ファルの装備を調えよう!
朝日が差し込んでくる。久しぶりのさわやかな朝だ。窓辺を見ると金髪を風に揺らしながら豊満な胸を窓枠にのせて愛おしそうに窓の外を眺めているファルがいた。
「おはよう、ラック」
「おはよう、ファル」
「いい朝ですね、太陽とはかくも眩しいものです」
まるで太陽が貴重なものであるようにしみじみとそう言う。俺は太陽というものが珍しくないありふれたものだと思う人間なのでそれをとても感慨深げに見ているファルの様子は理解できない。もっとも、俺も高級な食事などは貴重だと思うし価値観は人それぞれだ、ああ、ファルは純粋な人じゃないんだったか……まあ大体人と同じで構わないだろう。
俺はざっくりとした理解をして服を整える。ファルが隣にいる中で着替えるのは少々恥ずかしいような気がするが、パーティメンバーなのだから普通なのかもしれない。現にファルは窓の外を見て全く気にする様子は無かった。
俺は今日の予定を考えてファルに伝える。
「ファル、今日はお前の装備を揃えにいくぞ」
「私の装備ですか?」
「そうだよ、その格好で戦闘は出来ないだろう?」
ファルは怪訝そうに答えた。
「私は装備なんて無くても戦えますよ、少なくとも昨日の浄化レベルなら簡単にできますね」
アレを簡単と呼ぶのか……かなりの上級魔法だと思っていたのだが気軽に使えるレベルの魔法とは……
「まあロッドがあると魔力効率も違うしな、あとそのひらひらした格好で戦うときにひっかかったらどうする気だ?」
「まあロッドは要りませんが服の方は一理ありますね。清浄魔法にも限界はありますから」
気楽にそう言うファル。昨日墓地で付いたはずの真っ白な服の裾の汚れは綺麗さっぱり無くなっている。どうやら魔法で汚れを落としたらしい。そんなことに魔法を使うなんて贅沢なことが出来るとは驚いたが、誰かにやらせたわけでは無く、自分でやったのなら文句を言うようなことでもないだろう。
ちなみに魔法を使用したクリーニング店に今ファルが来ている簡素なドレスを出すと金貨十枚くらいかかりそうだった。大丈夫だよな? もしかしてファルが超お嬢様で無理矢理召喚しちゃったとかないよな?
「どうしたんですかラック? 変な顔がますます変になってますよ?」
「変な顔で悪かったな」
「冗談ですよ、ジョークジョーク!」
そんなやりとりをしてから装備屋へ行くことになった。魔道士の武器になるロッドについては何でもいいから服を選びたいとのたっての希望により装備屋の中でも装飾性の高いものを扱っている店舗に向かった。
「わあ……綺麗!」
ファルは飛びあがって喜んでいるが、俺は予算の金貨二枚に収まるかでハラハラしていた。値札を見ると金貨五十枚とかいう気が遠くなりそうな値段のものも置いてある、さすがにショーケースに入っているがそれを欲しいなどと言われてはたまらないので釘を刺しておく。
「ファル、予算は金貨二枚だからな?」
「分かってるよー! ラックは細かいなー」
ダメだ、舞い上がっていて話を聞きゃあしない。
そこへ店員がやってきてセールスを始めた。
「こちらのドレスなどいかがでしょう! 魔力繊維の編み込まれた生地で炎耐性も完璧ですよ!」
「うーん……炎耐性は要らないですね……」
「そうですか、ではこちらなどいかがでしょう! ミスリルを繊維状に編んでいて大剣にも耐える防御力ですよ!」
「そういうのじゃなくって……もっと可愛いドレスってないですか?」
「可愛い……ですか?」
店員も怪訝な顔をしている。あの顔は見た目重視なら服飾店に行ってくれと言う表情だった。しかしそこは商売人らしい、思いついたという顔で奥に引っ込んで、一着の服を持って出てきた。
「こちらはいかがですか? 耐性等はありませんが丈夫で洗濯可能! 実用性はバッチリです!」
フリルのついたモノクロのドレスを見てファルは目を細める。しげしげと見て何度か頷いてから言った。
「いいですね、値段はいくらですか?」
「金貨一枚となっております、こちらのドレスですが耐性や耐衝撃のエンチャントはオプションとなっておりまして、フルオプションで金貨五枚程度になりますが……」
なるほどオプションで儲けようという魂胆か。アレは後付けの魔法が何もついていないできたての品なのだろう。
