第5話 炎メイドの戦い
俺が立ったまま、頭を両手で抱え、ぶんぶん振り回していると。
使用人のように、命令があるまで、沈黙していた『召喚獣イフリート』が主人の不安を感じとり話した。
「あらあら、やっと長話が終わったのかしら。じいさんの話は長いわね」
「お前はメイド?」
「ここは私がやってあげるから、ご主人様は下がっててくれるかしら」
「大丈夫なのか? 魔王配下だぞ」
「あんな
「よゆう?」
「余裕よ」
「なら任せるぞ!」
「任されたわ!」
どうせ右も左もわからない、俺には何もできない! この場は自信に満ちあふれ、笑みを浮かべる赤髪メイドに任せることにした。
この状況ですら、川の水鏡に映る己の黒髪と胸をニマニマ見ている、エクリアの所に下がった。
魔王の配下いるのに、すげぇなこいつ。
「それじゃあ始めましょうか。おじいさん」
「小娘1人とは舐められたものじゃなぁ。まぁよいわ! みな殺せば同じ事じゃ!」
ドクードは呪文を唱え、杖で地面を突いた。
「『
地面から無数の手が現れると、乾いた土が砕ける音を立て、地の底を這い上がるゾンビ達の、うめき声が悪臭と共に辺りに鳴り響いた。
「うげ! ゾンビ映画かよ! しかもクセェ」
俺は強烈な臭いに、腕で鼻を塞ぎ、何ができるわけでもないが、腰を落とし身構えていた。
「悪趣味でいて、そして下品な技ね。ジジイにお似合いだわ」
「ガキには、わからんだけじゃ。奴らを殺すのじゃ。つまみ食いするでないぞ。ギャハハハハ」
「命令の仕方まで下品なんて救いがないわね」
ドクードが命令するとゾンビ達は、人が走る程の速度で走り始めた。
「おいおい! ゾンビって! あんなに早く動けるのかよ」
俺が慌てているのを赤髪メイドは、楽しげに笑い。
「ご主人様。心配はいらないわ!」
先程まで全てを燃やし尽くす、紅蓮のような髪、瞳、服をしていたが。
今は深海の様に全てを海底深く呑み込む程の濃い青に染まっていた。
青髪メイドは手の平を開き口元に近づけ「全てを無に返す青き炎よ」手の平に収まる程の、青白い炎の塊が現れ軽く息を吹きかけた。
「ふぅ」ボッ!
青白く燃え盛る蝶が、無数に飛び立ちゾンビ達に襲いかかり、蝶に触れた者は一瞬にして灰となり、1分もしない内にゾンビ達は姿を消した。
ドクードは目の前の状況を理解できず放心状態になり固まっていた。
「すげぇ! 数百はいたゾンビが一瞬で跡形も無く消えたぞ! 何したんだ」
俺が驚くのが嬉しいのか、青髪メイドは嬉しそうにしていた。
「私が使った魔法はね。天界の炎を使った魔法で技名が『
俺が話す直前、解説を聞いてドクードが怒鳴り声を上げた!
「ふざけるでないわ!!! 天界の炎を使える者なんぞ! 人間界におるわけなかろうが!!!」
俺の反応を楽しげに待っていた、青髪メイドの眉が一瞬動き何かが切れる音がしたが。
青髪メイドは、ドクードを無視し俺を見て、手の平の青白炎を俺に近づけ、犬、クマ、ネズミ、蝶に変化させた。
「この技は、形を自由に選べるのよ。蝶みたいに小さいと、威力が落ちるんだけど、一瞬で大量に数を出せるから、さっきみたいな『ザコ!』なら充分よ」
「おぉ! 凄いぞ! メイド」
「ふふ、余裕って言ったでしょ!」
俺はドクードに視線を移した。無視され腹を立てているのだろう。遠くでも分かるほど体を震わせ、怒りをあらわにしている。
ドクードの周りには護衛のため残したのか、カイザー、エミリー、アサシンが残っているが。ゾンビ達を倒した蝶は全て消滅している。
別にドクードが倒したわけでなく、自然に消滅してしまった。
俺は気になり蝶を消した理由を聞いた。
「ゾンビ達は倒したけど。何で蝶を全部消したんだ? せっかく出したんだし、倒せなくても当てればよかったんじゃないか?」
青髪メイドは不機嫌そうに、顔の正面で手を左右に動かし、違う違うとジェスチャーしていた。
「蝶でも倒せるんだけど、灰が残るのよ」
「灰? ゾンビは倒して灰にしてたが、残るとダメなのか」
「ゾンビは召喚魔法だから倒せば元の世界に帰るんだけど。死体を使った魔法は厄介でね。カケラでも残ってると復元しちゃうのよ」
俺が「じゃあ、どうするんだ?」と聞く直前で。
「ゲハハハハ! そうじゃろうて、そうじゃろうて、ワシの傑作じゃからのぉ! こやつらは倒せまいて! 天界の炎なんぞ、つかえやぁせんのに、ウソをつくから主人を不安にさせるんじゃぞ! ギャハハ! ゲフ! ゲフ! ゲホォォ!」
先程まで、怒っていたドクードが勝ち誇ったように、奇声を上げていたが。
ジジイは笑いすぎで、むせたようだ、ザマァみろ。
だが実際どうするんだと、青髪メイドの顔に目をやると。
顔をしかめ、眉を震わせ今度は、はっきりと何かが切れた音が聞こえた。
俺を見ていた、青髪メイドは振り向きドクードを睨みつけていた。
「人が話してるのに! うるさいのよ! あなたは、もう死ぬんだから黙ってなさい!」
呪文を唱えた。
「ご主人様に会えた! 気持ちの高揚のように、全ての者の中に眠る熱き魔力よ! 我に従い紅蓮の花を咲かせなさい!『
ドクードは、腹を手で押さえ苦痛の表情で顔をゆがめ、口からはカニのように泡を吹き、こちらを
「な……んじゃ……これは! なにを……した! ごむずめぇぇぇ!! ゲボォォ!」
ドクードの口からは火山が噴火したかのように、激しい爆発音と共に炎が噴き出した。
ゴボボボボボォォォォォォ!
