第4話 勇者達の死にざま
ドクード・ベルーガは、エミリーから杖を引き抜くと。俺を見てニタニタ笑いながら話した。
「ふぇっふぇっ。どうじゃ、これで分かったじゃろ。みなが死んでおることがのぉ」
俺は拳を握りしめ沈黙するしかできなかった。
「返事もなしとは、つまらんの。しかしその様子では、まだ記憶はもどらんようじゃな」
思い出すわけがない。俺は、この世界の人間ではないのだから。
だが、そんな話こいつにしても仕方がない。
「仕方ないの、魔法は疲れるんじゃが」
俺はドクードの魔法の言葉に反応し身構えた。
「まほうだと!」
「ほぉほぉ、慌てるでないわ。生き返った方法を思い出させるだけじゃ。わしの記憶を見れば思い出すじゃろうて」
「記憶だと」
ドクードは杖を振り上げ呪文を唱え魔法を使った。
「『ダークミストメモリー』」
な……なんだ、黒い霧が雲みたいに集まったぞ。
無数の黒い霧が上空に集まると巨大な固まりになり映像を映し出した。
「何やってんだよ! こいつら!!!」
「ふぇっふぇっふぇっ、みとりゃわかる。見て生き返り方を思い出すんじゃな」
ムカつくジジイだが。戦い方もわからない俺が、何かできるわけもない。
今は勇者達が何故、死んだかを確認しよう。
映像には、漆黒色の部屋の中心に勇者達が立って、こちらを見ている。
周りには数万の魔族が勇者達を取り囲み、睨みつけて警戒しているように見えた。
だがドクードの見た記憶のためか魔王の姿は見えなかった。
ドクードの背後から、落ち着いた声だけが聞こえてきた。
「わざわざ来てもらって、すまないな勇者達よ」
勇者カイザーは、真剣な顔でこちらを見ている。
「いえ、構いませんよ。和解のお話でしたね」
「和解!!!(いや、なら何で皆死んでるんだ?)」
ドクードは、俺の反応にニヤニヤするだけで何も言わなかった。
「ああ、反対する者も居たが、何とか説得できた。我々魔族も、やっと1つになれたのだ」
「そうですか。それはよかった」
「国々にも伝えてほしい。これからは人族と魔族、距離を取り、お互い干渉しないよう、契約を交わし和解をしたいと」
何だ? 和解しそうだぞ? いや、していいんだが。
それに、エクリアの体の持ち主が変だ、上品に立ってるだけだし、胸揉んだりしてない。
まぁ、あれと同じ性格なんていないだろうし、これは矛盾がないように、神様が何かしたのかもしれないな。
「それは困るなぁ」
な! カイザー……カイザーが薄気味悪い顔でニタついてる……どうしたんだ。
「な! なぜだ! 勇者カイザー!」
「和解なんてされたらさぁ。僕達が英雄になれないじゃないかぁ」
な! 何だ!! このイケメンベビーフェイス野郎!
めっちゃクズじゃねぇか! イケメンのクセに、いい奴だと思ったのに!
「そんなくだらん理由で」
魔王も呆れてるな。そりゃそうだろ。
お! 俺の体の持ち主が、カイザーに近づいて肩を掴んだぞ!
「おい! カイザー! 何言ってるんだ!!! 和解は受けると言ってただろう」
「黙れ」
カイザーは隠し持っていた短剣で、ユーリを刺した。
ザシュ
「ぐっ」
エクリアは動揺し動けなかった。
「何で……ウソよこんなの」
地面に倒れたユーリはカイザーの足を掴み。
「カイザー……やめろ……」
「うるさい! 血がつくだろうが!! 離せ!」
ザシュ! ザシュ!
「ガッ……」
倒れたユーリを刺し殺した。
「……ユーリなんで……カイザーこれで平和になるって喜んでたじゃない、なのに」
倒れたユーリに近づきエクリアは掠れた声で話していた。
「お前も邪魔だ。エクリア」
スパーン
「ぐっ……ユーリ……」
おいおい、どうなってんだよ。
あんなに優しかったカイザーに、俺とエクリアの体の持ち主が殺されたぞ。わけわかんねぇよ。
「勇者カイザー貴様!!! 仲間をたやすく殺すのか!!」
周りの魔族達の声も聞こえてきた。
「あれで勇者かよ」
「ありえねぇよ」
「俺ら魔族より魔族じゃねぇか」
「ゴブゴブゴブブブ!」
「コボコボォ」
「黙れ!! ゴミども! もう話は終わりだ」
カイザーは、ユーリ、エクリアを殺した短剣を投げ捨てた。
「やばい! 聖剣の光に焼かれるぞ!!!」
「マズイ!!! 下級中級魔族は、避難だ急げ!!!」
魔族達の逃げる振動が地面を揺らし、映像を映し出すドクードの体にも揺れが伝わり、画面は上下左右に、何度もぶっ飛んでいた。
「あそこの岩の下だ!」
「コボボッ!」
「ゴブブゥ!!」
「コボォォ!!!」
コボルトが岩直前でコケると、ゴブリンが岩陰から飛び出し、コケたコボルトに肩を貸し急ぎ岩陰に避難した。
俺はカイザーの顔を直視できなかった。
短い時間だったが、カイザーからは暖かい温もりを感じていたのに。
