【WEB版】無自覚最硬タンクのおかしな牧場
ミポリオン
第一章 追放され、騙されて流れ着いた辺境の片隅で
第001話 解雇
※書籍版とは内容が異なります。あらかじめご了承ください。
■■■
「アイギス、今日をもってお前は
今回のダンジョン探索を終えた後、パーティーのリーダーであるアルバが俺にそう告げる。しかもここは
衆目の視線が俺達に集まった。
「こんな所でそんな話するなよ」
「うるせぇ。俺達の邪魔ばかりして碌に攻撃もしねぇ木偶の坊のお前は、大勢の前で恥をさらすのがお似合いだろ」
俺はそういう大事な話はこんな人目を集める場所でするものではないと指摘したが、アルバは他人の言葉に耳を貸すこともなく、俺を蔑むような目で睨みつけて鼻で笑う。
こいつは一体いつからこういう奴になってしまったのか……。
「それで、どうして俺が解雇なんだ?」
「どうしても何も、お前は奇声を上げたり、俺と敵との間に割り込んだり、攻撃魔法の邪魔したりするからだろうが。なぁ?」
場所を変える気がないアルバにそのまま解雇の理由を尋ねると、信じられない答えが返ってきた。
続けてアルバは同意を得るようにパーティの他のメンバーに尋ねる。
「ええそうね。あんたの声がうるさいのよ。大声出してるだけでモンスターに囲まれて何もできない。いったい何をやってるのかしらね。私たちが敵を倒さなければ、今頃どうなってるか分かってるの?感謝しなさいよね」
パーティメンバーの一人である弓使いのルリがアルバの言葉に同意するように答えた。
「ホントよね。これから攻撃しようとした時にいきなり魔法の射線に入ってきて、私の攻撃を自分で受けるなんて、ホント役立たずも良いところ」
さらに同調するように魔法使いのリーナが呆れるように同調する。
「その上、俺がとどめの一撃を繰り出そうとした時によく割り込んできて邪魔をする。一体どういう了見だ?」
最後のダメ押しとばかりにアルバが俺を小馬鹿にするように言い放った。
どうやらパーティの役割も果たしていないように見える俺に、今回の依頼で我慢の限界が来たようだ。彼らから見て俺は役立たずにしか見えないため、全員が冷ややかな視線を送ってくる。
「俺はその時に必要なことをしていただけだ」
「はぁ!?俺達の邪魔してばかりのお前の行動が必要な事だった?バカも休み休み言えよ」
俺は反論するが、案の定まともに取り合ってはくれない。
どれもこれもそうする必要があったからそうしたんだが、まさか俺の行動の意図がここまで伝わっていなかったとは思わなかった。
俺達は全員孤児で小さいころから付き合いだ。元々住んでいた世界最大のダンジョン都市であるこの街のダンジョンで、皆でパーティを組んで一旗揚げることを夢見た。
アルバは剣技、ルリは弓術、リーナは魔法。俺は守り。
お互いの得意分野を伸ばすために厳しい訓練を行い、晴れてダンジョンに潜ることが出来るようになると、パーティを組んでダンジョンに潜り始めた。
「アイギス、守ってくれてありがとな」
「私も助かったわ」
「私もモンスター引き付けてくれて攻撃がしやすかった」
最初の頃はそう言って俺に感謝を伝えてくれていた三人だったが、俺たちは訓練のおかげか、何の苦も無く多くの依頼を成功させ、トントン拍子で有名になり、実力も認められるようになっていった。
そのせいか三人はモンスターを倒している自分たちの力こそがパーティの強さだと過信するようになり、防御の要である俺をないがしろにし始めた。
本当に信じられない事だった。
それでも孤児院で一緒に育った幼馴染たちだ。いつか思い直してくれると考えてずっと守り続けてきたが、それも完全に無意味だったようだ。
一体何のために守り続けてきたんだろうな……。
俺は突然なんだかとても虚しくなった。
「はぁ……分かった……。今まで世話になったな……」
俺はなんだか何もかもどうでもいい気分になってアルバの通告を受け入れる。
「ははははっ。最初からそう言ってればよかったんだよ。ほら、お前みたいな無能にも退職金を出してやるよ。俺達は寛大だからな、ははははっ」
「ありがとよ……」
放り投げられて床に落ちた革袋。俺はなんの表情も出さずに言葉短く、礼を言ってそれを拾い上げるために
「それじゃあせいぜい元気で暮らせよ、無能」
「バイバーイ」
「二度と話すこともないでしょうけどね」
革袋を拾うためにしゃがんだ俺を見
「はぁ……」
俺はため息を吐いて革袋を拾うと、手続きを済ませるために受付に向かった。
「あ、あの、アイギスさん、い、いらっしゃいませ」
「話は聞いていたと思うけど、俺の退会手続きを頼む」
バツの悪そうにオドオドした態度で俺に話しかける馴染みの受付嬢に退会する旨を伝える。
「え?退会しちゃうんですか?」
驚く受付嬢。
「おいおい、アイツ役立たずらしいぜ?」
「マジかよ、あの有名パーティで甘い汁を吸ってたってのか?」
「うわぁ……最悪……」
辺りではそんな罵詈雑言を本人のいる前で平然と話しているのが聞こえる。
「あんなことを広められたら誰も俺と組んでダンジョンに潜ろうとは思わないだろ?」
「それは……」
俺が後ろで囁き合っている探索者達に視線を送ると、彼女は言葉を失って俺が置かれている状況を理解した。
ここで俺が無能だという噂が流れれば、ダンジョン都市で探索者としてやっていくのはほぼ不可能と言うことだ。ソロも考えられるが、あまり現実的とは言えない。
それに辞める理由は他にもある。
「それに俺は疲れたんだ。ダンジョンとは関係ない場所でのんびり暮らしたい」
そう、俺は誰にも顧みられることのない生活に疲れ果てていた。俺はどこかの辺境で農業しながらモフモフな動物に囲まれてのんびり暮らしてみたいとずっと思っていたんだ。
これはいい機会だ。
「わ、わかりました」
こうして俺はダンジョン探索を専門とする生業である探索者を止めた。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
カクコン用の新作を公開しております。
https://kakuyomu.jp/works/16817139557489215035
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