ファルの世界
「おい! あのハーフフェアリーを何処に隠した!」
「ここには居ません! 居ませんから!」
両親の叫びが地下倉庫のここまで伝わってくる。あの二人は死なないだろう、『私と違って』二人とも純血だった。
両親を恨んだことはない、例え私が地下倉庫で生命活動のほとんどをしていたとしても、殺されていないのだから恨むようなつもりは無い。
ただ、ちょっとだけでも美味しい料理や美しい景色を見たかったなと思う。地下でずっと過ごしていたせいで光魔法ばかりが上手になってしまった。今ではこの地下倉庫を明るく照らすことなど容易い。
しかし、地下は地下であり、いくら照らそうとも当たりに見えるのは茶色い地面とセメントで覆われた床、あまり美味しくない食べ物と水、それが全てだった。
「父さんも母さんも私なんてさっさと差し出せばいいのに……」
昔々、それはオークと人間のハーフだっただろうか、それが王宮で暗殺未遂をした時点から雲行きは怪しくなっていった。私は好奇の視線を感じるようになり家に引きこもった。それが幸いしてハーフ狩りや、奴隷商人に見つかることは無かった。
そして私の住んでいる地下の全てを絶望が支配していた。じきにここへも治安維持部隊が来るだろう。捕まると酷い殺されかたをすると聞いた、いっそ自分で命を終わらせた方がいいのかもしれない。どのみちここを生き延びたところで人間とフェアリーの混血である私がフェアリーの里でも受け入れられるはずは無い。
「もう少し、生きているのを楽しみたかったなあ……」
その言葉に対する返答は一切返ってこず、いつも通りの静寂が地下倉庫を満たしている。
「さて……行きますかね……」
私はいい加減両親に迷惑をかけるのも嫌だったのでこの隠し倉庫を出てさっさと人間達に処刑されてしまおうと思う。
「痛くないといいなあ……」
拷問されるのだろうか? ロクな死に方をしないとは聞いたことがある、出来れば捕まるなり首をサクッといって欲しいものだ、苦しいのは嫌だ。
部屋を満たしていた明かりを消し、私はそろそろ人間達が近づいて居るであろう地上に向かって踏み出した。
その時不意に背後から光が発生した。
「っつ!?」
転移魔法? こんな所にピンポイントで来ることなど出来ないはずだ。フェアリーである母の結界で転移魔法は封じられているはず。
私は昔、本でその形式の魔方陣を見たことがあった。
『召喚陣?』
何故そんな物がここにある? 結界は? そもそも誰が呼び出したのだろう?
私は少し考えた。ここから出ればまず間違いなく殺されてしまう。このつまらない世界でつまらない生き物として処分されてしまう。この召喚陣が繋がっている先はどんな世界だろう? 私は悩んだ、しかし時間は無い。家の中まで足音が聞こえてくる。
ここが見つかるのは時間の問題。
「ふぅ……何処に行くのかは知りませんがここよりはマシでしょうね」
私はそうして召喚陣の光の中に飛び込んだ。
その先はあれほどまでに恋しかった太陽の下だった。綺麗だ、私が恋い焦がれた天然の光の中に私はいた。そこで私より少し年上であろう男の子が何か叫んでいた。そちらを向くとアンデッドが数匹私の方を向いていた。敵意があるように感じられたので私は光魔法を収束させ一匹残らず討ち滅ぼした。
そしてポカンとしている少年と私の生活が始まったのでした。
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