第002話 元仲間達の所業(第三者視点)

「ははははっ。アイギスのあの顔見たか?」

「見た見た。おっかしいのなんの」

「あれはみっともなかったわねぇ」


 探索者ギルドにてアイギスを見世物にして解雇したアルバ、ルリ、リーナの三人はアイギスの醜態を思い出して笑いながら道を歩く。


 三人はしばらく通りを進み、富裕層が暮らす区画に入り込む。そして一般的な飲食店よりも質の良い佇まいの、とある店の前で立ち止まり、連れだって入店した。


「おやおや、これはこれはいらっしゃいませ。サンダーストライクの皆様」


 店に入るなり、仕立ての良い服に身を包んだ執事のような男が、三人を恭しい態度で出迎えた。


 サンダーストライクとはアイギス含む四人が組んでいた探索者パーティの名前だ。


 四人中三人が揃って雷系の攻撃が得意ということで名づけられた。彼らは探索者になって五年。すでに熟練と呼ばれるような地位に登りつめていた。


 依頼の達成率も高く、依頼者からの覚えもめでたい。当然彼らは後輩や一般人からは憧れの的になっていた。


 今日の探索者ギルドでの出来事も、アイギスが三人の足を引っ張るほどに酷い盾役であるなら解雇されて当然だ、と好意的に受け止められていて、人気は下がるどころか上がる一方である。


「おう、今日も美味い料理を頼むぜ」

「承知しております」


 いつも来ているかのように振る舞うアルバだが、彼の振る舞いの通り、彼らは何度もこの店に訪れていた、アイギスを除いて。


「これでようやく足手纏いに報酬を出さなくて済むわね」

「ああそうだな」

「何言ってるのよ。元々ほとんどアレに報酬を渡していなかったくせに」

『ぷっ。あはははははっ』


 三人はメニューを見て料理を頼むと、笑いながら依頼の報酬の話をする。彼らは話している通り、アイギスの報酬を故意に減らして渡していた。


 なぜなら彼らはアイギスが何もしておらず、可笑しな行動ばかりして戦闘に貢献していないと思っていたからだ。


 実際にはそんなことはなかったのだが、彼らにはアイギスの行動が理解できなかったため、徐々にアイギスの仕事にケチをつけるようになった。


 それと同時にパーティのお金を管理していたリーナが、アイギスが報酬の総額を知らないのをいいことに、彼に渡す報酬を減らし、元々彼の分になるはずだった報酬も含めて自分たちに分配していたのだ。


 探索者としての信用度が上がれば、それに比例して報酬額も上がる。しかし、それはアイギスを除いた三人だけであり、彼だけは途中からずっと据え置きされたままであった。


 つまり三人はアイギスの分の報酬を着服していた。だから、いま訪れているような高級店にもしばしば来ることが出来たのである。


「失礼します」

「あぁ~、やっときた」

「おお、美味そうだな」

「美しい料理ね」


 暫く歓談していると、見た目も美しく、魅せるために綺麗に盛り付けられた料理が、三人の元に運ばれてくる。その料理を見て、自身が高級料理を食べることが出来るほどに強くて有能である、という自尊心が満たされていく。


「それじゃあ食べようぜ」

「ええ」

「そうね」

『いただきます』


 ひとしきり見た目の美しさを堪能した後で三人は料理を口に運ぶ。


『美味い』


 高級料理の複雑かつ濃厚な旨味が口の中一杯に広がる。三人は思わず頬を緩ませた。


「こういう料理はアイギスみたいな役立たずにはふさわしくないからな」

「ホントね。あいつと一緒にいると私たちの品格まで下がるわ」

「もうあの私たちにおんぶに抱っこだったアイツがいなくなったと思うと、ホントにいい気味よね」


 アイギスの悪口を言いながら料理を頬張る。それだけで自分たちが偉くなったような気分になった。


 しかし、下がっていたのは彼らの品格であり、彼らがそれに気付く様子はない。


「それじゃあ、この後は酒場にでも顔を出すか。新人たちに先輩として奢ってやらないとな」

「そうね、今日もかなり稼いだし、後輩に良いところを見せないと」

「いいわね」


 高級な料理と酒で、腹も虚栄心も満たされ、気分が良くなったアルバ達は、新人探索者達が集まる酒場に顔を出すことにする。


「あ、サンダーストライクだ!!」

「すげぇ!!アルバさんじゃねぇか!!」

「あぁ!!弓聖と名高いルリさんも一緒だ!!」

「大魔導師のリーナさんもいるわ!!サンダーストライクが揃いよ!!」


 三人が酒場に顔出すなり、探索者になりたての新人たちが騒ぎ立てる。三人は皆からの賛辞にさらに機嫌が良くなっていく。


 普段からあまり顔を出さないアイギスは、元よりサンダーストライクの一員として覚えられることが少なく、新人たちは彼がいないことに全く気付いていない。


「ア、アルバさん、今日はどうしてこちらに?」


 新人探索者の一人が、恐る恐るアルバに話しかける。


「ああ、たまにはお前たちに酒を奢ってやろうと思ってな」

「えぇ!?ホントですか!?」

「あぁ。お前達!!今日全部俺達のおごりだ!!精々死なないように頑張れよ!!」

『うぉおおおおおおおおお!!』


 アルバが酒場に来た目的を話すと、話しかけた新人探索者は勿論、他の面々もまさかそんなことをしてもらえる思っておらず、アルバの激励の後で酒場が揺れるほどの怒号が上がった。


 アルバ達の気分は最高潮になっていた。


「マスター。あいつらにこれで好きなだけ飲ませてやってくれ」

「分かった」


 アルバはリーナから受け取った硬貨の入った袋を酒場のマスターに渡し、三人は上機嫌のまま酒場を後にして定宿へと帰りつくのであった。

 

 彼らのピークが今この瞬間であることを知る者は誰もいない。

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