「ああ、そういうのいいです。付与魔法は自分で付けるので」
「「え!?」」
店員とハモってしまった。
魔法のエンチャントが出来ると? 普通は専門でなければ出来ないと思うんだが……
「お客様、もしかして付与術士の方ですか? 当店は同業者の方にお売りは……」
「はいこれ、冒険者ですよ? そう書いてあるでしょう?」
ファルはギルドカードを差し出す。もちろんそこには身分証として冒険者と書かれている。転職する人がまずいないので冒険者なのはほぼ確定だ。店員さんも諦めたのかぶっきらぼうに会計に向かった。
「ではこちら、金貨一枚になります」
「はいこれでいいですね?」
「確かに……ところでお客さん、本当にエンチャントが出来るなら見せていただけませんか? 個人的な興味なのですが……」
「いいですよ『レジストファイア』」
青い光がドレスを包んで染みこんでいく。ぱっと見で分かるほどドレスに魔力を感じるようになっていた。
「ほお……これはすごい……」
店員も珍しいものを見たのか興奮している。そりゃあそうだ、野良の付与術士など一般的にいるはずがない。
「じゃあこれ頂いておきますね、ではこれで」
そう言って俺の手を取って出て行こうとしたところで再び声がかかった。
「お客様! 大変失礼かとは思うのですが、これほどの術者なら当店の専属に興味はありませんか? 冒険者より安定して稼げますよ!」
「すいませんね、私は自由が好きなもので」
そう軽くあしらい俺の手を引いて店を出て行った。店員からの羨望のまなざしが痛かった。
「お前、魔法の付与まで出来るのかよ?」
「そりゃあまあね……他にすることも無かったですし……延々と着ている一張羅をエンチャントで長持ちさせてたのでね。あまりその話はしたくないんだけど?」
「ああ、わかった。事情については深入りしない。あとはロッドだな」
「要らないですよ、私、なくても魔法使えますし」
「魔道士の見栄みたいなもんだよ。あんなロッドを持っているなら信用できるみたいなことがあるんだ」
実際俺もそれを理由に高級な品を手に入れたからな。
そして今度は俺が手を引いて武器屋へと入っていった。中は薄暗く様々な剣や盾、ガントレット等アクセサリがある。その辺には一切興味が無いようでロッドのコーナーに連れて行ってようやく武器を見る気になったようだ。
「これなんてどうだ? スタンダードウィザードロッド。金貨一枚で予算ぴったりだ」
「高くないですかね? ああ、これでいいです」
ファルは床に転がっていたロッドを拾い上げて店主のところへ持っていった。
「これください、いくらですか?」
「これは……一山いくらの品だが……本当にこれが欲しいのかね? 命を預ける道具だぞ、二人とも若いんだからもう少しこだわったらどうだ……」
ひゅん……パリン
風の弾が飛んでいき店に置いてあった花瓶が割れた。
「
「あ、ああ……構わん。それは銀貨一枚だ」
「はいこれ、じゃあ行きますね」
そう言ってスタスタと店を後にした。店主のキツネにつままれたような顔は記憶に残った。
「ところでラック、貴方ストレージバッグは持っていないの?」
「あれかあ……今まではそんな大きなものを持ち歩かなかったからなあ……」
「じゃあこの際買っておきましょう」
と言うわけで残りの予算でいくらでも収納できる魔法のバッグを買うことになった。ここで銀貨五枚を使ったが予算内で収まった。
一通り装備を揃えて宿に帰ると唐突にファルが服を脱ぎだした。
「おまっ……!? 何してんの?」
「着替えですよ。この忌々しい服から新しい方に着替えようと思って」
「あ、ああそうか」
俺がおかしいのだろうか? 仲の良いパーティなら同じ部屋で着替えても当然なのだろうか? 仲の良いやつに出会えなかったので未だに基準が分からない。
下着からさっき買った服に着替えて今まで来ていた真っ白なドレスをバッグに放り込んだ。
「あーせいせいした! これでもう私の記憶に残ってるものは無ーい!」
威勢の良い笑顔でそう宣言したのだった。
俺は普通の基準が分からず困惑しているうちに日も陰ってきたのでその日は宿泊ということになった。
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