第14話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(4)
マゼンタは私のその態度で、私があの子のことを好きではないと思ってしまった様ですがね、好きか嫌いか、でなく子として愛しておりますよ。
好き嫌いではないのですよ。
何というか、私と夫から生まれたものですから。
夫だってああいうひとですが、愛していない訳ではないのですよ。
そうでなければ跡取りの息子を作ったらあとは拒否しますよ。
娘まで作る必要など無いですからね。
でも娘ですよ。
私にもそれなりに夢がありましたよ。
母から教わった縫いものの技術を教えるとか、料理を一緒にするとか、望むのならば、楽器を教わるとか、その時に一緒に私自身もうろ覚えだったところを学んでみようとか。
……それはまあ、かなり裏切られた訳ですがね。
あの子は夫と一緒に本を読んでいる方が好きでしたから。
何を考えているか判らないことだってしばしばでしたよ。
ですが、だからと言って、育てることを怠ったことはないと思いますよ。
ちゃんと食べさせ、着替えさせ、身の回りのことはできるように教えました。
あの子は忘れているかもしれませんが、近くに住んでいた女の子達からのけ者にされた時にはしっかり抱きしめてついてやったりもしましたよ。
ただその時、あの子は#何とも思っていなかった__・__#、なんて想像もできなかったんですけどね。
だからあの子は私には教えられない、と思ったのですよ。
あの子の感覚は私とも、この辺りの子も違っていました。
だから平民の子達が通う学校に行かせるのはまずい、と思ったんですよ。
夫の価値観が染みついている部分も多かったですからね。学校へ行ったら行ったで、周囲をおかしくしてしまうのは目に見えていました。
かと言ってあの子が知りたがっていたことは私には教えられません。
何だかんだ言ってあの子が学びたがっていたのは令嬢教育なんですよ。
マナーとか言葉づかいとか、様々なそんなものを含めた。
平民の学校で教わるただ単なる読み書き計算では足りないのです。
私は確かに男爵家から嫁ぎましたが、令嬢教育というものは付け焼き刃ですわ。
今の今でも、奥様に対して、どの程度敬語を使ったものなのか時々自分でも混乱しそうになりますもの。
嫁ぎ先に関しては、正直ああなって私にはちょうど良いと思っていますの。
これがもし、本当に資産があって、沢山の使用人を使わなくてはならないところだったら、その方が私はきっと疲れ果ててしまったと思うのですよ。
夫から言わせれば、私と結婚したことが運の悪くなり始めらしいてすが、いえいえそんなことはない。
夫はいつか資産を食い潰しました。そういう性格と能力です。
だからこそ私の様な者が妻となって良かったと思うのですよ。
影でそっと支えるというのはどうにも性に合わなくて。それこそ後ろに居るなら尻をひっぱたくなり、追い越して先んじて仕事をした方が私にとっては楽でしたからね。
ただあの子は、マゼンタは夫似でしたからね。
やっぱり後ろから尻をひっぱたいてやらないことには、何とか生きていくことができないだろうと思ったのですよ。
没落した子爵家、なんて曖昧な立場ですよ、奥様。
裕福な平民の方もまた曖昧ですが、身分のことさえ目をつぶれば彼等は貴族より気楽に楽しくやっていけます。
ですが没落貴族というものは、なかなか自分の立場を受け容れられないものなのですよ。
夫は尻をひっぱたいて、そちら様から領地を分けていただきましたから何とかなりましたが、先代様がその様な事態になったら、まあ見ていられないことになったでしょうね。
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