第18話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(8)
あの双子ちゃんのお父上のことですね。
そんなこと!
少し考えれば判るようなものですわ。
王都に留学していた芸術肌の侯爵令嬢が、父親を公表できない子供を妊娠して戻ってくる。
そんな場合、すぐに幾つかの事情が考えられますでしょう?
ここまでご実家が何もおっしゃらないのなら、やんごとなき方々のお血筋ということと考えるのが妥当でしょう。
もし身分の低い者だとしても、エレーナ様がエレネージュという芸術家として国内で知られている以上、それこそ相手がまた同じ様に芸術家だとしたならば、そのまま婿として迎えてもよろしゅうございましょう。
セブンス侯爵家はそのくらいの余裕があるということも、芸術に理解があるということも決して悪い評判ではないはずですもの。
家庭のある貴族の方であっても、やはり芸術畑にあるならば、それはそれで愛人として在るのも貴族社会ではよくあることではないですか。
でもエレーナ様はそうなさらない。
でしたらもうはっきりしているではないですか。
なのにあの子ときたら、初めから「父親の知れない子を持った得体の知れない義理の妹」という色眼鏡でエレーナ様を見ている。
だから真実が見えないのですよ。
夫の持つ、そしてあの子の持つ、「公の場に紹介できる、愛しあっている両親が揃っていてこそ健全な家庭」という強固な思い込みが、その他の可能性を次々否定してしまっていて、あろうことか、エリーナ様と双子ちゃんを不幸な存在と見なしている訳ですよ。
きっぱりそう言えるのですかと?
実は夫がそう当初言っておりましたの。
汚い言葉で失礼致しますね。
「芸術家という連中は所詮自分のことしか考えていない! エレーナ様も芸術家エレネージュと持ち上げられている中で大切な何かを何処かにやってしまったのか!」
こんなことをほざいておりましたのよ。
夫は一体いつの時代のどの階級の話をしているのでしょう。
時々そう思うことがありますわ。
そして何故か、またそれにマゼンタが同調してしまっているのが困りもので。
まあでも、考えてみれば悲しい子だと思いますよ。
私だって、できれば好きでありたいと思いました。
けれどあの子の持つ人を人と見ない目には耐えられません。
当人は夫と同じ様な思想で家庭を作りたいと思っているでしょうが、あの子の性分では無理でしょう。
でも奥様、賢い貴女様があの子の性分や、過去にあったことを縁談前に知らないなどということはございませんですよね?
聞き流してくださいませ。
私、思うのです。
貴女様はこの結婚がそもそも破綻することを願っていらしたのではないかと。
ダグ様は穏やかで、侯爵という役割をそれなりにこなしていらっしゃいますが、正直、社交界での評判は宜しくございません。
上手い受け答えができないのは致命傷でございましょう?
それはマゼンタも同様。
放っておいても、あの夫婦は社交界は長く居られなかったと思うのですよ。
いえ、だからこそ問題のあるうちの娘を娶らせたのではないでしょうか?
子供ができることはない、できたとしても、何かしらの問題を起こして台無しになるような。
有能な親戚の御子を養子に迎えればお家は安泰。
そもそもそちらの方をお望みではなかったのでしょうか?
ダグ様もマゼンタも、近いうちに侯爵夫妻という役割から、良く言えば解放されて、悪く言えば飼い殺しということに。
それが何年越しの計画であったかとか、私の邪推であればそれで良いでしょうし、本当だったとしても、私、そして我が家は奥様には非常に感謝しておりますのよ。
無論決してこの先この思いつきを誰かに言ったりは致しません。
そもそも私の言葉なぞ、信じてくれる者などそうそう居るものではございませんもの。
忘れてくださいませ。
ああでも。
あの子のせいで死んでしまった、私の小さな娘のことだけ、ほんの少しお心に残してくださると私はとても嬉しゅうございますのよ。
離婚された侯爵夫人ですが、一体悪かったのは誰なんでしょう? 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます