少女は言った『私が戦った方が効率がいいのでは』
「さてラック、何か申し開きはありますか?」
「まったくもってございません!」
平身低頭だった。そう、ここ一週怠惰な生活をしたせいで資金がキツくなっていた。もちろん生活だけなら宿賃は無料期間なのだが、やはり人間的な生活をする以上ある程度のコストはかかってくる。要するに俺が怠惰だった性で金が無くなってきていた。
「はぁ……そろそろ資金がヤバいんですからギルドに行きますよ、いいですね?」
いいも何も無かった。このままでは資金が尽きてしまうのでギルドに行くしか選択肢は無い。
「じゃあギルドに行くか……」
「なんでそんなに気が重そうなんですか? ちゃちゃっと低級魔物を討伐して報告するだけじゃないですか?」
「それが命がけだから嫌なんだろうが……」
「まったくもう……ダダをこねてないでさっさと行きますよ」
そう言うファルに引かれながら俺たちは宿を出てギルドへ向かっていった。正直とても気が重い。強い魔物との戦いには強い魔物をぶつけるしか無い。そしてそれをやると、召喚獣への後始末が手に負えなくなる。帰還魔法にしたがってもらえるかの交渉が非常に大変だ。報酬を全部要求されて苦労したのに金がまったく増えないなんて事もざらだ。
そんなことを考えながらギルドまで来てしまった。採集依頼等があれば召喚の必要も無くこなすことが出来る。俺は金欠だった頃は薬草採集に精を出したものだ。
依頼書の貼り付けてあるコルクボードを眺めながら安全そうな依頼を探す。薬草採集は相場が安すぎて二人の生活費を稼げるほどは無い。となると討伐依頼か警護依頼になってくるのだが、警護に俺を雇う人はほとんどいない。パーティを組んでいればゼロではないが、それはパーティとしての実力を買われたもので、俺自身の力が評価されたものではない。
「討伐の……ホブゴブリン駆除依頼あたりでいいかな?」
俺はファルに問いかける。
「ふむ……悪くはないですね。私としてはこちらのワイバーン討伐を狙いたいところですが……」
「お前は本当に命知らずだなあ!」
呆れてそう言った。もう少し安全というものを考えて欲しいものだ。そういった依頼は熟練冒険者に頼むのが相場と決まっている。その辺の常識を知らないのか、あるいは自信があるので受けたいと言っているのかは不明だが、分相応という言葉を教えてやりたくなった。
「ラック、その依頼は報酬が安くないですか?」
「ホブゴブリンなら金貨三枚が相場だよ。これ以上高くなるとワケあり案件になってくる、相場通りで出されてる依頼はハズレが少ないんだ」
「そうなんですか」
頷いて納得しているような風だが、ファルは上級依頼に未練がましく目線を向けていた。
「いいからこれを受注するぞ」
「はぁい……」
受付に持って行くとミーナさんは淡々と処理を進め滞りなく受注となった。いろいろな意味でファルの実力が知られているようで、多少の注目を浴びながらホブゴブリン討伐へと向かうことになった。
ゴブリンの上位種だが、ゴブリンロードのような上級魔物ではないのである程度の実力があれば狩ることが出来る相手だ。営巣をしているそうなので早めの駆除が重要になってくる。
さすがに馬車代はギルドが出してくれたので、俺たちは馬車に乗ってゴブリンの営巣地を目指した。
「うぉえっぷ……」
道中で二回ほどファルがリバースしたが、それについては秘密にしてくれと言うことなので黙っておこう。
御者の人が馬車を止めて、前方を指さした。
「アレがゴブリンの巣です。最近増えてきましてなあ……」
「じゃあ俺が召喚するからファルは防衛を頼む」
「はいよ」
ファルが魔法の光で俺たちを包む。魔物の近づけない環境で召喚獣を呼び出す。
『サモン』
