物の途中ちょいちょい、首の当たりにむず痒さを感じたけど、特に何かあったわけでもないので、そのまま買い物を続けることにした。それ以上何かが起こることはなかった。
「それじゃあ、最後に商業ギルドに行きましょう」
「よろしく頼む」
俺たちは最後に商業ギルドで会員登録を行った。
エルヴィスさんがギルド内に入るなり、職員がVIPをもてなすであろう応接室に案内されることになったので、それに従って俺も一緒についていく。
そこで会員登録を行い、登録料と会員料を納めることでランクが二つ上がってDランク商業ギルド員となった。
さらに仕送りに関してもスムーズにやり取りでき、金貨を二百枚、孤児院に仕送りできた。
町でやりたいことを全て終えた俺たちは、エルヴィスさんと別れ、帰路に就いた。ムズムズは街から出たら何事もなくなったが、いったい何だったのだろう。
まぁどうでもいいか。
別に体に何か異常があるわけでもないので気にしないことにした。俺たちはその日のうちに牧場に帰還を果たすことができた。
■■■
一方、アイギスが仕送り手続きをした後の世界最大のダンジョン都市のとある孤児院の院長室。
「金貨二百枚!?」
「なんだ?どうしたんだ?」
老齢の女性が叫ぶと、何事かと初老の男性が駆け込んできた。
ギルドカードを確認すると、自分たちの口座に見慣れた人物からお金が振り込まれているのを確認した。しかし、その金額に驚いたのである。それもそのはず。金貨二百枚とくれば、数年間は余裕で暮らしていけるだけの収入だ。
数カ月前に出ていき、農家になったばかりの青年に出せるようなお金ではない。
「まさかアイギス、違法な取引でもしてるんじゃないでしょうね?」
「そんなまさか……」
アイギスの育ての親である二人は、彼からの仕送りに一抹の不安を感じてしまうのであった。
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