モダン町編
モダン町での依頼
「うーん! やっぱり自然の光とさわやかな空気はいいですね!」
「ファル、目立つから気をつけろ」
金髪をなびかせながら風を心地よく浴びている所に俺は突っ込む。馬車旅がよほど嫌だったらしく顔色も馬車を降りてからすっかりよくなっている。町はレンガ造りの建物が並んでおり、ひとまずここでファルの装備を調えようと思っていた。何しろアイツときたら召喚時の服が部屋着のようだったのでとても冒険者をやっていけるような装備はなかった。召喚は魔物等を呼び出すのを前提としているため武器など全くストックがない。
なんにせよ依頼を受けて金を稼いでと段階を踏んでいく必要がある。とりあえず今晩の宿を取ろうか。
「ファル、宿に向かうぞ」
「はぁい!」
そうして着いた宿にて、俺は店主と些細な言い合いになっていた。
「一泊銀貨三枚は高くないですか?」
「嫌なら他所へいきな、もっともうちより良い宿なんてないと思うがね……アンタが風呂無しトイレ共同でいいならあるだろうがね、打ちで二部屋も取ったらその金額だ。これでも二人分って事で銀貨一枚分負けてるんだ、これ以上は無理だね」
「ラック……よく意味が分からないのだけれどここの宿は高いの?」
「高いな、あの村なら一泊銀貨一枚で二人分の宿が取れる」
「というかあんたらパーティなんだろう? わざわざ別に部屋を取る必要があるのかね? 二人一部屋なら銀貨二枚で済むがな」
俺は少し考え込む、正直今まで爪弾きにされてきたのでパーティメンバーと同じ部屋に泊まって良いのかよく分からなかった。仲の良いパーティでは普通なのだろうか? 少なくとも俺は別の部屋に隔離されていたのだが……
「そうですか、じゃあ二人一部屋でいいですね、はいこれがお代」
「毎度あり」
「ファル!?」
突然俺の財布から銀貨を取り出して支払ったことに驚く。
「いいのか? 同じ部屋だぞ?」
「ラックの考えは知らないけれど、パーティを組んでるなら同じ部屋に泊まるのは構わないんじゃない?」
ファルがいいなら俺もとやかく言って宿賃をつり上げたくはない。それで宿は無事確保することが出来た。宿屋『烏の宿』に一泊することに決定した。
もうしばらくこの町には居たいのだが宿は一泊しか取っていない。ただ単に金がないからだ。今日明日でギルドの依頼を何か受けないと宿無しになってしまう。冒険者なんて宿無しが珍しくはないのだが、ファルがそれなりに綺麗な格好をしているのでスラムのような場所で夜を明かす気にはならなかった。
「さて、ギルドに行くか」
「お金、無いですもんね」
「財布の中を見たのか?」
「当然、パーティですから共同会計でしょう?」
「ごもっともで」
そんなことを話しながら町のギルドについた。村の木造建築のギルドと違い石造りの建物になっており、町の豊かさを誇示しているようだった。
重い木製のドアをくぐると酒を飲んで潰れている連中や賭け事に興じている連中がそこかしこにいた。時折ファルの方に目をやる人も居たが、俺が持っている『召喚士専用ロッド』を見て引き下がった。俺は実家を出るときに装備品だけでもいいものをと頼み込んで買ったものだ。思い入れはあるがあまりいい思い出の無い品だ。
一応俺はランク不明と言うことで自由に装備を選べたのでロッドにはこだわった。はったりをきかせるために上級召喚士用のものを買い、旅に出た。とはいえ、ロッドは魔力を効率よく扱うためのもので、何が召喚されるか運任せの俺には見せるための武器以上の意味は無いのだが……
さて、依頼にいいやつが無いかな?
