第16話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(6)
ぱっと見には大人しい子、で済むんです。
だから私もそんなことは無かったのじゃないか、と思う様になっていました。
ですが結婚、そして子供ができないという話を聞いた時に、あの時のことがまざまざと思い出されるのですよ。
妹に何をしたのか、と問いただした時の。
それが何か? という顔でした。
だからあの子が、家から引き離されて奉公に出されたのも、私から嫌われている、兄の方が好きなんだ、と思ったとしても仕方ないかもしれません。
実際、私はあの子を怖がっていたのでしょうから。
自分のことなのに、そんなあやふやな言い方でどうなのか、と思わなくもないのですが。
でも判らないのですよ。
兄の方は、ごくごく普通に育って、父親にも似ず、学校で、もの凄く優等という訳ではないですが――
それでも中の上くらいを維持しまして、おかげで役人になる道を自分で見つけました。
そして誰の紹介を受けるでもなく、自分で伴侶も見つけましたしね。
息子の嫁は、正直マゼンタよりずっと私にとって判りやすい、真っ当な子だと思います。
息子夫婦には現在四人子供が居ますがね、皆元気です。
その嫁の身体は、マゼンタより小柄なんですよ。
嫁は平民の出です。
父親が腕のいい職人でしてね。贅沢はしないにせよ、まあ食べるものには何とか欠かない生活をしてきた、ということです。
それでも庶民ですから、奉公に言った先ほどには良いものは食べていないと思います。
時期によっては、倹約に努めないといけなかったとも話してますし。
ですがその生活のせいですか、小役人の妻で大家族になったとしても、決して子供には不自由させまいと楽しくやっているようですよ。
そう、この「誰かと楽しく」がマゼンタには何処か欠けているんですね。
奥様、奥様のことはマゼンタは非常に慕っていたとお聞きいたしました。
あの子の小間使いにもそっと聞いております。
私達はあの子には秘密で手紙をやりとりしているのですよ。
あの子は私に積極的に会いたがらないですし、会ったところで、本当のことを話すとは限りません。
ですので、誰か外から見た目が必要だ、と感じた訳です。
するとその手紙の中には、実に奥様とあの子にしては浮かれた様に仲良くしている姿が見え隠れするのですよ。
奥様とお茶をする時のマゼンタの表情は、まるで少女のようだ、ピアノの手ほどきをされている時は、本当にべったりとくっついていらっしゃる、とか。
あんな笑顔は奥様と以外見せたことはないのではないか、と。
そして奥様も、あの子がダグ様とご一緒の時も、ご子息ではなく、マゼンタの方にかかりっきりだと。
嫉妬?
いいえ、そうではございません。心配になっただけです。
もっとも、どんな心配なのかは、私にも今一つもやもやとして判らないのですが。
ダグ様に対して、マゼンタが穏やかに接していることもちゃんと報告してくれます。
ただ小間使いに言わせると、夫婦の会話とは思えない、とのことでした。
まるで少年少女の友達同士のようだと。
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