第027話 ほぼ破壊不能オブジェクト完成

 畑を耕し終え、ソフィの昔話を聞いた後、俺たちはこの時期に育つであろう農作物の種を二人で分けて畑に植えた。


「それじゃあ、最後に我が水を撒いてやろう」

「おお。それは助かるな」


 俺はじょうろを買っていたのでそれで水を撒こうと思ったのだが、ソフィが代わりに水撒きしてくれるらしい。


 魔法で水をせき止められるくらいだから、その力でどうにかしてくれるのだろう。


「はっ」


 ソフィは短く息を吐くと、泉の水が球状になって空中に持ち上がり、俺達の居る畑の方にフヨフヨと移動してくる。


―パァーンッ


 そして畑の上空へとたどり着いたと思ったら、破裂して雨のように畑に細かい水滴が降り注いだ。


「こんなものだろう」

「おー!!素晴らしい!!」

「なに、この程度たわいもないことだ」


 満足げなソフィ。俺は一瞬で水撒きが終わったことに感動して拍手を送ったら、ソフィは照れ臭そうに頭を掻いて笑った。


「まだ今日は時間があるな」

「うむ。どうするのだ?」


 畑が一段落した俺達は少し遅い昼食を食べ終えて、午後の予定を考える。


 湧き水、自然、食料、畑が揃ったのなら、やるべきことはあれだろう。


「そろそろテント生活も終わりにしたいところだな」


 そうだ。そろそろちゃんとした家、とは言わないので、雨風を凌げて思い切り横になれる場所が欲しい。


「家の建て方など分かるのか?」

「分からん」

「はぁ~……我が簡単な家の作り方なら分かるぞ」


 自慢ではないが、そんな知識はない。


 そう答えたら、ソフィが呆れた果てた顔になった後、仕方がないなといった表情で家の建て方を教えてくれるという。


「おお!!ぜひ頼む!!」

「任せておけ。ここにはとんでもなく頑丈な素材があるからな。それで家を作ればよかろう」


 懇願する俺にソフィが胸をポンと叩いて引き受けてくれた。


「それってこの地盤のことか?」

「そうだ。お主は地盤を自由な形に切り取ることが出来る。その力を使って家を作ればいい」


 どうやら家はこの地盤で作るらしい。確かに俺以外が傷一つ付けられないのなら、それは良い建築材かもしれない。


「分かった。指示を頼む」

「うむ。とりあえず、簡単に組み立てができ、移動もできる簡易的な物にするぞ。今後、ここがどうなるかも分からないからな」

「了解」


 俺はそれからソフィの指示に従い、ソフィが魔法で示した形に従って地盤を切り取り、材料を用意していく。


 切り取る地盤は畑の隣にした。なぜなら家と畑が同じ高さにないと行き来が少しだけ面倒だからだ。すぐ近くに畑があればやりやすいだろうしな。


 そして、もうすぐ日が沈むという頃に、ついに小屋のような家が完成した。


「完成だ」

「うぉっしゃー!!」


 ソフィの宣言に俺は喜びを爆発させる。


「くっくっく。それ程に嬉しかったのか?」


 俺の喜びようを見て面白そうに笑うソフィ。


「そりゃあ当然だろう?これで俺も一家の主って訳だからな」


 というのは建前でもあり、本音でもあるが、もっと重要なことがある。


 それは一緒に寝なくて済むということだ。広い室内なら別々に寝ても何も問題ないからな。これで俺は毎晩悶々としなくて済む。


 そう思えば喜びが溢れだすも仕方がないとは思わないか?


「ふむ。それほど喜んでくれるのなら手伝った甲斐もあるというものだ」

「ああ、ありがとう」


 ソフィが満足そうな笑顔を浮かべるので感謝を述べる。


「うむ。それにこの家はお主以外誰にも破壊できぬ、お主にふさわしい最硬の家だ」

「ははははっ。それはいいな。早速家の中での初めての晩餐としゃれこむか」

「そうしよう」


 ソフィがニヤリと笑ってそんなことを言うが、鵜呑みには出来ないので話半分程度に聞いておいて、早速中で食事を摂ることにした。


 家の中は、十人くらいは寝転んでも余裕のある空間だった。当然家具などは何もない。


 しかし、周りを壁で囲まれているというのは安心するものだし、森で木を伐採してきているので、それを使って必要な物は作ればいいだろう。それが難しければ、しばらくは我慢して、農作物を販売した売り上げで、作ってもらえばいい。


 俺達は何もない室内で初めての晩餐を摂った。


 別に食べるものが変わったわけではないが、室内で食べる、それだけで今までよりも果物や木の実が美味しく感じられた。


 思い込みなのかもしれないが、それは紛れもなく自分にとっての真実であった。


「それじゃあ俺はその辺で適当に寝るから、毛布はソフィーが使ってくれ」

「バカを言うでない。毛布は一つしかないのだ。一緒に使えばいい」

「いやいや、俺は毛布を使わなくても風邪などひかないから大丈夫だ」

「使えるのだから、一緒に使えばよかろう?」

「はぁ……分かった」


 テントでは狭かったがゆえに一緒に横になることになったが、家の中なら別々に寝ることが出来る思いきや、毛布が一つしかないことを理由に再び一緒に横になることになった。


 はぁ……また悶々とした時間が始まりそうだ。


 俺はそう思いながらソフィーに背を向けて横になった。ソフィは相変わらず寝つきが良く、すぐに寝息を立て始める。


 俺は、どうせ寝れないのならと、考え事を始める。


 ここに来た時は全てを失ったと思って絶望したが、気づいてみれば、何もなかった大地に水が湧きだし、ソフィが落ちてきたことでしばしの間一緒に過ごす相手にも恵まれ、深淵の森では豊富な食料を手に入れることができ、泉の中に大樹が生えているという幻想的な庭を手に入れ、畑も完成して、ついには簡易的なものではあるが、俺以外には傷一つ付けられないという破壊不能の家まで手に入れることが出来た。


「はぁ……充実してるな……」


 失うことから始まった俺の生活だが、思いのほか沢山の物を手に入れたことに気付き、思わずつぶやいた。


 それから自分が考える理想の牧場生活を考えていたら、俺の意識はいつの間に闇の中消えていた。

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