第3話 勇者達は幻


 俺が楽しみに火柱を見ていると。


『イフリート』と言って魔法陣が現れた事に、勇者達は戸惑っていた。


「な……なんだ……それは……ユーリ」


 カイザーは化け物でも、見たかのように声を震わせていた。


「ありえないわ。何をしたの」


 エミリーは夢でも見ているかのような表情で話していた。


 俺はわからず、普通に返事しかできなかった。


「何のことだ?」


 勇者達が返答する前に、俺の背後からは、魔法陣で吹き飛ばされた、川底を歩く足音が聞こえ振り向くと、火柱の中から11歳程の人影が現れた。


 血のように赤く短い髪をし、顔立ちは幼いが大人びている。少女の背後には、ムチのようにしなる、悪魔のような尻尾。


 少女が高らかに話し始めた。


「あらあらなぁに、ご主人様! 敵はたったの3体なわけ! この程度で私を呼ぶなんてぇ、何考えてんのよ!!」



 この子は恐らく召喚した『イフリート』なのだろう。昔遊んだゲームのイフリートは魔獣だったが。


 目の前に居るのは、可愛い女の子!

 そして服は! 何故メイド服なんだ! てか敵って何の話だ!


 俺が混乱して何も言えないでいると。エミリーは慌てて立ち上がり、拳を握りしめ戦う体制をとっていた。


「敵! 何処よ!」


 アサシンも2本の刀を取り出し構えていた。


「大丈夫だから安心してエミリー。辺りを見回したけど敵なんて何処にもいないよ」


 カイザーは子供をあやすように優しく冷静に話していた。


「何よそれぇ、嘘ってことぉ! 脅かさないでよもぉ」


 うそ? なるほど冗談か。そりゃあ、エミリーもフグみたいに、ほっぺ膨らませて、怒るよな。


「あぁ! もう! うっさいわねぇ! あんた達! ご主人様の声が、ちっとも聞こえないじゃない!!! 死人は死人らしく灰になってればいいのよ!!!」


 は? 死人? 灰? 何言ってるんだ? メイドさん?


「『地獄の業火』にやかれ灰になりなさい!!!」


 赤髪メイドが指を鳴らすと、アサシンの足元から紅蓮の炎が立ち上り、アサシンは炎に飲み込まれ、全身丸焦げで地面に倒れた。


 おいおい!!! 何やってんだよメイド!!!


「……っぐぅ! ユーリ……何故だ……何故。彼を殺したんだ。ユーリ」


 カイザーは怒りを抑え涙ながらに話していた。


 エミリーは涙を流していた。


「……そうよ。せっかく……皆……生きて……魔王を倒せたのに……こんなの……こんなのあんまりよ」



 俺は迷路に迷い込んだ子供のように、おどおどしながら、赤髪メイドを見るしかできなかった。


 い……いや俺に言われても。このメイドが勝手にやったんだ。


「何故だ! 何故! 何も答えてくれないんだ! ユーリ!!!」


 カイザーは片膝をつき目に涙を浮かべ、今までの冷静さを失い怒鳴り散らしていた。


 俺はカイザー達を見れず地面を見て思っていた。


 何も言えない、言えるはずがない。俺は、この世界のユーリじゃないんだ! 何もわからないんだ!!!


 俺はただ魔法を使ってみたかっただけなんだ。それなのに、体の持ち主の仲間を殺しちまった!


 どうやって詫びればいいんだよ! こんなの。


「はぁぁあ。本当にうるさいわね、あんた達。まぁいいわ親玉が来たみたいだし」


 赤髪メイドが腕を組み、冷たい口調で話していたが。

 地面を見ていた俺は、親玉の言葉が気になり赤髪メイドを見ると、空を見上げている。


 俺も空を見た。


「何だありゃ! さっき迄、雲ひとつない快晴だったのに」


 快晴の空を黒々とした分厚い雲が、うずを巻くように埋め尽くすと。

 1つの激しい雷鳴と共に雷が大樹から離れた草原に落ちた。



 俺は手で目元を塞いで身を守った。


「うわ! 危ねぇな」


 落雷のあった場所から、へしゃげた声で不気味な声がした。


「ふぇっふぇっふぇっふぇっ。1人倒されたので、何かと思ってきてみたら。なんじゃ、死んだはずのユーリにエクリアが、生きておるでわないか、こりゃ面妖なことじゃなぁ」



 何なんだよ! 次から次に! メイドは仲間殺すし! 急に現れた白衣姿のジジイは、俺とエクリアが死んだはずとか、生きてるとか言い出すし意味わからねぇ!


 俺は、イライラをジジィにぶつけた!


「何言ってやがるんだ! ジジィ! 俺達が生きてて何がおかしいってんだ!!!」



 ジジィは長い白髭を手で触りながら楽しげにしている。


「なんじゃなんじゃ。記憶もないとは、ますます興味深いのう」


 俺の怒りを楽しむようにニヤニヤと見てやがる、クソジジィが!


「記憶がないか。ふぇっふぇっ、それなら、これならどうじゃ! ほれ」


 ジジィは持っていた杖で、地面を3回突いた。


 妙に静かだと思っていたら、カイザー、エミリーは、ジジィの前でひざまずいた。


 カイザー、エミリーは魂のない人形のようにジジィを見ていた。


「ドクード・ベルーガ様。よくぞ参られました」


「な……なにしてるんだよ……2人とも」


「ふぉっふぉっふぉっふぉっ。いいのぉいいのぉ、たまらんのぉ。人間達の恐れ、恐怖、苦しみ、憎しみ、絶望! これがたまらんのじゃ!」


 俺は両手を握りしめ怒鳴り散らした!


「てめぇ! 2人に何しやがった!!!」


「なんじゃ、これでも思い出さんのか。お主達はのぉ、わしら魔族に殺されたんじゃよ。ゲハハハハ」


 俺は、カイザー達と話した内容を思い出して話した。


「何言ってやがる! 俺達は魔王を倒したんだぞ!!!」


「ふぇふぇ。そりゃあ、わしが、こやつらに植え込んだ嘘の記憶じゃよ」


「うそのきおくだと」


 話を理解できない俺に、静かにしていた赤髪メイドが俺の肩を叩いた。


「逆だったんでしょうね」


「逆だと?」


 ベルーガから視線を赤髪メイドに移すと。赤髪メイドは何かを見ていた。


「勇者達は、みーんな、魔族に殺されて操られてたのよ」


「なにいってんだよ」


 赤髪メイドは視線の先を指差し。


「ほらその証拠に、私の焼いた奴を見てみなさいよ」


「焼いた奴って、アサシンくんか? な!」


 赤髪メイドが指差した方角に視線をやると。


 アサシンは真っ黒の炭になった体で、地面に這いつくばりながら、ドクードの元に近づいていた。


「……アサシンくん。本当に……みんな、死んでるのか……あんなにやさしかった……みんな死体だったのか」


 俺が理解したのを見るなりドクードは。


「ほれ! これならどうじゃ」


 エミリーの胸を杖で貫いた。


「このクソジジィが! 何しやが……る。エミリー……」


 エミリーは遠いうえ、辺りは薄暗くはっきりとは見えないが。


 エミリーは胸を、杖で貫かれたにもかかわらず。ピクリともせずひざまずいたまま悲鳴すら上げなかった。


 俺は信じるしかなかった。

 皆の死を。

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