第10話 ご先祖様からの贈り物


 ご先祖様からの贈り物を確認するため、アイテムリストを開くと見なれないアイテムがあった。


「何だこれ!」


 エクリアは、楽しげにユーリに詰め寄り肌を密着させた。


「なんですか! なんなんですか! なにがあったのですか!!! ユーリ!」


「うわ!!!(く、天使の時も可愛かったが。黒髪も! むねが……でかいのも、悪くない。天使の時は板胸だったからなぁ)」


 ユーリが興奮こうふんしていると。

 イフリータが声を荒げエクリアをユーリから引き剥がした!!!


「がぁぁぁもう!!! エクリア! ご主人様がアイテム見れないでしょ!」


「おや? そうでしたか?」


「あ、ありがとうイフリータ」


「気にしなくていいわ。ご主人様」


 はぁ、もう少し堪能たんのうしていたかったんだが仕方ないな。えーと。


「1つは、小瓶に入った『虹色の液体?』」


 エクリアは、への字口で気持ち悪そうに話した。


「にじいろのぉ、えきたいですかぁ? 誰が飲むんですかねぇ、そんな、きしょくの悪いものをぉ」


「他にはないのかしら? ご主人様」


「えーと白馬に羽? だからペガサスの形をしたアイテムかな?」



 エクリアは、少しだけテンションを上げた。


「ペガサス! まさか呼べるんですかねぇ?」


「どうかしら? ペガサスは男嫌いで有名だから、男性であった、ご主人様のご先祖様が、ペガサスを手に入れてるとは思えないわね」


 エクリアは、鼻息荒く。


「ふん! つまりませんねぇ」



 俺は前回アイテムリストを開いた時に、表示されていなかった項目を見つけた。


「お! 所持金は金貨1枚になってるぞ!!!」


 エクリアは、今までにないほど、リンゴ胸を揺らし喜んだ。


「おほぉ! やりましたよ! 金貨1枚!!! どれだけ多いのかわかりませんが! 金を手に入れましたねぇ!」


「そうだ! エクリアも何かあるかもしれないし、見てみろ!」



「ほほぉ!! そうですねぇ。ユーリには、負けませんよぉ! 確かぁ、こうでしたかねぇ。清き天使に導かれ降臨せよ! 記録の書物!」


「そんな呪文! 言ってねぇだろ!」



 エクリアは、無視し小声で『アイテムリスト』と言った。


「聞こえてるぞ。エクリア」


「さぁて! 私のご先祖様は、何を残したんですかねぇ?」


 楽しげにアイテムリストを確認した、エクリアの瞳は光を失い、壊れたオルゴールの様に笑い始めた。


「あははは、ははは、ははは、にゃははは、神のバガやろォォォ!! この世に神なんていないんですよぉ~!!!」


「ど、どうしたんだエクリア」


 イフリータは、エクリアのアイテムリストを覗き込んでいた。


「あら、キレイに何もないわね」


「本当だな。やっぱり死ぬと装備してる物以外なくなるのか? けど、ご先祖様の手紙はあったし? どうなってんだ? わかるかイフリータ?」


「この時代の魔法は、わからないけど、自分が死んでホムンクルスとして生まれ変わる時間に、アイテムに転送されるよう仕込んでたんじゃないかしら? 多分だけどね」


「そうか。だからアイテムが手紙だけだったのか」



 エクリアは生気せいきを失ったように落ち込み、地面に四つん這いになった。


「なに納得してるんですかぁ。じゃぁわたしはわたしは、うぅ。ひもじい異世界生活になりそうですねぇ」


「いや、エクリア少しなら買ってやるから落ち込むなよ」


 エクリアは四つん這いからひざまずき。

 ユーリに擦り寄ると、ユーリの股間に頭を押し付け『チーン』(がは!!! そこはダメだァァァ)上目遣いで抱きつき。


「ユーリ! ユーリ! あなたは神よりも神神こうごうしく、輝きを放っていますよ!」


「はは、そうか。まぁ金貨1枚が、いくらかわからないがな(早く股間から離れろ!)」


「ははーん、いくらだって無一文よりは、マシですからねぇ」



 イフリータは、苛立いらだちならがら。


「はいはい。話がおわったなら、立ちなさいよ。ひざ汚れてるわよ」


 イフリータは、エクリアの膝を手でキレイにした。


「あははー、すみませんねぇ。イフリータさん」


(はぁ助かった。危うくエクリアで……いや、考えるのは辞めておこう)



 落ち着いたところで。


 俺のアイテムリストにあった、虹色の小瓶を取り出してみた。


「ほんとに、虹色じゃないですかぁ。うすきみわるいですねぇ。しかも2本もありますよ。イフリータさん」


「本当ね。どんな効果があるのかしら?」


「まてよ。説明が書いてるな」


 アイテムを取り出すと、文字が浮かび上がっていた。



 アイテム名『フェイスチェンジポーション』

 これがあれば、あなたは超一流の怪盗だ!

 国王直属、騎士団ロイヤルナイトでも捕まえる事はできないぞ!


