第15話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(5)

 さて、それにしても今度のことはきっとダグ様にとっては本当に寝耳に水の様な事態でしょうね。

 私ですか? 

 まあいつかそうなるかな、とは思っておりました。

 あの子達が、結婚して三年目に、なかなか子供ができないということを耳にはさんだのですがね。

 その時果たしてどちらに理由があるのか、と私は思った訳ですよ。

 マゼンタは確かにどちらかというと身体が華奢で、まあ出産ということになれば大変だったと思います。

 ただそれと、妊娠するしないは別ですよね。


 私は五回妊娠しておりまして、最初の子がうちの長男、二度流産して、四度目に生まれたのがマゼンタです。

 そして五度目は生まれたのは良いのですが、二歳かそこらで儚くなりました。

 マゼンタにさして手をかけてやれなかったのは、そんな時期でもあったからですがね。

 あの子は覚えているでしょうか。

 自分に弟か妹が生まれるだろう、と時期のことを。

 覚えていないかもしれませんね。

 これは当人が絶対に口にしないですし、当時も何が何だか、という感じでしたから。


 末の子は女の子でした。

 そしてマゼンタと違って、よく泣く、元気な子でした。

 そう、その元気な子が亡くなったんですよ。突然。

 理由は、顔の上に大きな枕が乗せられていたことです。

 押しつけた跡がありました。

 兄の方が見つけて、慌てて私が駆けつけた時には、もう駄目でした。

 近くにマゼンタも居るから目をちょっと離しても大丈夫だ、と思ってしまったのが間違いなんですね。

 ええ。

 やったのはあの子です。

 ただ当人には、それで妹を殺してしまったという自覚は無かったでしょう。

 こう言っておりましたから。


「ものすごく泣く声がうるさかったから、止めようと思って」


 それからすぐに遺体は運び出されて、内々に葬儀を出しました。

 その間あの子は義母に預けておりました。

 その後も、妹が居なくなったことに関して、格別口にすることはありませんでした。

 義母にはこの子のしたことは話しませんでした。

 いえ、当時は自分でも半信半疑だったのですよ。

 だって誰が思いますか? 

 姉娘が泣き声がうるさいからと枕で息を塞いでしまったなどと。

 しかも、それからというもの、口にしなくなった…… 

 というより、どうも様なのですね。

 もしかしたら、そもそも妹というもの自体、それが何なのか、あの子には判っていなかったのかもしれません。

 だから、私は正直子供ができないという話を聞いて、ほっとしていた自分に気付いたものなんですよ。

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