邪教徒滅ぶべし! 悪霊にかける情けは無い!
俺は朝、さわやかな目覚めをして窓を開ける。日光が差し込んできてファルも目を覚ます。
「ふぁあ…………おはよう、ラック」
「おはようファル」
それにしてもさわやかな空だなあ……
「しかし胸くそ悪くなるような窓からの眺めですね……こっちを開けるのでそっちは閉めてくれませんか?」
そう言って横の窓を開ける。俺はよく分からないまま開けている窓を閉めてファルに聞く。
「どうしたんだ? さわやかな朝だったじゃないか?」
「えぇ……正気ですか? そっちの窓から悪霊が住み着いてる建物が見えて気分が悪いんですよね……」
「悪霊って……」
苦々しくファルはつぶやく。
「大体あの悪霊人間至上主義者の香りがするんですよ気に食わない気に食わない消し飛ばしたい吹き飛ばせば絶対気持ちがいいですよ!」
「分かった! 分かったからもめ事を起こすのはやめてくれ! 頼むからな!」
何かスイッチが入ったのかファルがダークモードに入ろうとしていたので俺は懇願した。
「それはそうと、ギルドに行くぞ」
ファルは少し驚いたようだ。
「珍しいですね、怠惰な貴方が依頼を進んで受けようなんて」
「そりゃあ金はまだあるが、ギルドで実力を示しておかないと仕事を回してもらえないからな」
ギルドには利用者には開示されないが隠しランクというものがあるらしい。それによって受注できる依頼をやんわりとお断りされることがあるらしいので気を使う。
そうしてギルドに向かうと、俺たちを見るなり受付のミーナさんが奥の席に案内をしてくれた。基本的に特定の冒険者を贔屓したりなどしないはずなのだが……これは何かあったか……
「おはようございます、ラックさん、ファルさん。二人ともお元気そうで何よりです」
「そうですか」
俺はさっさと用件を言ってもらうことにした。
「それで、何の用なんですか? こういう扱いをされると切って大抵厄介ごとがあるんですけど」
ミーナさんはため息をついた。どうやら当たりらしい。
「実はですね、ファルさんが神聖魔法を使えると小耳に挟んだんですよ」
コイツの実力が知れ渡っているのか? 厄介ごとが舞い込んできたな。
「ほう、私の実力にご用ですか……で、何をして欲しいんですか?」
「実はですね、町外れに教会があるのはご存じですか?」
「ああ、あの胸くそが悪くなるような邪悪な教会ですか?」
ミーナさんは少しポカンとしてから頷く。
「ええ、あの教会ですけど人間至上主義者の集まる教会でして亜人などの排除を謳ってたんですよ。信教の自由もあるので手を出せずにいたのですが……」
「あの教会、もう人がいませんよね」
「ええ、邪教の神に祈ったせいで悪霊が出まして、信者たちは全員死亡したんです」
「じゃあ信者をどうにかしてくれというわけではないんですか?」
俺が口を挟んだ。
「ええ、問題は信者ではなくあの教会に住み着いた悪霊なんですよ……あそこ、解体が決まったんですけど、解体中に事故が頻発しまして……プリーストの方に除霊をお願いしたのですが手に負えないと言われまして……そこに神聖魔法が使えると噂で聞いた方から依頼が入りまして……」
「なるほど、悪霊の討伐ですね? で、報酬のほうはいくらですかね?」
「金貨五枚が限度でして……神聖魔法使用者に出来るお礼としては安いのは承知しているのですが、依頼者もあそこにお金をもうすでにかけているもので……現在払えるのはこれだけだと……」
「分かりました、その依頼、引き受けますよ」
「ええっ!? 頼んでおいてなんですけど、本当にいいんですか?」
「ええ、気に食わない神をまつっているようですしね、ぶっ潰すと非常に楽しそうなので引き受けますよ!」
「ファル!?」
俺は思わず声を上げる。悪霊の退治など荷が重い仕事だ。精霊クラスの召喚獣が必要になる依頼なのだが、コイツは迷うことなく引き受けた。非常に怖い依頼なのだが……
「ではラック、さっさと討伐に行きましょうか!」
「ええっ!? 準備とかさあ……あるんじゃない?」
「そんなものは要りません! 私のパワーでねじ伏せてやりますよ!」
力強くそう宣言し、俺の手を引っ張って町のはずれのほうに引きずっていった。ミーナさんも不安そうに俺たちを眺めていた。
「ラック! 悪霊ごときにビビりすぎですよ! あんなものちょちょいとねじり上げてバーンと消し飛ばせばいいだけなんですから!」
「だって俺、ゴーストの類と戦闘するのは苦手なんだよ! あいつらに有効な召喚獣を引くのって大変なんだぞ?」
「大丈夫ですよ、今回の依頼は見ているだけで問題ありません! 私がぶっ潰しますから」
その自信がどこから来ているのかは分からないが、悪霊への憎しみのようなものは感じられた。コイツが本気を出せばすごいことは知っているので多分この依頼も問題無くこなすのだろう。俺のようにその暮らしが出来ればそれでいいと考えている人間には荷が重い依頼だが、やりたいならやらせてもいいだろう。
「さて、この教会だな……随分と不気味だな」
「ここからは反吐が出るような匂いが漂ってきますね。さっさと吹き飛ばしてしまいましょう!」
「えっ!? ちょ!?」
俺の言葉も手遅れで、ファルの手からは光の奔流が出ていた。
『ホーリーライトニング!』
真っ白の稲妻が教会を一撃で破壊した。小さめとはいえ二回までありそうな様子の建物を一撃で吹き飛ばしたのは驚くべき事だ。
ガヤガヤと人が集まってきたので、俺はファルの手を引いてギルドへの道を急いだ。
バタンとギルドのドアを開けるとギルマスが俺たちを出迎えてくれた。
「浄化しろと入ったが潰せとは言ってないんだよなあ……」
「すいません! 弁償はなんとかしてください!」
ギルマスは感慨深げにつぶやく。
「いや、あの教会はどのみち潰す予定だったから一向に構わないんだがな……これが報酬だ。それと明日もギルドに顔を出してくれ」
「え? ああ、はい」
「わかりました」
幸いなことに建物の弁償は避けられたようだ。しかし油断はできない。明日文句を付けられる可能性は十分にある。正直言って気が重い……
「ラック、早いところ夕食にしましょうよ! コレでしばらくお金には困らないでしょう?」
「そうだな、食えるうちに食っとくか」
その日の夕食の煮魚はとても美味しいものだった。魚介スープと非常に味がよくあっていて、食が進んだのだが、どこか明日の事への不安がつきまとっていた。
その夜はなかなか眠れなかった。ギルドから建物の弁償など言われたらどうしようなどと悩みは尽きなかったが、それでも気力の限界が来たところで意識が落ちた。
翌朝、窓を開け放って太陽を眺める。やはり太陽はいいものだ。悩みを薄れさせてくれる。
「おはようございます、ラック、いい朝ですね」
「ああ、そうだな……おっと、こっちの窓はダメなんだっけ?」
昨日のことを思い出して窓を閉めようとした。
「構いませんよ、あの人間至上主義者の教会が潰れた様を見るのは気分のいいものですしね」
俺の隣に金髪をはためかせながら来る。町の外れに黒い地面が見える。教会があった場所だ。
「それにしても悪霊退治は気分がいいですね!」
「そ、そうか……」
それから一通りの朝食を食べてから出てこいと言われているので渋々ギルドに向かった。
ギルドのドアを開けると笑顔のギルマスがいた。筋骨隆々としているので笑顔でも十分に迫力がある人だ。
「おう! ラックにファル、よく来てくれたな」
「で、ご用というのはなんでしょうか? 私たちはちゃんと依頼をこなしたはずですが?」
「まあそう身構えるな。あの教会は厄介者でな、周りの家からも崩してくれって頼まれてたんだよ。それで悪霊の退治を頼んだわけだが……お前さん方が取り壊しまでしてくれたわけだ……まあようするに崩すための金の一部を礼金として支払うって事で決まったんだよ」
ファルは楽しそうに話す。
「おや、それはそれは、ありがたく頂きましょうか」
「おう、取り壊し費用が金貨二十枚だがお前さん方に金貨五枚を支払うことに決まったんだ」
「それは良きことです」
「ありがとうございます!」
「じゃあこれが追加報酬だ。お前さんたち流れ者に言うのもおかしな話だが、末永く頼むぞ?」
俺たちはギルマスに礼をしてから立ち去った。
「これで当分楽して暮らせますね!」
「そうだな、しかし追加報酬とは思わなかったよ……」
「まったくもう……ラックはもうちょっと私を信用してくれませんかねえ……」
そんなことを言い合いながら『烏の宿』で美味しい夕食を食べ、柔らかなベッドに飛び込んだ。張り詰めていた緊張の糸がほぐれて俺は次第に微睡んでいった。何故ファルがあの教会に憎しみのようなものを感じていたのか考えようと思ったが、柔らかい寝床に意識を吸い取られ眠りについてしまった。
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