第13話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(3)

 エレーナ様もおっしゃっていらしたと思いましたけど、上位貴族の世界は、下位貴族より、ある意味平民のごたごたに近い部分があると思うのですのよ。

 いえ、下位貴族でも、ある程度以上の生活をしているところでは、上位貴族に近いですわ。


 八つのあの子を奉公に出したのは伯爵家でした。

 そこの同じ歳のお嬢さんの勉強相手兼遊び相手、そして多少の身の回りの世話ですね。

 勉強をさせるため、もあったのですが、あの子の思っている家庭はそうそうあるものじゃない、というも私は見せつけたかったのかもしれませんね。

 その意味ではあの子が私に対し疎まれていると思ったとしても仕方ないかもしれませんわ。

 でも事実ですもの。

 私は街でそれを知っておりました。

 ですがあの子にはそれを知る機会はそうそう与えられませんでした。

 夫がまた常々「こうあるべき」をあの子に読んであげている絵本やら何やら、教育的な物語の中で強調するのですよ。

 すると私の中の子供が騒ぎ出すのですね。そんなこと理想に過ぎないと。

 まあそう大人げなく思ってしまうこと自体、親としてどうなのか、というのかもしれませんがね。


 向こうも時々里帰りはさせてくださいましたよ。

 その時には結構なお土産も持たせてくれて。服も上等なものになって。

 ただそれはあくまでお嬢様のお下がりなんですがね。

 お嬢様が飽きたり小さくなったり、そんなものの中で身体に合うものを横流ししてくださったのですよ。

 だけどあの子の中では、何処かでやはり、自分のために作られたものではないということがあったようですね。

 身体には合っても、似合わない服が多かったですから。

 ちょっと手直しすれば、あの子に似合うようにすることはできたのですがね。

 合わない肩の部分を調整するとか、色を少し染め直しするとか、ちょっとだけレースを付け足すとか、そんなことだけでもずいぶんと印象は変わるものでございます。

 それは母に教わったことです。

 ですが貰いもので、それをまた着て帰るならばそれはできないのですよ。

 手直しすることで嫌みに取られることもありますでしょう? 

 奥様でしたら如何ですか? 与えた服を勝手に改造して戻ってきたら。

 ダグ様はきっとそうされたとしても、何か少し違うかな、と思う程度で似合う似合うと言ってくださると思うのですよ。そういう方です。

 伯爵家の人々は、無論そんな鷹揚な気質ではございませんでしたね。

 あの子に対して、「どう? その服、羨ましがられたでしょう?」とか聞かれたそうです。

 あの子はどう答えていいのか判らず、口をぱくぱくさせることしかできずに「この愚図」とか言われたそうですが。

 まああの子からしたら、似合っていないのは明白なのですよ。

 そしてまたあの子は、そう自分が思ってしまったことに対し、嘘をつけないのですよ。

 で、実際私も複雑な表情をしてしまったのですね。

 確かに似合っていなかったのですから。

 ですが向こうも悪気があった訳ではなく、ただ服装のセンスが無かっただけということなのですよ。

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