第9話 ご先祖様からの手紙


 アイテムリストを開いたが。

 映し出された画面は閑散かんさんとしていた。


「なに! アイテムがないだと!!!」


「あら、ほんとね。新米冒険者より酷いんじゃないかしら」


 ちか! 俺の顔に近づきイフリータは、画面を覗き込んでいた。

 息遣いが……いや、今は状況整理が先だよな。


「これって、死んだからアイテムがないのか?」


「どうかしら? 死んで生き返るなんて普通ないから、わからないわね」


「そうだよなぁ。ん? 1つだけアイテムがある? これ手紙か?」



 アイテムリスト画面左上には、白い封筒に入った手紙らしき物があり、俺は指で手紙に触れてみた。


 すると目の前には立体的な映像が映し出された。


(俺がいる? いや違うなこの人は!)


 俺に、そっくりな人は笑顔で手を振っていた。


「はぁい、ユーリくん。初めまして、僕はユーリと言います」


「やはり。体の持ち主か」


「過去からの手紙とは、本来ならロマンチックなんですがねぇ」


「そうだな」エクリアの言葉は軽く流し話を聞いた。


「ま! 同じ名前だろうから、ややこしくなるし。僕の事は『ご先祖様』とでも読んでくれ」


「この見た目をご先祖様とは、呼びにくいが仕方ないか」


「そうですよねぇ。自分と同じ見た目だし、あきらかに若いですもんねぇ」


 エクリアの言う通り10代に見える童顔をしている。


「では、自己紹介も終わったし、突然生まれた自分に混乱もあるだろうから本題を話すよ」


「突然生まれた?」


「何やら意味深ですねぇ」


「ユーリとエクリア。2人は僕の体と、僕の時代のエクリア。2人の肉体と賢者の石を使って作り出した『ホムンクルス』つまり合成人間なんだ」


「うをい! 話が急すぎて意味わかんねぇよ!!! 俺は、神に転生して貰ったんだろうが!!! 合成人間ホムンクルスってなんだよ!」


「あぁ、それはですねぇ。いくら神様でも、むやみやたらと異世界に転生させられないので、死んだばかりの新鮮で、清き心の肉体などが必要になるんですよぉ。って? 言ってませんでしたかねぇ?」


「言ってねぇよ!!! てか何冷静に解説してやがんだエクリアさんよぉ!!! つーかホムンクルス作るやつのどこに、清き心があるんだよ!」


「そこまでは、しりませんよぉ」


「あの神、何考えてんだ」


「そうねぇ。私が覚えてる記憶でも、ホムンクルスは究極召喚と同じく禁忌きんきとされてたけど、賢者の石が実在しないと言われてたから、実際にやった人は居ないと聞いてるわ」


 イフリータは自分の知る情報を教えてくれた。



禁忌きんきって、ますます清き心じゃないだろ」



 ご先祖様が、タイミングを図る様に咳払いをした。


「そろそろ落ち着いたね。続きを話すよ」


「な! これ録画だよな。どこかで見てんじゃないのか」


「なんだか、心を読まれてるみたいですねぇ。ユーリ」


「なぜホムンクルスを作ったかを話すには、僕の固有スキルが重要になる」


「固有スキル? 俺にもあるのか?」



 俺は疑問だったが。映像のご先祖様は、都合よく解説はしてくれなかった。

 イフリータを見たが、知らない様子だった。



「僕の固有スキルは大賢者、世界に1人しかいない貴重なスキル。大賢者の能力の1つが『予知』だ」


「予知! じゃあ、さっきの狙った咳払いも偶然じゃないのか」


「すごい能力ですねぇ」


「だが予知には欠点もあってね。見れる未来は選べないし、見た未来は現実になるまで他人に話せないうえ、決して変えることができない」


「それって」


「未来が見えるメリットがないわね」


「ですねぇ。クソ神に怒られる未来を見て、現実で回避不可能で怒られるとか最悪ですよ」


「どんな例えだよ。エクリア」



「そして、変えることが許されぬ予知で、カイザーが魔王との和解を断り、僕とエクリアをカイザーが殺す運命だという事、そして聖剣が白く白骨かし、皆も殺される運命だと知ってしまった」


 俺は魔王配下ドクードに見せられた映像の事だなと思い出した。



「皆が死ぬ未来を見てから、拾った覚えのない『賢者の石』が手元にあった」


「もう呪いだな」


「背筋に寒気を感じますねぇ」


「正直ホムンクルスを作るなんて僕も悩んだけど、屍人になってしまう皆を、救う方法が他になかった。2人とも本当にすまない」


「清き心の持ち主だな」


「そうね。転生の器に選ばれただけあるわね。ご主人様」


「神もたまには、良い仕事をしますねぇ」


「何様だ!」


「天使ですが!」


「はいはい」


「ぬわぁ! 話を流されました!」



 騒いでいると、ご先祖様が困り果てた表情で見ていた。


「ただ、この話には問題があってね。僕の見る予知は完璧じゃなく。虫食いの本みたいに途切れ途切れしか、わからないんだ」


「なるほど、だから俺の疑問に答えたりはできないのか」


「難しい能力ですねぇ」



「だから予知ではユーリとエクリアが、ホムンクルスになり生き返る事は、わかったんだけど。問題は賢者の石が一つしかなかったんだ」


「ん? じゃあどうやって、2体のホムンクルスを作ったんだ?」



「どうやるのか予知ではわからないから。試しに賢者の石で賢者の石を複製したら、1つは成功したんだ。けどなんどやっても2つ目は複製できなかった。僕は予知に従うしかないと思い。複製した賢者の石はエクリアのホムンクルスの素材にしたんだ」



