第12話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(2)
地頭が悪い訳ではないのですよ、あの子は。
むしろ良い方でしたわ。
実際家庭教師という職をこなすことができたくらいですもの。
私などよりその意味ではずいぶんと良くできた子ですわ。
ただ、一度自分の中で凝り固まってしまった理想の何とやらを決して壊すことができないのですよ。
そう、先ほど奥様に私申し上げましたけど、「正しい家庭」ですね。
あれは元々夫が常々言っていたことなのですよ。
夫もどちらかというと学究肌でしてね。
だから領地経営も博打も絶対向いていないのですよ。
何かに賭けるにしたところで、詳細なそれまでの経験値などがあればともかく、何故か何処かで破綻して、ぽん、とやらかしてしまうのですよ。
しかもその時の自分の考えの流れがおかしいことに気付けないのですね。
まあそういうひとは居ますよ。
私が母と暮らしていた頃にはよく街で見掛けました。
でもそういう人達は、それなりに街の人々の中では生きていけたものですよ。それなりに皆そういう人に合った仕事を世話するだけの人情と打算がありましたもの。
合った仕事をさせないことには、皆貧しいのですから、更に貧しくなってしまいかねないですからね。
皆その辺りは、学は無くとも頭を回しましたよ。
母は貴族の館の使用人だったということから、街の口入れ屋では少し上等な服の飾り縫いの仕事を入れていましたね。
そう、こういうブラウスの模様などを刺繍したりする仕事ですわ。
そうでなかったら、少し上等な菓子を祭りで作る時に、あらかじめ皆で作る時に教えたり、細かい飾りつけとかについて助言したり。
そういうことが街では良く回っていたものですよ。
皆それぞれ、自分の能力と仕事をちゃんと掴んで、仕事とパンを分け合って生きていましたね。
私はそういう生活をしてきたことを感謝しておりますのよ。
奥様もそうではございませんか?
ええ、そうおっしゃると思っておりました。
奥様は私の出会った貴族の奥様方とはやはり違います。
とっても恐ろしい方だと思います。
ですが、その一方で、娘の嫁ぎ先としては、ある意味良いのではないかと思っておりました。
少なくとも、ダグ様は娘の夫としてはとても良い方だと思っておりました。
いえ、今でも思っております。
あのくらい鷹揚な方でなかったら、あの子は十年がところ保つなんてことはできなかったでしょうね。
きっと耐えられなかったでしょう。
あの子の「あるべき姿」に最も適した方だと私は思っておりました。
ですので、子爵家から二つ飛んだ侯爵家など、身分不相応だとは思いましたが、結婚は私も夫も喜んだのですのよ。
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