今の彼は映画に出てくる連続殺人鬼のように、殺す魔族達を見て、彼の表情は口が裂けたかのように、ニヤケ楽しげに笑っていた……カイザー。
「今更逃げて何になる! 俺様が何のために、こんな芝居をしたと思ってんだ!」
「我々をまとめて殺すためか」
魔王は、可能性を考えていたように即答していた。
「さすが魔王様だ! 話が早くて助かるぜ。では『さようならだ、我が勇者一族の宿敵達よ』」
「カイザー!」
カイザーは和解のため『マジックバッグ』に閉まっていた聖剣を取り出すため叫んだ。
「『聖剣エクスカリバー』」小さな光から剣の
「な! なんだこれは」
カイザーは、殺人鬼の顔から絶望した表情になり、現実を受け入れられないように、
額から一雫の汗が涙のように頬を流れ、聖剣を掴んだ手は小刻みに震えていた。
聖剣エクスカリバーの
けど俺には、カイザーが怯える理由がわからなかった。
目の前に居る死人であるカイザーも、同じ聖剣を背中に背負っている。
本来の聖剣は違う姿なのかと疑問に思っていると。
和解の話を断りユーリ、エクリアを殺すと聞いていたのか。
2人を殺す時も黙っていた、エミリーは、への字口で慌てふためき、カイザーの肩を必死に揺さぶっていた。
「ど……どうなってんのよカイザー! 聖剣は聖剣はどうしたのよ」
「うるせぇ!!!」カイザーは肘でエミリーを突き飛ばし「きゃ」エミリーは地面に倒れ込んだ。
アサシンは全てを悟ったように腕を組み沈黙していた。
下級中級、魔族達が勇者達の喧嘩を聞き、隠れた場所から這い出てきて状況を理解した。
「あれが聖剣だとよ」
「勇者さまぁ! 早く終わりにしましょうよ!」
「『さようなら宿敵達よ!』聖剣にさよならされてんじゃねぇか!」
「聖剣は何処に忘れてきたのかなぁ? 勇者様ぁぁぁ」
「あの剣白い骨みてえだな」
「おいスケルトン、あれお前の骨じゃないか返してもらえよ」
「カコカコカコカコ」
「ゴブブゥゥゥ」
「コボッコボッ」
カイザーは、顔全体にシワを寄せ、歯を食いしばり「殺して殺して殺しまくるんだ! 俺は魔族を根絶やしにして英雄になるんだ!」と魔族達を睨みつけていたが。
聖剣には何も変化がなかった「クソガァ」
魔王の声は、聖剣に変化がないか警戒をしている様子だった。
「どうやら貴様の所業に、聖剣は愛想をつかしたようだな」
「だまれ! だまれ! だまれ! くそ聖剣さえあれば! こんな奴ら! 起きろよこの! 起きろ!!!」
カイザーは、子供のように怒鳴り散らしていた。
魔族達が勇者達を囲み、腕を振り足踏みをすると画面が先程より激しく揺れ始めた。
「『勇者を殺せ! 勇者を殺せ! 勇者を殺せ! 勇者を殺せぇぇぇぇ!!!』」
エミリーは頭を抱え、座り込んでいた。
「いや、いやよ、死にたくない、死にたくない、こんなとこで死にたくない」
アサシンは沈黙のまま時が来るのを待っていた。
ドクードの視線には映らない位置から、丁寧な口調の声が聞こえた。
「魔王様、この状況では和解は無理かと」
「ふぅ。そうだな」
「勇者を殺しても、よろしいですね」
「あぁ好きにするがよい。だがユーリとエクリアは、傷つけんようにな。2人は和解を望んでいたであろう」
「かしこまりました。魔王様」
「クソガァァァァァァ」
カイザーが
「どうじゃ、仲間の裏切り、己の死を見て何か思い出さぬか?」
「いや、まったく思い出さないな(てか知らないんだよ)」
「なんじゃ、これでも思い出さんのか。仕方ないのぉ、疲れるじゃがなぁ」
ドクードの口調が変わり、体を貫くような殺意に満ちた視線を感じ必死に時間稼ぎをした。
「それで! 気になってたんだが。何で殺した勇者達を操ってるんだ」
こんなのしか思いつかん! どうすんだよこの状況! 映像に見入ってる場合じゃなかった!
いや、体の持ち主の最後だし見てよかったんだが。どうすんだ! どうすりゃいいんだ。
ドクードは両手を開き嬉しそうに。
「簡単な事じゃよ。勇者達に国王を殺させ、人々の悲鳴を合図に人族を根絶やしにするためじゃよ。かっかっかっ」
「な! 人族根絶やし!」
「ふぇっふぇっ記憶も戻らんようじゃし、生き返り方は殺して体にでも聞くとするかの」
おいぃぃぃ!!! 俺のコミュ力無いせいで、話即終了、時間稼ぎ終了なんだがぁぁ!!
どうすんのこれ! ほんとどうすんの! 魔王の部下とか勝てるわけねぇだろ! 転生しての
ゲームオーバー確実! 初見殺しのクソゲーじゃねぇか!
何考えてんだ! あの神は! 転生させてくれて、ありがとう! とか思った俺のバカ! あの天使の上司って忘れてたわ!
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