「ぬわんですかぁ! その頭文字1つだけ変えた偽ブランドバッグみたいな扱いは、許されませんよぉ! そんな手抜きぃ! 断固やり直しを要求します!!! こんな時こそクーリングオフです!」


 エクリアは、大地を壊さんばかりに地面を踏みつけた。


 おぉ、エクリア地面が揺れるほど暴れてるなぁ。

 まぁ気持ちはわかるがコピー品だしな、ぷふ。


「まぁまぁエクリア、クーリングオフって、おまぇ何もぉ買ってないだろぉ。それにぃ相手は映像だ。怒るだけつかれるだけだぞぉ」


「がぁぁ!! ユーリは本物の賢者の石だからってぇ! かばうつもりですねぇ!」


「はっはっはっ」


「ぐぅぅぅ」


「すまないエクリア。他に彼女をホムンクルスにする方法がなかったんだ」


 エクリアが怒る姿を予知で見ていたのか。ご先祖様は、頭を深々と下げていた。


「むぅ。録画に謝れては仕方がありませんねぇ。天使ですし、謝った者に許しを与えましょう」


「ふふ。ありがとうエクリア。賢者の石を2つ用意してから数日後、僕達は予知の通り殺された。屍人にされた僕達が王都に近づくと、賢者の石が動き出すように魔力を込め、体内に埋め込んでおいた。あとは君達の方が詳しいだろう」



「俺がこの世界に転生した時に、賢者の石も動き出したって事だな」


「ご主人様の魔力が無限なのも、体内に賢者の石があるからかも知れないわね」


「そうなのか?(俺の世界でも有名な石だが。実在はしないからなぁ)」



「実在するかもわからなかった物だから、噂しか聞いた事がないんだけど、魔力を生み出すだとか、石を金にするとか、人を作り出したとかは言われてたわね」


 俺は、どの世界も同じ妄想はあるものだと思ったが。


 説明し終えたイフリータが見つめ、俺の反応を待っているので、驚いたフリだけしておいた。



「おぉそれはすごいな! その辺の石、触れたら金になるかなぁ? ん? なんだ手に何か?」


「むふふ。どうですかねぇ」


 こいつ俺に石持たせて何してんだ。


「もしもし。エクリア何してんだ」


 石には、何も変化はなかった。


「ちぇっ。イフリータさん何も起きませんよぉ」


「あら、ほんと、考えすぎだったのかしら?」


「せっかく金持ちになれると思ったのにぃ。ユーリは使えませんねぇ」


「無視してんじゃねぇエクリア! てめぇも体内に賢者の石があるんだから、自分の体で実験しろ!」


「いえ私の賢者の石は偽物なので。偽物のお約束! なんでもかんでも! 爆発! をするわけにはいきませんよ!」


「都合の良い時だけニセモノ! 強調してんじゃねぇよ!」


「ははーん! なんのことでしょうか?」



 ご先祖様の咳払いが聞こえ静まった。


「僕が見た予知は、君達がこの手紙を見終わるまでだ。この先は僕にはわからない。楽しい未来である事を願っているよ。最後になるが、僕と同じ見た目だと勇者パーティーの召喚魔術師ユーリ。つまりは世界の人気者になってしまう」


「そうそう! それそれ! 美女達が俺を待ってるぜぇ! 思い出したぜ! ありがとうよ! ご先祖様!」


「美女達だけじゃないわよ。ご主人様!」


 イフリータは、少しイラついた様子で俺を見ていた。


「なに!!! そうか! おっさん達もか! そうだよなぁ勇者パーティーだもんなぁ」


「ちがうわよ!!!」



「そう美女達だけでなく、勇者達の生き残りがいるなら、今の魔王軍は殺しに来るだろうね」


「不味いだろそれ! どうしてくれんだよ!」


「ホムンクルスなんだし、簡単には殺されないよ。たぶん」


「たぶん! じゃねぇよ!! ご先祖様! てか! そういう問題じゃねぇ!」


「あの人、記録映像と会話してますねぇ。イフリータさん」


「えぇ面白いわね」



「まぁなんなら、そのまま魔王を倒してくれると、ありがたいけど」


「誰がやるか!」


「わかってるよ」


「なら聞くなよ!」


「はは。さて、これで最後になるけど、皆を救ってくれて、本当にありがとう。自由に生きてくれ2人とも。これは、ささやかなお礼だ受け取ってくれ。それじゃあ、さようなら」


 ご先祖様は光に包まれると、手紙に変化した。



「おわったわね」


「普通に明るかったですねぇ」


「あぁ。これから死ぬのを知ってるとは、とても思えないな」



 地面に落ちた手紙を掴むと、文字が空中に浮かび上がり、アイテムを手に入れたと書かれていた。


「アイテム? 手紙はまだ手に持ってるんだが?」


「ささやかなお礼とか言ってたから、それじゃないかしら?」


「おほぉ! 金銀財宝ですかぁ!」


「お前は、それしかないのかエクリア」


「あたりまえですよぉ」


「はぁ、まぁ確かに金は欲しいな」


 手紙を収納し、アイテムリストを確認した。

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