第2話 魔王討伐、勇者パーティーに転生した日


 深い眠りから目覚めたかのように、まだ寝たいと思っていると。

 心地の良い男の声が俺を目覚めさせた。


「大丈夫か! ユーリ!」


「ん? ん」


「エクリアまで! どうしたのよ!」


「はにゃ?」


 俺が重いまぶたを開くと。


 目の前には、青い鎧を着た。短い金髪のベビーフェイスなイケメンと。


 水着みたいな上着に、ミニスカートを穿いた、黒髪でポニーテールの美女がいた。


 転生させてもらったはずだが? 俺は地面に倒れていた。


 まだ状況が理解できていないが、2人が心配そうに見ているので、返事をしておいた。


「あぁすまない大丈夫だ。フラついただけさ」


「ならいいんだ。とりあえず、座って落ち着きなよユーリ」


 俺は優しく差し出された、手を取り座らせてもらった。


「ありがとう」


「怪我はないかい」


「あぁ、大丈夫だ」


 今わかったのは、俺の名前がユーリ。

 元が勇利だから、覚え直す必要がないのは助かる。


 それに皆ファンタジー世界みたいな格好をしている。


 俺が、ぼーっとしているからか。美女が優しく話した。


「みんな疲れてるもの、倒れても仕方ないわよ。カイザー」


 金髪少年の名はカイザーとわかった。


「そうだね。エミリー」


 美女の名はエミリー。

 胸は残念な感じだが、顔立ちは綺麗だし、ミニスカのスリットから見える脚がまた美しい。


 カイザーは、拳を握りしめ力強く!


「僕達は魔王を倒したんだから!!!」


 俺は驚いて声に出してしまった!


「魔王を倒した!!!」


 カイザーが、この世の終わりかのような、悲しい表情をしてるぞ! まずい!