俺は左から右に視線をやって討伐依頼と採集依頼に目を通す。生産依頼は俺にこなすことは出来ないので除外だ。
「薬草採集か……安いな……」
物価が高騰しているなら依頼料も高騰しているかと期待したのだが相場通りの銀貨一枚だった。
「ねえラック、この依頼はどう?」
「どれどれ……共同墓地の浄化? アンデッドが居れば駆除をしてくれと……」
「俺は召喚で当たりが出ないと勝てないんだが、何か勝算はあるのか?」
ファルは豊満な胸を叩いて言った。
「神聖魔法を使わせれば私の右に出るものは居ませんよ!」
俺は少し考えた。他の依頼ではこなしていてもジリ貧になるのは目に見えているのでこの依頼の報酬である『金貨二枚』は大変魅力的だった。
「分かったよ、信用するから頼むぞ?」
「任せてください!」
受付に依頼書を持っていき、この町のギルドは初めてということでいつも聞かされる説明を聞いてから受注という流れになった。
「ラック! 善は急げですよ! じゃあ行きましょう!」
そう言って俺の手を取り早足に駆けていく。俺は召喚獣用の報酬にできるものがあるだろうかと考えはしりながら旅用バッグの中身を見る。干し肉があと三セット残っているため、下級魔獣程度なら使役できると判断した。
俺も足取りを合わせて町外れへと急いでいった。
そして共同墓地に着いたわけだが……お世辞にも現状はいいとは言えなかった。金のある人は教会の管理された墓地へ、身よりもお金もない人はこの共同墓地へ、そんなわけでここは瘴気に満ちあふれていた。
「浄化とアンデッドの討伐だったな……まずは俺が召喚をしてから……」
『ホーリー・レイ』
俺の話もそこそこにファルが大型魔法を打ち込んでここを包んでいた瘴気は消え去った。
「っと……このくらいで十分でしょう。ラック? どうしたんですか、そんな目で私を見て」
「いや、お前、地味にすごいな……ここら辺の浄化は大仕事だと思ったんだが……」
「まあ私も瘴気の浄化はよくやってましたからね……」
「そ、そうか……じゃあギルドへ報告に行くか」
そして帰りはのんびりと歩いてギルドへ向かった。受付に依頼完了を告げたときは目を丸くして驚かれた。あの広さと瘴気の濃さを短時間で浄化できるはずが無いと思ったのだろう。実際俺も驚いた。
「しょ……少々お待ちください! 依頼の完了を確認しますので」
そう言ったかと思うとバックヤードから野太い声が響いてきた。
「墓地の浄化を半日でやっただと! 嘘も大概にしろよ、あそこがそんな短時間で綺麗になるわけねえだろ! 遣いをやれ、確認しろ!」
どうやらこのギルドはギルマスの権力が大変強いらしい。下働きの皆さんが辞めないことを祈るばかりだ。
馬を出したのか結果は割とすぐに帰ってきた。
ギルド職員がギルマスに耳打ちをして驚かせている。どうやら信じられないようだ。
「お、おう、依頼ご苦労だった。共同墓地は何かと厄介でな……こんなに早く事が終わるとは思わなかったんだ……その……すまんな」
「まあいいでしょう、許してあげますから報酬をください!」
「ああ、これが報酬だ」
俺たちはそれを見て首をかしげた。
「あの……三枚あるんですけど?」
ギルマスは苦々しそうに答える。
「いやあ……あの墓地はしょっちゅうアンデッドが発生してな、この町の厄介ごとだったんだが、報告によるとしばらくは浄化不要なほど綺麗になったって聞いてな。一枚は割り増しだよ。気にするな、俺のポケットマネーから出してる」
「いいんですか……?」
「ああ、ここに居るようなやつら……俺も含めてだが、この町で死んだらあそこに葬られるからな、結構あそこに入ることになったやつも多いんだ。そいつらを救ってくれた礼だと思ってくれ」
「そういうことなら」
俺は金貨を三枚も袋に入れてギルドを後にしたのだった。しばらくは宿賃に困らないのに安心しながら宿に戻った。
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