魔方陣から現れたのは……ヘルキャットだった。
『主よ、我に用か?』
『ああ、ゴブリンと戦って欲しい。報酬は魚一匹とマタタビ一個だ』
少ないかな? と思ったがヘルキャットは即決で引き受けてくれた。
「わあ……猫ですか!」
『なんじゃこの人間は!?』
『ああ、ソイツとは言葉が通じないから気をつけて』
俺たちが念話をしているのにファルは出来ない。なので俺がやや凶暴そうな猫を呼び出したようにしか見えない。
「ファル、その辺にしてゴブリンを狩るぞ」
「分かりましたよ……ぶっ潰すのは得意ですしね」
『よし! じゃあ下級種から削っていくぞ! 先頭で突っ込んでくれ』
『主、了解した』
ヘルキャットはゴブリンの木造建築に突っ込んでいく。小柄なゴブリンと同じくらいの大きさの猫がゴブリンを食いちぎっていく。
「私も突っ込みますよ!」
ファルもロッドを持って敵へ突っ込んでいく。魔術師は後衛だろうという常識すら知らないらしい。
『ヘルファイア』
ファルの炎魔法で木造の家が焼き払われていく。人間の町は石造りなので燃えないが、ゴブリンは石造りの家を作らないので効果は抜群だった。
あらかた焼き払われて、飛び出てきたゴブリンにヘルキャットが喉笛を噛みちぎって絶命させていく。そんなことであらから巣が焼けたところで一回り大きなゴブリンが出てきた。
アレがホブゴブリン、今回のターゲットだ。
『主、アレは私の手にはおえない』
『オーケー、帰還魔法を使う』
『リターン』
魔方陣にヘルキャットが消えていく。俺は魔方陣に魚の干物とマタタビを投げ込んだ。これで契約は成立だ。
「ファル! ホブゴブリンはいけるか?」
「まっかせなさーい!」
『パワーレイズ』
筋力強化呪文を使ったファルがホブゴブリンを殴り飛ばすと一撃で倒してしまった。
「ふぅ……ちょろいですね」
俺はアイツのデタラメな強さに呆れつつ帰還の準備を始めた。
その前にホブゴブリンの耳を切って討伐の証拠として確保しておく。
「帰るぞ」
「はーい」
馬車の御者は荒れ果てたゴブリンの巣だった場所を見ながら俺たちに乗ってくれと頼んだ。そして馬車に揺られながら……
「う゛ぉえ」
まあ多少汚いこともあったが無事町まで帰ってくることができた。
ギルドに向かい、慣れている通りに受付にホブゴブリンの耳を提出して査定を頼む。これによって討伐が確認され、敵の強さによって報酬が上乗せされたりする。
「なるほど、確かにホブゴブリンですね」
ミーナさんはそう言って報酬の入った小袋を渡す。
「ではまた、当ギルドをごひいきにお願いいたしますね」
そうして三枚の金貨をもらってから宿に帰った。無事依頼をこなしたことに安堵して、俺たちは夕食を食べた。その時にファルが禁句を言った。
「ねえラック、私だけで戦ったほうが効率よくないですか?」
「お前いくら何でも言って良いことと悪いことがあるぞ!?」
「まああの猫にも多少は助けられましたし、いない方がいいとは言ってませんよ?」
「それはどうも……」
俺はいつファルが出ていくんじゃないかと気が気ではなかった。
その頃、ギルドで――
「ギルマス、ホブゴブリン討伐の件なんですけど……」
「おお、あの二人が倒したそうじゃないか。何か問題が?」
ミーナさんは重い口を開く。
「実は……成果の確認に職員をいかせたところゴブリンが全滅していたとのことで……」
「な……ホブゴブリンだけでいいのに全滅させたのか!?」
「はい、生存しているゴブリンはいなかったそうです」
「そうか……あの二人は丁重に扱うように」
「はい、マスター」
こうしてラックもファルも知らないところで二人に期待を持たれているのだった。
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