第17話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(7)

 そんな中で、あの子がエレーナ様の双子ちゃんに対しそんな思いを抱いてしまった時、私がまず感じたのは、


「エレーナ様お逃げになって」


でした。

 昔のことがありますから、あの子にとってのエレーナ様の双子ちゃんというのは、何って言うのでしょう……

 奥様、最初にまだお二人が生まれたばかりの頃、あの子も訪ねていったことがあるのですよね。

 そしてその時はさして興味を持たなかったと。

 それはそうですよ。

 その時期の赤子など、それこそ泣くのが仕事のようなものでしょう? 

 あの子が死んだ妹のことを忘れていたとしても、赤子はそんなものだ、という記憶は何処かにあったのだと思います。

 ですがそれから数年して、何というか、絵に描いた様な可愛い…… しかもしつけが良いのだか、色んな人達の出入りで人慣れしているのか判りませんが、マゼンタにも愛想良い双子ちゃんに出会ってしまったなら……


 あの子は確かに欲しがるでしょうね。


 そしてたぶん、もう数年して、可愛いばかりでは無くなった時、きっともう要らない、となるんですよ。


 ……猫? 猫を飼ったことがあるのですか? あの子がこちらで。

 いえ、手紙にも書かれていなかったのですが。

 その時はどうだったのですか?

 ダグ様とのお出かけの時に見つけた小さな野良猫ですか…… 

 それでその猫はどう?

 ……ああ、やっぱり。

 見つけた当初は、きっと気になっただけあって、結構夢中で相手するのですよ。

 ですが、続かないのですよ。生きているものには。

 それでも、ご親戚のお宅にもらわれていったなら安心ですよ。マゼンタが家庭教師をしていたというご親戚でしたね。

 それから様子を見に行くことは……

 やはり、無いですか。

 それでもいつの間にか世話を忘れていたというのは、とてもあの子らしいと思いますよ。

 見かねた小間使いが奥様に相談したのも当然だと思います。 

 今では……? 

 そうですか! 見つけた頃の数倍の大きさに! 良かった。本当に良かったですわ。

 それから猫のことを口にしたことは?

 ……やはり無いですか。

 やっぱり、忘れているのでしょうね。

 ですから、やっぱり双子ちゃんに関しても、きっとその時期だけで、育ったら邪魔になって、誰かの元に押しつけて、忘れてしまうはずですよ。

 可愛いと言ったところで、子供は成長するものですからね。

 あの子の想像できる範囲で動く人形ではないのですから。

 本当に、強制的にも引き離して正解ですよ。

 無論、あの子達のお父上のこともあるでしょうし。

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