第4話 離婚された侯爵夫人は語る(4)

 そしてやがて本当に義妹は王都に子供達を連れて引っ越してしまいました。

 画家としての活動は、その方が確実に良いとのことです。

 私はすっかり気が抜けたようになって、彼女達が消え、鍵がかけられた離れを外から眺めてはため息をつきました。

 そしてとうとう、合鍵を見つけてはあの子達の住んでいた部屋に入り込んでは、匂いが残っている部屋で一日ぼうっとして過ごしたり、思い出にふけっていました。

 ですがそんなことも、やがて義母と夫に見つかってしまいました。


「何をやっているの?」


 優しく義母は問いかけてくれます。あくまで優しく。

 これが私の母だったら、何発か頬を叩いたことでしょう。背中を撫でてくれる手のぬくみ。母からは一度たりとも感じたことのないものです。

 思わずぽろぽろと涙が落ちました。


「だって…… あの子達が……」

「ねえマゼンタ、あの子達は貴女の子供ではないの。あくまで向こうの、エレーナ(エレネージュの本名)の子供なのよ」


 何度も何度もそれを繰り返しました。堂々巡りです。


「何でエレーナが王都に引っ越したか判らないの? あなた、子供達に自分が本当の母親だと吹き込んでいたというじゃないの。乳母から聞いたわ」

「いいえそんなことは。いえ、そうであって欲しいとは思いましたが」

「ではやっぱりしていたのね。何ってこと。駄目よマゼンタ、あなたがどう思おうと、あの子達は充分ねエレーナのもとで幸せにやっていけるのよ」

「ではお義母様、教えていただけますか? 一体あの子達の父親は誰なのでしょう? あの子達が生まれたことを知らないのですか? 何故」


 それ以上言うな、とお義母様は私の口を制しました。



 そこで私は、侯爵家の中で調べ物に特化した召使いに、そのことを調べる様に命じました。

 ――そして無論、すぐにそのことは夫とお義母様に判ってしまいました。

 次には王都へあの子達の様子を見に行くために、荷造りを始め、馬車の用意をさせました。

 それもまた、止められました。


「どうして、様子を見に行くのも駄目なのですか? 寂しいんです。あの子達がいないと」

「子供が欲しいなら養子を取るか、それとも、もっと僕等で努力してみればいいじゃないか。それじゃあ駄目なのか?」

「私はあの子達が欲しいんです! じゃなければ、あの子達が、ちゃんと両親揃っているところが見たいんです!」


 旅支度で馬車に乗ろうとしているところを取り押さえられた私は、夫にそう叫んでしまいました。

 馬車には乗れました。

 ただし夫も一緒に。そして行き先は王都ではありませんでした。

 そのまま、私は別邸へと運ばれていきました。



 夫は私に離婚してくれ、と哀願しました。

 好きにして欲しい、と私は言いました。

 実家の酷さを良く知っている彼は、私を戻そうとはせず、かつてあの子達が生まれたこの別邸に住めばいい。時々身体の調子や様子を見に医者をよこす。

 充分な生活費は用意する。

 ただ、この地から出てはいけない。

 そう言いました。

 それはご両親の願いでもあるそうです。


「君との間以外に子供を作る気は無い。跡取りは君の教えた従姉妹のところの男の子をもらおうかと思っている」

「どうしても、あの子達の父親を教えてもらえないのですか」

「幾ら駄目だと言っても君は承知しない。でも駄目だ。言う訳にはいかない相手というのが、この世には居るんだよ」

「わかりません」

「それにずっと聞きたかった。何で君はそこまで、あの子達と両親が揃っている姿、が見たいんだ?」


 私はそれには答えられませんでした。


「両親が揃っていても不幸な子供は居るだろう? 君自身のように」

「私が、不幸?」

「気付いていなかったんだね」


 彼は、悲しそうな目で私を見ました。



 それからずっと、私はこの家で暮らしています。

 元夫は、エレネージュ作の双子の絵を送ってくれました。私はそれを日長見て過ごしています。

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