第6話 安らかに眠れカイザー、エミリー、????


 安心した俺は巨大なクレーターになった、ドクードがいた場所に近づき、クレーターを覗き込んでいた。


「おぉ、落ちたらやばいな! 深さ10メートルはあるんじゃ? ん? お! なんかあるぞ」



 青髪メイドが不機嫌そうに、クレーターに近づいた。


「はぁ? 私の業火に焼かれて灰にならないなんて、ありえないわ! 笑えない冗談だよ! あら…………本当ね。あれは剣ね」


「けん? 剣!!! おぉまさかあれは『聖剣エクスカリバー』じゃないか!」


 やはり青髪メイドは、更に不機嫌そうに眉間にシワを作っていた。


「さ、さすが聖剣ってところかしら。わ、わたしの青竜を食らって無事なんてムカつくわね!!!」



 俺は今からでも灰にしそうな、メイドをなだめるため褒めた。


「いやいやぁ。俺のために、聖剣だけを灰にせず、残してくれるなんて、凄いじゃないか!!!」


「へ??? ハイにしないで、のこす??? ま、まぁね。私に、かかればこれくらい余裕よ! 余裕!」


(ふっ思った通り、ちょろいぜ「さぁて、あとはクレーターの底にある、聖剣回収だな。この深さは降りるのは危険だし、やはり、ここはあいつに頼むか」)


 俺は背後にある川を見た。


 川には、偶然、聖剣だけを灰にしなかったメイドより凄い奴がいる!!!

 この状況で未だに川で、鼻歌混じりに己を見ている変態天使エクリア!


 何考えてんだあの天使! ここまで、きたら逆に凄いわ! 羽あるし今も飛べるだろ。


「エクリア」


「なぁんですかぁ?」


「あそこの穴にある剣、飛んで取ってきてくれないか」


「今忙しいんですよぉ」


「てめぇ!!! ずっと見てただろうが! いい加減動け、大変だったんだぞ!!!」


「じりまぜんヨォ!!! 邪魔しないでくださいぃぃぃ!」


 3分格闘し俺は負けた。


「グゾォォォ!!! びくともしやがらねぇ」



「ご主人様。ほら、取ってきてあげたわよ」


 背後を見ると青髪メイドが聖剣を持っていた。


「なに!??? あれ、どうやって」


「私飛べるの。だから飛んで取ってきたわ」


 メイドの背中には、青く燃える蝶のような羽があった。


「そうだったのか。ありがとう」


「これくらい、余裕よ!」


 メイドから、かなり重そうな、身長程ある聖剣を両足を踏ん張り、体全身に力を入れて、両手で受け取た。


「ぐごぉ!! あれ? かる!!!」


 メイドが聖剣を片手で持てていたのは、怪力だからだと思っていたが。

 聖剣は、鳥の羽よりも軽く、俺でも片手で軽々振り回せるほどだ。


 だが聖剣の姿は……


「やっぱり、白くて骨みたいで、聖剣には見えないな」


「勇者や魔族の悪しき心に、あてられたんでしょ。可哀想に」


「そうだな」



 勇者カイザーの行動には、納得できていなかったが。


 どんな悪党でも、墓を作ってやりたくて、先程まで休憩していた、大樹のそばに、石を立て勇者達の墓を作った。



「カイザーに貰った水筒しか残ってないから。みんなの墓って感じはしないけどな」


「わ、わ、わ、わたしぃ! のせいじゃないんだからね!」


 青髪メイドはバタバタと心配そうに俺を見て話していた。


「あたり前だろ、あの場合は仕方ないよ。感謝してるよ」


「そ、そう、わかってるならいいのよ」


「じゃぁ最後に!」


 俺は地面に置いて置いた聖剣を持ち。

 アニメやゲームの見様見真似みようみまねで。


(やっぱ勇者の墓には剣だよなぁ。この聖剣は、もう使えそうにないしいいよな)


 墓の前に、聖剣を突き立てようとしていた。


 青髪メイドが戸惑った様子で俺を見ていた。


「ご主人様? まさか聖剣を墓に手向たむけるつもりじゃないわよね?」


 俺は聖剣を振りかざしたまま反応した。


「え? そうだけど? 問題あるのか?」


 青髪メイドは呆れた様子で俺を見つめている。


「ご主人様はバカなの?」


「バカ! な、なにが?」


 メイドは今まで、天使スマイルを振りまいていたのが嘘のように、怒りながら俺を見ていた。


「え? 何が? じゃ!!! ないでしょ! こんな所に置いて行ったら! 聖剣じゃなくても、盗まれるに決まってるでしょ!!!」


 俺は知らぬ間に正座していた。


「は、はい、すみませんでした」


 元の世界でも、墓にお供えされた物が盗まれる事はある。


 異世界でも、それは同じだろう。俺は、墓の水筒をチラッと見た。



「あの、水筒はマジックアイテムでもなく、普通の水筒だから盗まれたりしないわよ」


「そうか。ありがとう」


「ふふん」


 俺はまた墓を見て、皆のことを思い出し、滝のように涙を流したかったが。


 実際には1時間程前に知り合ったばかりの、ただの知り合いにすぎない。

 そのせいか一粒の涙も流れなかった。


 墓に手向けるのをやめた『聖剣エクスカリバー』は『聖剣エクスカリバー収納』で、マジックバッグにしまうことができた。



「むふぅん。まんぞくまんぞくですよぉ」


 10分程して、己を眺めていたエクリアが、満面の笑みで歩いてきた。


「やっとか。すげぇなお前」


「いやぁいやぁ! それほどでもぉ」


「ほめてねぇよ!」


「あれ? カイザーさんとエミリーさんは、どちらぇ?」


「はぁ、あとアサシンさんな、最後まで名前分からなかったなぁ」


「アサシンさん? ですかぁ? そんな人いましたかねぇ?」


「忘れてやるな! 存在は! いや、あれだけ無口だと仕方ないか」



 己を見つめるのに夢中で、何もわかっていない変態天使エクリアに。勇者カイザー、エミリー、名もわからぬアサシン。そして魔王配下を倒した事を話した。


「魔王配下!!! まさかそんな事が危ないですねぇ。それにしても、私が自分の美貌びぼう! そして! この! あふれんばかりの! ボイン! ボインに! 見惚れているすきに、そんな事があったんですかぁ」


「うざい話し方をするんじゃねぇ」


「ふふ。今の私は、さいこおぉに気分がいいですからねぇ。ユーリの小言も気になりませんよ!」


(こいつぅ。俺を殺した事、忘れてんじゃねぇだろうな)


 ただ、やはり天使は天使だった。


 勇者の墓があるなら「天使である私が! 祈りを捧げてあげようじゃぁ、ありませんかぁ」と言って。


 エクリアは、勇者達の墓の前に、ひざまずき、10分祈りを捧げた。

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