「どうしたんだ! ユーリ! 僕達は魔王を倒したんだぞ! 忘れてしまったのか!」


 俺は何も思いつかず必死に言い訳をした。


「あ……いや、そのだな、疲れて記憶があいまいでな。すまない」


「そうか。ならいいんだ、安心したよ」


 カイザーは適当な言い訳でも、疑いもせずに信じてくれた。

 カイザーが、いい奴なのはわかった。


「少し休んだら、近くに川があるから移動して、そこで休みましょう。カイザー」


「そうだね」


 エミリーが俺とエクリアを気遣って休憩を提案してくれた。


 せっかくなので、状況を整理する事にした。


 俺は神様に転生してもらい、ファンタジーな世界に転生したわけだが。

 俺の知らない連中が俺を知っている、妙な状況になっている。

 言ってることを信じるなら、彼らは魔王を倒した勇者パーティーってことだな。



 メンバーは虫も殺さなそうな、金髪美少年勇者カイザー。

 白い大剣を背中に背負ってるから剣士だな。


 そして、黒髪ポニテがエミリー。

 スカートのスリットから見える足がたまらない! 見た目がこれだし、武器は持ってないから格闘家だな、たぶん。



 落ち着いて周りを見ると仲間は俺以外に、あと2人いた。


 1人は、俺と一緒に転生した天使エクリア。

 美人のサラサラ黒髪ロングで、胸は板からリンゴオッパイに転生してやがる。


 天使の羽が見えるが、皆が騒がないから皆には見えていないようだ。

 杖があるし服装は白いから回復職だな。



 次が口まで黒装束に包まれ目しか顔がわからない。おそらく暗殺者とか忍者だろう。

 名前がわかるまでは、呼びにくいからアサシンと呼ぶことにした。



 最後は俺だが、杖に白と黒のローブでメンバーから考えるなら魔術士辺りだろうな。


 今分かるのは、これくらいか。


 俺が情報整理している間、つれ転生のエクリアは。



「おっぱいおっぱい。ほほぉ!」と胸を揉んでやがった。


 怪しまれるだろうがと、皆にバレないように注意しようとすると。


 板胸のエミリーがイラつきながらエクリアを見ていた。


「なに! その胸で肩がこるアピールなの! エクリア」


「ふふ」


 体の持ち主も、こんな事してたのかよ! まぁ問題ないならいいが。


 やはり気になるのは、俺とエクリアの体の持ち主がどうしたかだな。



 しばらく休んで、草原に大樹が1本ある川に休憩場所を移した。


 大樹の陰で休む俺に、カイザーは近づき。


「『アイテムリスト、水筒』」


 ブゥン、ヒュイン


 突然空中に画面がでたと思ったら、名前を呼んだだけで水筒が現れた事に。


 ブレイクダンスをしたい程、心が震えたっていたが。

 俺は前回の『魔王を倒した!』騒ぎで学習できていたのだ。


「ユーリ、水筒置いとくからね」


 俺は冷静にイケボ風で。


「ありがとう、カイザー。助かるぜ」


 早くつかいてぇ! と思っていたが。

 ここは慎重に対応しなくてはならない。

 本物のユーリじゃないとバレたら、どうなるかわからないからだ。


 まずはボロを出す前に、情報を集めねぇと。


 30分経過。


 これまで盗み聞きしてわかったことは。

 俺達が向かっているのは、魔王討伐の報告をするため。


『王都レイトゥリア・シュバルツ』に向かっているようだ。


 カイザーは子供のように「魔王討伐の報告をして、皆の喜ぶ顔が早くみたい!」と楽しそうに言っていた。


 だが、俺は疑問に思っていた。

 ファンタジーな世界なんだし、瞬時に王都に帰る魔法やアイテムはないのか? と考えていると。


 エミリーは、ため息混じりに。


「はぁ。帰還アイテム『ペガサスのみちしるべ』が、あったらなぁ」


「仕方ないよ。ペガサスのみちしるべは、エルフが管理してる、ペガサスの羽を材料にしてるから、国王様でも持ってないんじゃないかな」


「わかってるわよぉ。カイザー、グチっただけでしょ」


 どうやら、この世界の帰還アイテムは貴重なようだ。帰還魔法も多分ないだろう。



 エミリーは魔王討伐報告で嫌なこともあると愚痴をこぼしていた。


「はぁ。報告したら盛大にパーティーやるのよねぇ」


「嫌いなのかい?」


「カイザー知ってるでしょ! 私のお尻や脚を触ってくる! クソジジイどもを!」


 カイザーは困りながらも必死になだめていた。


「まぁ、その、普通に楽しめるってことは、世界が平和になった証拠ってことで」


「はぁ。私のお尻や脚はお土産ね」


 まったく、どの世界もジジイはやることが同じだなぁ。あの脚だし気持ちはわかるが。



 情報でわかったのは!!!


 やはり魔王討伐は事実! 王都に行けば英雄として、女も金も自由自在!! 神様完璧な転生をありがとう。


 だが! 美女達は逃げたりしない!!!

 今できる重要な事は! この世界には、魔法がある!!


 まだ情報は欲しかったが。魔法を使いたくて俺は、休憩のフリを辞める事にした。


「ふぅ。元気になったから」


「え! まだ休んでなよ」


 俺が立ち上がるとカイザーが慌てていた。


「そうよ。また倒れるわよ」


 俺は焦りを隠しながら。


「もう大丈夫だ! 元気になった証拠に、魔法を使ってみせるから見ててくれよな!」


「うん、わかったよ。気をつけなよ」


「大丈夫だって」


 優しいカイザー達に、罪悪感はあった。

 なぜなら俺は、この世界のユーリではないからだ。


 だが! どこの誰かも知らない! ユーリなんかより。俺は魔法が使いたいんだ!!! すまないカイザー!



 初めての魔法だから安全のために、皆が休む大樹から離れ、川の近くで魔法を使う事にした。


 川の側には、俺と一緒に転生した。


 天使エクリアが、憧れの黒髪と絶壁胸からリンゴオッパイになれたのが、よほど嬉しいのか。


 川に到着してから、ずっと川の水鏡に映り込む姿を、ニマニマモミモミしながら。


「グフェフェ、濡れてキラキラの黒髪にぃ! 弾力ある、む! ねぇ! これですよぉこれぇ! あはぁ」


 コイツは、美女と入れ替わった変態オヤジか! いつまでやってやがる! と思っていると。


 モミモミしてる姿をみてエミリーは。


「もう嫌味ねぇ。エクリア」


「まぁまぁ。いつものことだよ」


 本当に、エクリアの体の持ち主はどんな性格してやがる。

 気にはなるが、考えてもわからないし魔法だ魔法。



 エクリアからも離れ、川辺で魔法を使う事にした。


 俺の服装からして魔法は使えるはずだ! アイテムリストで画面が出るなら、魔法は。


「『魔法リスト』」


 ブゥン!


 川のせせらぎを打ち消すような、雑音を出し空中に魔法リスト画面が現れた。


 俺は雄叫おたけびを上げたいほど興奮していたが。

 怪しまれないために、手をつねり耐え抜いた!


 川の水音で、かき消される小声で。


「おぉあるある魔法だ! 職業も書いてるな『召喚魔術士』てことは!」


 職業を見て召喚獣を魔法リストから探したが見つからなかった。

 試しに「『召喚獣リスト』」と言ったら画面が切り替わった。


「よし当たりだぜ! ほほぉ、さすが! 勇者パーティーの召喚魔術士様、いろいろいて目移りしてしまうぜ!

うぅん決めれないし、上から呼ぶか。手始めは『イフリート』だ!」


 水面に血のように赤い魔法陣が現れ。

 川の水を吹き飛ばす轟音ごうおん、爆風と共に魔法陣から火柱が上がった。



 ザバババババ! ボゴォォォォォォ


「おぉぉ! マジで! きたきたきたぁぁぁ」

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