第026話 居候は最強国家の元神様?

 ソフィの頭をぐりぐりしてお仕置きした俺は、一人で畑作業をするとして、孤児院の倍くらいの畑の大きさをイメージして地盤の切り出しを続けた。


「ふぅ……これで終わりだな」


 俺は最後の地盤をブロック型にして切り出して外に放り投げ、腕で汗をぬぐって一息つく。


「ふぉおお……」


 じろじろと容赦のない視線を送って来なくなったソフィを見ると、蹲って未だに頭を抱えていた。その顔は苦痛に歪んている。


 そこまで力を込めたつもりはないんだが……。


「大丈夫か?」


 まさかそんなに痛がると思っていなかった俺は、近づいて声をかけた。


「このバカ!!バカ!!バカ!!頭が潰れるかと思うたわ!!」


 俺の言葉を聞いたソフィは、ガバリと立ち上がり、目に涙を浮かべながら俺にぐいぐいと詰め寄って抗議する。


 やっぱり今は女の子だから防御力も普通の女の子並みになっていたのかもしれない。


「悪かった」


 俺は反省して深く頭を下げて謝意を示す。


 流石にか弱い女の子にする行為ではなかったな。ドラゴンということで少し調子に乗ってしまった。


「はぁ……まぁよかろう。どうやら畑にする土地の整地は終わったようだな」

「ああ」


 不承不承といった様子でため息を吐いて気持ちを切り替えるソフィ。彼女は目の前の状態を見て、地盤の切り出しが終わったことを確認する。


「それでは、ここからは我も手伝おう。畑を耕すことは出来る故な」

「分かった。ありがとう。体は大丈夫なんだよな?」


 次の段階に進めると理解したソフィが手伝ってくれるようだが、体の事は念のため聞いておかなければならないだろう。


「うむ。お主にやられた頭以外はな!!」

「悪かったって……」


 それを言われてしまうと弱い。


 ニヤリと笑うソフィに俺は再び申し訳ないと思いながら頭を下げた。


「冗談だ。気にするな。それでは早速畑を耕すぞ」

「ああ」


 俺達は地盤を取り除いた土地の端は歩く余地を残す為にそのままにして、少し余白を作り、クワがないので手で土を耕していった。


「ふぅ。なかなかいい運動だったな」

「うむ。人間の姿になってもこんなことはせなんだが、なかなか面白いものだ」


 全体を耕し終わった俺たちはいい汗をかいた。


 久しぶりにやった農作業はやっぱり楽しい。無心で耕していく作業は俺に非常に合っていた。


「そういえば、人間になっていた時は何をしていたんだ?」

「ん?国を興して王に指示を出しておったな」

「王!?」


 ふと気になって聞いてみたら、予想外すぎる答えが返ってきて、俺は目を見開いて驚く。


「ああ。我らには長大な寿命がある故な。暇つぶしに国を興し、人間の上に立ち、あれこれやらせておった。神と呼ばれておったな。全く違うが。人間はすーぐ愚かなことをしようとするからな。我が監視して重要な決断は我がしておったのだ。要所要所に我の眷属を配置しておいて反乱など出来ぬようにしてな。多少であれば目こぼししてやるが、超えてはいけない一線を超えた輩に関しては厳罰にしておった。我から逃げられる者等おらぬからな」

「はぇ~、そんなことをやっていたのか。ちなみにその国はなんて国なんだ?」


 しゃべり方からして威厳がある感じだから偉いんだろうとは思っていたけど、人間の国で王の上に君臨していたとは、見かけによらないものだ。


 それに暇潰しで国を興すところがやはり人間の思考では理解できないな。


 俺は呆れ半分、感心半分ながらソフィが作った国の名を聞く。


「ん?竜神国ドラクロアだな」

「それって世界最大の国家じゃなかったか?」


 その国の名前はダンジョン都市で何度も聞いたことがあった。確かこの世界最強最大の国家だったはずだ。一つの大陸丸ごとが一国だったと記憶している。探索者の質も物凄く高くて、俺達の都市にいた高ランク探索者の多くがドラクロア出身だった。


「うむ。そんなこともあるかもしれん」

「凄いな。そんなところのトップがこんな所にいていいのか?」


 ソフィの返事に俺は気になって尋ねた。


 そんな人間?ドラゴン?がいなくなれば大混乱だと思うが。


「問題ない。飽きたからとっくの昔に眷属の一人に任せて引退したわ」

「飽きたっておい……」


 そんな理由で引退するってありなのか?


 俺は思わずジト目で睨み付ける。


「仕方なかろう?流石に五百年運営していればいくら人間とは時間間隔の違うドラゴンの我でも飽きもする」

「それは仕方ないと言っていいのか悪いのか……」


 肩を竦め、憮然とした態度で宣うソフィ。分からなくはないが、それを仕方ないと言い切るのは難しい。


「問題なかろう。後継者に指名した眷属は真面目な奴だ。引退して数百年経った今も問題なく運営しているということは、あやつがきちんと管理出来ているということだ」

「それならいいか。そっか……いつかドラクロアにもいってみたいな」


 まぁ、きちんとした後継者いるのならどんな理由で引退しようが問題ないか。それにしてもソフィが作った国か……。いつか行けたらいいな。


 俺はすこし遠くを見つめて呟いた。


「うむ。世界で一番住み易く、治安のいい国だと自負している。行きたくなったら言うが良い。我が連れてってやろう」

「ありがとう。その時は頼む」


 偉そうな笑顔を浮かべるソフィに俺も笑顔で応えた。


 まさか建国主自ら自分の国に連れて行ってくれるとは有り難い話だ。その時が来たら頼むとしよう。


 俺の人生の楽しみがまた一つ増えた。

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