第004話 初めての外の世界
「おお!!これが外の世界か!!」
俺は城門を通り抜け、人生で初めてダンジョン都市の外に出る。俺は新しい世界の訪れに思わず立ち上がって声を上げた。
―クスクスッ
乗り合い馬車というものに一緒に乗っている人達が、俺を見て微笑ましそうな様子で笑う。
俺は恥ずかしくなって苦笑いを浮かべて頭をかきながら皆に頭を下げて座席に腰かけ、改めて風景を眺めた。
「ダンジョンの内部みたいだな……」
俺は思わずそんな感想を抱いた。
ダンジョンは洞窟のような入り口を潜り抜けると、洞穴の中とは思えないような、明るくて今みたいに太陽がある世界が広がっていたり、建物の内部のようなレンガ造りの迷宮が広がっていたりする、とても不思議な場所だ。
そこではモンスターと呼ばれる異形の化け物が闊歩していて、そのモンスターを退治すると、魔石と呼ばれる小さな石を落とし、稀にそのモンスター特有のアイテムを落とすこともある。
魔石は魔道具を動かすために需要が高いので、モンスターを倒す者達の権利を守るために発足された、相互扶助団体である探索者ギルドが買い取ってお金にしてくれる。
アイテムも探索者ギルドで買い取ってくれるが、そっちは最低価格になるため、信頼できる商店に卸す人が多い。
アイテムによっては物凄い金額を稼げるので、一攫千金を目指して探索者になる人は後を絶たない。俺達も孤児だったし、恩返しするためにお金が欲しかったので探索者になった口だ。
城壁の外にはダンジョン内のように壁に遮られていない世界が広がっていた。
俺は小さい頃からずっと修行していた。さらに成人してからはダンジョンに潜りきりだったし、金銭が関わらない雑用は俺がほとんどやっていて出かける暇なんてなかったからなぁ。
幼馴染たちは外に出かけることもあったようだが、その頃には俺に対する態度が悪くなっていたので誘われることもなかった。
「はぁ?何言ってんだあんちゃん。ダンジョンがこっちに似てんだよ」
「え、そうなのか?」
呟きを拾った隣の男が俺の考え違いを指摘する。俺は思わず驚いた。
「ああ」
ははぁ。なるほどなぁ。
確かにダンジョン内部に別の世界があるみたいだと言うことを聞いたことがあるけど、この世界がダンジョン内部にあるからそういう風に言うのかと、俺は一人で納得した。
ただ、俺は今まで一度もダンジョン都市の中から出たことがなくて、毎日ダンジョンに潜るか家に戻るかの生活をしていたため、やっぱり外の世界がダンジョンに似ているという感覚は変わらない。
それから街を転々として馬車を乗り継ぐこと一カ月。俺は所謂辺境と呼ばれる土地の一番端の街に辿り着いた。
ダンジョンみたいにモンスターに襲われることも、迷賊というダンジョン内で探索者が獲得した魔石やアイテムを狙って襲いかかるような奴らにも会うこともなく、平和な旅路だった。
外の世界って平和なんだな。
それが俺の感想だった。
だってダンジョン内部ではどこでもモンスターや迷賊が襲ってくるから気が休まる時が無かった。それに比べれば、自分の命が危険にさらされない外の世界は平和以外の何物でもなかった。
「おっちゃんありがとな!!」
「おう、気ぃつけろよ。お前は世間知らずで騙されやすそうだからな!!」
「ははははっ。分かってるって」
俺に指摘をしてくれたおっちゃんも用があったらしく、この辺境まで一緒にやってきたらしい。
一カ月も一緒に過ごすとすっかり仲良くなって色々教えてくれたし、宿の手配とかいろいろやってくれたおかげでとても助かった。
俺達は馬車を下りて別れを告げた。
俺は早速辺境の何処かの土地を購入すべく、不動産屋を訪ねる。
「マジか……金貨二十枚あっても土地は買えないのか……」
しかし、俺の計画はすぐに頓挫することになった。
「そんな金額じゃ土地なんて買えないよ」
「なんだよ、冷やかしかよ」
「土地がそんなに安いわけないだろ」
どこの不動産屋を尋ねてもそんな返事ばかりが返ってくるばかりだ。
金貨二十枚と言えば、俺がダンジョンに潜って数年くらいかかってようやく稼げた金額だ。
それをもってしても土地を買うことができないとは……。
きちんと対応してくれた不動産屋が言うには、土地を買うには最低でも金貨が数百枚と言う単位で必要らしい。どうやら辺境に行って牧場でもやりながらのんびり暮らそうという考えは甘すぎたようだ。
パーティに居た時は、お金の管理や買い物は主にリーナがやっていた。俺はお金と物の価値に無頓着過ぎた。
兎に角稼いで孤児院に入れる事しか考えてなかったからなぁ。
「ひとまず売れる物を売っておくか。外は平和みたいだし、防具はいらないだろう」
俺は外はダンジョン内に比べて安全なので、防具や必要なさそうな品物を売却してしまうことにした。
「はぁ……まさかこんな金にしかならないとは……」
店を回り不要なものを捌いたのだが、金貨一枚にも届かなかった。これでは全く土地代の足しにもならない。
俺は思わずため息が出る。
「仕方ない……何か仕事を探してお金を稼ぐか……」
とほほほ。
俺は肩を落として仕事を求めて探索者ギルドを目指して歩き出す。
探索者ギルドでは困った人が依頼を出し、その依頼を探索者が引き受けるというシステムがある。
街のどぶ攫いや清掃から富裕層のペットの散歩まで様々な依頼があった。
辞めたばかりだけど、再登録してそういう依頼でお金を稼ごう。
そういえば、まだ皆が仲が良かった頃に、一度だけ町中でのペットの捜索をやったことがある。なんとか捕まえることができたが、結構大変だった。
それにしてもあの猫と言う生き物は可愛かったなぁ。
モンスターとは全然違った。
俺はなんとも愛らしいモフモフな生き物の事を思い出して頬を緩ませる。
「ん?あそこも不動産屋か?」
過去に思いを馳せてとぼとぼと歩いていると、ふと『クーリ不動産』という看板が目に入った。
「絶対無理だろうけど、最後に一件だけ入ってみるか……。もしかしたら掘り出し物があるかもしれないし……」
見た目はボロボロであまりよろしくないが、最後の望みをかけて俺はその不動産屋に入ってみることにして、その入り口を潜り抜けた。
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