第11話 離婚された侯爵夫人の実母が義母に対し語る(1)

 離婚。

 対外的には別居。

 まあ、やっぱり…… って言う感じですか。

 いえ、そもそもそんなお話があの子に出たこと自体、私としましてはおかしいと思いましたもの。

 いいえ決して、奥様を責めている訳ではございませんわ。

 あの子には無理だ、と思っていたことが実際にそうなったというだけのことなんですのよ。


 ……あの子のことが嫌い? 

 兄より酷い扱いを受けていた? 

 そうあの子が感じているのならきっとそうなのでしょう。

 あの子にとっては。


 言い訳する訳ではないのですが、あの子を八つの時から奉公に出したのは、私、というか我が家では教育ができないと思ったからなのですよ。

 貴族の女の子がきちんとした教育を受けるには家庭教師につくしかないでしょう? 

 学校は男の子の寄宿制しかございませんもの。

 平民なら男女分けずの学校があるのでしょうけど、あの子はそこに行くのはどうしても嫌、ということでしたし。

 でも何かしらの教育は受けさせたかったのですよ。

 何せ我が家は悲しいかな裕福とは程遠い状態ですから。


 我が家が子爵家として相応しくないまでに没落したのは、ええ、本当に先読みの力が足りなかったせいでございます。

 夫は領地経営の才能は正直決して秀でてはいない上に少々博打気質で。おまけに形式主義で。

 結果として、何とか持っていた家もあの子の小さな頃に売る羽目になってしまいました。

 それからというもの、平民の家族同様に暮らしてきたという訳ですよ。

 私なぞはもう、爵位があるだけの平民のつもりで働こう、と切り替えたのですがね。

 私自身、男爵家の出ではあるのですが、庶子でしてね、政略結婚させる子供が必要だったから、と引き取られた訳ですよ。

 小さな頃は、それこそ今住んでいる家よりもっと小さなところで、男爵のお手つきとなって解雇された使用人だった母親と一緒に、慎ましく暮らしていたものです。

 だからまあ、あの子の言うところの「正しい家族」なんて元々存在する訳はない、ということは私自身よぉく身に染みていましてね。

 ですが夫の方が、妙に「正しいあり方」というものにこだわっていましてね。

 そう、子爵家はこうあらねばならない、というものです。

 ですから奥様のお申し出はとてもとても! ありがたかったのですよ。

 夫は大小ともあれ、領地を持って管理していくことが爵位を持つ貴族には必要と思い込んでいるところがございましてね。

 そう、あの子は私よりは夫の血が強く出てしまったのですよ。

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