第10話 有名な画家の侯爵妹が語る(2)
で、お義姉さんにはその辺りを隠していた訳ですよ。
何故、と言われても困るんですが。
まあ母がまず止せ、と言ったんですね。
きっと理解できないだろう、と。
その辺りは納得できたんですよ。
義姉には何やら理想とする家庭の形が彼女なりにあって、そこにどうしても近づけたい、という望み…… というより願いとか、祈りとか、そういう感じで望んでいたんですね。
だけど残念ながら当人には子供ができない。
これはどうなんでしょうね。
実のところ、仲間の医師から見ると、兄さんもお義姉さんもどうも子供を作るにはちょっと無理があるということらしかったんですよ。
兄さんは真面目で奥手で、お義姉さんと付き合うまで、女っ気がまるで無かったんですね。
召使いからの手ほどきも受けてないんじゃないと。
そう、貴族の男子は大概どこかで手ほどきを受けてるんですよ。
やっぱり跡取りである子供を作ること自体、義務ですからね。
義務のための予行演習のために若い乳母が手ほどきをすることだって珍しくないんです。
ところがどうも兄さんの場合、それを嫌がったふしがあるのですよ。
私ですか?
まあ王都で芸術家達と一緒に騒いでいた時点でお察しではないですか。
とはいえ、私もきちんと貴族教育は受けた後に王都に居た訳ですから、あからさまにおかしな相手と付き合いはしなかったのですよ。
その辺りの上手いかわし方なども、上位貴族としてのたしなみではありますからね。
ですからお義姉さんは……
そうですね、ぶちまけて言えば、悲しいことですが、社交界では、とっても浮いていました。
無論兄さんと一緒だったし、二人で居ればとてもお似合いでした。
ただどちらも、とても社交上手とは言えませんでしたね。
社交の場というのは何と言っても笑顔の下で何を考えているか判らない世界なんです。
そういうものだと学んでからデビューするものです。
ところが二人とも、笑顔は笑顔と受け取ってしまうのですね。
疑うことを知らないんです。
兄さんは生まれ持った性質として。
お義姉さんはそういう、まあ陰険な場に育ってこなかったのですよ。
だからどうしても話がとんちんかんになるんですね。
そして当人達はそれに気付いていない。
裏で笑われているとしても気付かない、というか気付けないのですよ。
人としては美徳かもしれませんよ。
だって貴族の場などというのは、国の中でもほんの一握りの世界で、しかも神経わすり減らす様な戦いの場でもあるのですからね。
家格以外での上下争いも常に行われていますね。
私はたまたま、絵というものにおいて数歩以上秀でていたから、特別に場所に足を置いていた訳ですよ。
ですが二人ともそういうものは何もない、ただの善良な、そう、裕福な平民だったら、とっても良い夫婦として周囲からも受け容れられたのではないでしょうかね。
ですが、残念ながら。
お義姉さんの家がせめて最盛期にあったなら、それなりの教育を受けてきたかもしれませんけれど、残念ながら家庭教師として知識とか表面上のマナーを教えられたとしても、上位貴族社会のどろどろとした社会の意味そのものが判らなかったんですね。
だから、そうですね。
この離婚…… 実質的には別居ですか。
下手に解き放ってしまうと、これはこれで大変なことがおきかねないですし。
そもそも、この結婚を承諾したのは母ですから。
通常の社交界を上手く泳いできたお母様が、わざわざお義姉さんとの結婚を快諾したこと自体、私はとっても怖いものがあると思うのですがね。
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