 製作者チェルシー・フロレンス



「説明になってねぇじゃねぇか!!! てかロイヤルナイトとかしらねぇし! てめぇの名前書くなら説明ちゃんと書けよ! チェルシーさんよぉ!!!」


「まぁ、アイテム名のままなら、顔を好きに変えられるって意味じゃないかしら。たぶんだけどね」


「マジですかぁ!! イフリータさん!」


「まぁアイテム名を信じるならだけどね。しんじるなら」


 俺は、ご先祖様の言葉を思い出していた。


 ご先祖様と同じ顔だと、勇者パーティーの生き残りとして、魔王軍に狙われるからと。

 ご先祖様は、アイテムをくれた訳だし、顔を変えられるのはありそうだよなぁ。


 俺は虹色の小瓶をマジマジと見ながら。


 いくら、ご先祖様からの贈り物でも、見るからに毒毒しぃ、虹色の液体を飲みたいとは思えないな。


 そして何より、製作者チェルシーの説明が胡散臭すぎて、飲んだら死んでしまいそうだ。


 俺が仕方ないな、このまま暮らすしかないと思っていると、エクリアが立ち上がった。


「理想の顔を作れるなんて最高じゃないですかぁ! ユーリそれを下さい!」


「え? ちょっと待ちなさい!」


 イフリータが止めようとするのを無視して。エクリアは、俺から虹色の小瓶を奪うと「おい」一気に飲み干した。


「ぷはぁぁぁぁ。おぉ! トロピカルで、なかなか美味しいじゃないですかぁ」


「はぁ。ここまでおバカとは」


「マジかよ。おい、大丈夫かエクリア!」


「そうですねぇ? 特には。お!」


「エクリア!!!」


 エクリアの全身は眩い光に包まれると、卵状の白くて巨大な物体に包まれた。



 俺は立ち上がり、卵に近づいた。


「おい! エクリア! イフリータどうにか、ならないのか!」


 イフリータは、人差し指を口元に当て。


「そうねぇ。してもいいけど、私がやると全部、灰になるかもしれないわよ」


 全部、灰。つまりエクリアも灰になるわよ、と話している。


「それじゃダメだろ」


 イフリータは、頬を膨らませた。


「仕方ないでしょ! こんなアイテム見た事ないし。私は、破壊するのが仕事なんだから」


「そっか。なら仕方ないな」


 俺は、イフリータの側に座り考え事をした。


 ダメな天使だったが、こんな形で別れるのは、ちょっとだけ、辛いものがあるな。


 まぁイフリータが居るから、異世界で1人にならなかったのは幸いだったな。



 エクリアが卵になり、静まり返ってから1分後。

 

 バギィ!!! バギバギボギ!!!


 全身の骨が砕ける様な爆音が鳴り響いた。


「がギャァァァ!!! グギャガギャァァァァ!!!」


「エクリア!!! 痛そうだな」


「そうね。まぁ声が聞こえたって事は、無事ってことよ」


「そうだな」


 俺とイフリータは(ま! 自業自得だ)と思っていた。



 エクリアの無事が確認でき安心した俺は、イフリータに世界の話を聞いた。


 だが、イフリータは究極召喚の生贄になる前の記憶は、殆ど忘れていた。

 召喚された時の記憶も殆どが戦いの記憶だった。


 何故なら戦いが終わる前に、召喚者の魔力が切れて帰るからだ。

 当然だが、ご先祖様にも召喚されてるはずだが、覚えてないようだった。

 稀に戦闘後、帰ってなくても魔力が勿体無いからと帰されるそうだ。



 そう話すイフリータは、少し悲しげだった。

 召喚されて嬉しかった事はないのかと聞くと。


 イフリータは、俺を睨みながら笑みを浮かべていた。


「ご主人様の! 望まない体とはいえ、ご主人様から自由をいただいた事かしらねぇ」


 仕方ねぇだろ! 普通! 思った姿で召喚獣が召喚されるなんてわからねぇって!


 てか! ロリメイドなんて想像してないぞ! 死ぬ直前の俺の馬鹿野郎がロリメイド特集なんて見てんじゃねぇよ!!


 走馬灯そうまとうの様に一瞬で思った俺は。


「はは、俺以外はないのかぁ」と笑って誤魔化した。


 ご褒美で美味しい飲み物や食べ物を貰ったと、嬉しそうに話していた。

 それしか楽しみはなかったんだな。


 俺は一層と、他の召喚獣達も俺だけの物! もとい! 自由にしてあげようと強く決心した。


 エクリアの悲鳴から10分程経過すると、今度は軽快なリズムで料理をするような音が聞こえてきた。


 トントントン、トットトトン! ぐつぐつぐつ、ジューザッザッザッジュー。


「何で料理なんだよ!」


「美味しくできるかしら?」


「いやいや! エクリアだから! 美味しくできても困るから!」


「あら、そうだったわね。長いから忘れていたわ」


「大丈夫かよ? エクリア。マジで料理になってないよな」


 電子レンジの様にチン! と甲高い音が鳴り響き、卵状の球体にピシピシと無数に亀裂ができると。


 球体は、砕け散りエクリアが地面に四つん這いの状態で姿を表した。

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