第2話 離婚された侯爵夫人は語る(2)

 ところが五年ほどまえのことです。


 エレネージュが母夫人に「子供ができた」と言ったのです。

 すると母夫人はちょっとここでは、と私に席を外させました。

 二人だけで話をしたのち、お義母様はお義父様に話したとのことです。


 そしてしばらくエレネージュは本宅を離れ、田舎の別邸で出産しました。

 双子だったということです。


 観に行こうよ、という夫の言葉に、気が進まないながらも一度別邸へと足を運びました。

 私はそこで騒々しい、あまりに喧しい音を立てるその生き物になかなか近づくことができませんでした。


「どうしたんだい?」


 夫が私のその態度に驚いたようです。

 私はどうやら傍から見て判るくらいに子供達に対して身構えていたようです。


「やっぱり子供ができないのが、辛いのかい?」

「そんなことはないですわ」


 私は言いました。

 私達の間には本当に子供ができませんでした。

 夫婦の生活はきちんとしていますし、お互い健康です。

 月のものとの相性も見計らって行為を重ねていました。

 ですがどうしてもできません。

 お医者様も、不思議がっていました。

 お義母様は申し訳なさがる私に優しくこう言ってくださいます。


「跡取りのことなら心配しないでいいですよ。分家から養子を取ればいいんですからね」


 お義父様も同様です。

 どうやらこの家はそうやって代々子供ができなければ、周囲の親戚から養子を取っていたとのことです。

 ただそこで、何故エレネージュの双子に継がせる、という言葉が出なかったのか不思議でしたが。



 そしてまたしばらく経ち、また本格的に絵を描くということで、エレネージュは双子を連れて本宅に戻ってきました。

 離れに子供のための乳母と教師の両方を置いての生活です。

 さすがに以前程ではないですが、それでも彼女の仲間はやってきます。

 子供達を見ては可愛がっていきます。

 そう、この子供達が、とても可愛いのです。

 私は驚きました。

 自分がそんな感情を持ったことに。

 初めてみた時の、よく判らない肉塊の延長の様な生き物ではなく、既に目鼻立ちもくっきりして、すべすべした肌、くりくりした目、そして何と言っても私に屈託なく近寄ってきては「遊ぼ」と言ってきてくれる。

 私にとっては何もかも初めてのときめきでした。


 それからというもの、私は二日に一度は離れに出向いては子供達の元に行きました。

 もう夢中でした。

 でも、通えば通うほど、私の中で心配になることがありました。

 それはこのアトリエにやってくる人達のことです。

 そしてまた、エレネージュが夫も持たず、一人でこの子達を育てているということです。


「相手の方と結婚するつもりはないのでしょうか」


 そうお義母様に訊ねたことがあります。するとこんな答えが戻ってきました。


「それはちょっと難しいようね。」

「何故でしょう? 相手が家庭のある方なのですか?」


 そう、まず私は不倫を疑ったのです。

 エレネージュの奔放な生活を思えば、相手が未婚既婚どうでもよいのではないか、と。

 いつも来るあの中の誰かだったとして、その中の既婚者なのかも、と。


「そういう訳ではないのよ。今のところ、家庭がある方ではないわ。ただ、相手の方に判ってしまうと、それはそれでちょっと難しいし、子供を取られてしまうかもしれないの」


 お義母様は言いました。

 ですがそんな方、私には想像がつきませんでした。だからエレネージュが優しい両親に適当なことを言っているのではないか、と思いました。

 そして私の離れ通いが続きました。

 やがて、一つのことが頭を占める様になりました。

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