「うげ! えげつねぇ」
「くふふふ、あははは! いいわ! いいわ! もっと! もっとよ! 私の気持ちの高鳴りは! そんなもんじゃないわよ!」
青髪メイドの声に刺激されたのか、ドクードの吐き出す炎は倍増した!!
ゴガァァァァァボゴォォォォォォ!!!
む、むごい、いや敵だしいいんだが。
このメイド、戦う時の性格違う気が、話しかけて大丈夫だよな。
俺は気になることがあり、恐る恐る話しかけた。
「メイドさん」
「なぁに、ご主人様」
営業スマイルのように、輝くような笑顔で振り向いてくれた。
「ドクードが火を噴いてから、カイザー達が倒れて動かなくなったんだが。何でか、わかるかな?」
「それは簡単な話よ。死人の勇者達は、魔法で自動的に動いてたんだけど、自動操作は動きが鈍いから。あの爺さんがここに来てからは、素早く動かすために、遠隔操作に切り替えてたのよ。で!! 今は私の美しく華麗な技に見惚れて、声も出ないから操作するのを忘れてるのよ」
「なるほど」
後半の説明は明らかにおかしい。
なぜならドクードは確実に、もがき苦しみ、うるさく、決して静かではないし、技に見惚れてもいない。
だが今の彼女に反論しても意味はなく、怖いのでやめておいた。
それに勇者達が動かない理由は、わかったから問題はない。
俺が納得したのを確認すると、青髪メイドはドクードを見て。
「それじゃあ、そろそろ、終わりにしましょうか」
右手人差し指を空に向け。
「広範囲魔法『
ドクードの周りに、巨大な青に輝く魔法陣が現れ、青い光が空に伸びていき、分厚い雲を貫き、辺りに太陽の光が降り注がれ、ドクード、勇者達を、薄く青い障壁が取り囲んだ。
ドクードは両膝を地面につき、口からあふれ出る炎に苦しみながらも、周りを見渡したが、目をパチパチさせ状況が理解できていないようだった。
青髪メイドは、そんな事気にも留めず続け様に。
「さぁ食事の時間よぉ! でてらっしゃい。私の可愛い可愛い青龍ちゃん」
障壁内上空に、青白い炎をまとった巨大な龍の頭が姿を表し、2本の細長い髭が波打っている。
「本物の龍! すげぇ! それに、でけぇ巨大な山が逆様になったみたいだ」
俺が感動しているのとは逆に。
ドクードは火炎を撒き散らし空を見上げ、目玉が転がり落ちそうなほど目を見開き絶叫していた。
「ご主人様に、喜んでもらえてよかったわ。それじゃあ! 最後は盛大にフィナーレよ! ふふ。さようなら、うるさいうるさい、お爺ちゃん」
青髪メイドは、ドクードを恐怖させるため、ゆっくりと時間をかけ、微笑みながら指を空から地に下ろした。
指の動きに合わせ、青龍が降り注がれた。
「グゴォォォォォォォ!!!!」
ドクードの悲鳴がまるで、青龍の
大口を開けた青龍が、ドクードを地面ごと丸呑みにし、辺りには衝撃波が起き土煙が舞い上がったが。
魔法陣から発生した、青い障壁に全て吸収され、障壁外に被害はなかった。
「ほら、そこ、手が逃げ出るわよ。ちゃんと食べなさい! 好き嫌いは許さないんだから!」
「て?」
青髪メイドが指さした場所には、ドクードの手が転がっていた。
動く様子はないが、青龍は体から手を伸ばしドクードの手を拾い口に運んだ。
1分程で青龍は消滅した。
「倒したのか?」
「そうよ」
「おぉ! 凄いじゃないか! 魔王配下を倒すなんて」
「ふふん! 余裕って言ったでしょ」
「そうだったな!」
俺は転生して、すぐ殺されると思ったが、とりあえず死なずにすんだ。
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