第9話  有名な画家の侯爵妹が語る(1)

 ええ、義姉は何も悪いひとではなかったと思うのですよ。

 そして当人も悪いことをしているという感覚もなさげで。

 だけど、私の大事な双子を自分をどうしても自分主体で親として育てたい、だから養子に欲しいというのは無理。

 何があろうと無理です。

 私だって無論、この子達を実の父親と一緒に過ごさせてやりたいとか思ったりもしますよ。

 ただそれがそう簡単にできない事情がある、ということにどうしてもお義姉さんは想像が回らなかったんですよね。

 そのうえ、私個人としては画家としてある程度の地位を確立してるので、別に育てられない事情は無かった訳ですし。

 ですから、あのひととどうにも合わなかったのは、やっぱりお義姉さんと私達の育った環境の違いがもの凄く大きかった訳ですよ。


 私達はまあ、大概家同士、家格の合った同士で結婚して、子を作り、その上で愛人を作ることはよくあることなんですよね。

 特に上位貴族ではそれが普通でしょう。

 家格の合う家の数そのものが少ないのですから、結婚は愛だの恋だのとは別次元ですもの。

 だけど下位貴族の場合は、裕福な平民のそれに近いらしいんですよね。

 私も話に聞いただけだけど。

 思い合った同士で結婚して、その上で両親の揃った家庭できちんと子供に愛情を持って育てる。それが理想。

 これが貧乏な平民だったらそうもいかなくて、愛だ恋だで結婚したところで、貧乏人の子沢山という言葉があるそうで、気がつけば沢山の子供はできて、いちいち構っていられない子供もいて、なんてことよくある話らしいんですよね。

 らしいらしいというのは、私も聞いた話だからなんですがね。


 私のアトリエにやってくるのは、それこそ上位貴族から貧しい平民まで様々ですよ。

 ただ皆芸術という分野で、それなりの能力を認められている、その一点で結びついてる仲間なんですね。

 だからそう、上位貴族どころか、その上もさりげなく紛れ込んでたりした訳ですよ。王族の一員が。


 要するに私の双子の父親というのは、王族なんですね。

 しかも王位継承権が二番とか三番とかくらいの。

 私の家はなかなかに良い家格なんで、何かあったら下手すると私自身、妃にされてもおかしくはない訳ですね。

 私がそれは面倒だ、と言って断ったりもしているんですが、もし本当に相手の方が周囲の勧めを断りまくって押し切ったら、私もさすがに覚悟しなくてはならない訳ですよ。

 無論その場合、侯爵令嬢エレーナとして嫁いだとしても、画家エレネージュとしての活動は絶対に守り通すつもりですよ。

 そもそもそういう私に彼は惚れ込んだらしいのですからね。

 でもその活動ができないのだったら、妃になるなんてことは断固辞退しますね。

 ただ子供達は認知されざるを得ないかもしれないですが。

 彼はどうも周囲には「女嫌い」とか「男の方が好きなのでは」と見られてるふしがありましてね。

 まあ要するに、彼目当ての女達が嫌いなんですよ。

 私は別に王族としての彼はどうでもよくて、彼の無闇に上手い演技力というものが楽しかったんですがね。

 で、彼としてはそんな風に王族として見ない私の冷たい視線が好きなんですよ。

 変態ですね。

 だから私以外の女に対して男の部分が機能するのかというと、難しいのではないかと。

 まあ彼が継承権を放棄する度胸があればいいんですがね。

 すればいいのに、と私は常々思っているんですがね。

 ただそこでぐずぐずしているから、私もそこで結婚しようという気になれないんですね。

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