1章 17話 妖精の国イルバーナからの逃亡04
「中央の大木に獣人さんたちが利用する階段がありますけど使いますか?
勇者様」
「それは是非とも使わせて頂きます~」
助かったぁーー。救う神あれば捨てる神ありってことかな?
「因みに空から男が降って来た場合は作家によって多少異なるけど
高確率で死ぬから心の準備をして聞いてね」
「そんな物騒な話より、恋のお話をもっと詳しく聞かせて欲しいですっ」
「ココもココも聞きたいっーーー」
「それでもう勇者様と女の子はキスしたの? キスしたの?」
「これは僕の身の上話じゃないって。
そう、これは日本近代のおとぎ話。だからほとんどが作り話の創作なんだ」
たぶんこの異世界にはアニメや漫画って言葉はまだ浸透していないんだろうな?
どれだけ日本の環境が特殊だったか? 改めて感じる異世界との文化の違いは
海外生活で違和感を覚える現象と同じかもしれない。
「人間さんってロマンチックな生き物なんですね」
「わーいロマンチック、ロマンチック」
種族が違ってもどうやら女の子は恋バナが好きだったって結論で。
奇跡の隠しハーレムルート発見。
まさに両手に花状態でギャルゲーの主人公になった気分である。
小さい妖精たちに囲まれながら、中央の大木から続く螺旋階段を降りていく。
もちろん口だけじゃなく足も動かしながら急な段差に気をつけて足を上げる。
途中と途中で古びた扉があったけどナディが手をかざして
いとも簡単に開けてくれた。
やっぱりこの世界には魔法みたいな力が存在するんだなって改めて思った。
因みに僕が手をかざしても扉はビクとも動かなかった。
マナ無しの影響なのか?
ただ扉の解除方法が知らないだけだったと今だけは思いたい。
「これ勇者様にあげるね。 ナディの大事な大事な宝物」
ナディはそう言って、首にぶら下げていた綺麗な緑色の石が付いた
ネックレスを手のひらに乗せてくる。
「本当に貰っていいの? ナディの大事な宝物なんだろ?」
「ココもココも欲しい」
「これはナディの家代々伝わる由緒正しいお守りなんだ」
「ウソーだぁーー。前に池で拾って僕たちに自慢げに話していたじゃんか?」
「パ、パリスなにしゃべっているのよ。バーカ、バーカ」
「ありがとう、ナディ。 遠慮なく頂くよ。
さすがにナディの家代々伝わる由緒正しいお守りなら断っていたけどね。
ご先祖様たちがナディのことを祈って受け継がれた物だから」
「勇者様ーーーーーーー優しくて大好きっ」
モニター越し以外で初めて女の子に告白されてしまった。
一般人とは違う勇者様補正恐るべし。
「これでお別れだね、みんなありがとう」
楽しい時間も一瞬で。大地を這う巨大な根っこが見えてくる。
「それからナディにお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
「なに、勇者様?」
「ココにも、ココにも」
「お城に勤めているスフレって子に夜のパーティーに出られなくて
本当にごめんねって伝えて欲しいんだ」
あのままの別れではスフレに本当に申し訳ない。
僕の口から思いを伝えらればどれだけ楽になるんだろうか?
「必ず魔王を倒したらまた戻っ……」
「……それって、勇者様?
スフレお姉ちゃんよりもわたしの方が好きってこと?」
急にナディの顔がリンゴのように赤くなる。
イルバーナ城では確かスフレのことを僕が一方的に愛している設定に
なっていたような気がするんですけど……。
ここでナディを選んでしまうとまたスフレの心を傷つけてしまう。
しかしナディの気持ちを考えると僕の胸が張り裂けそうになる。
容姿が変わってイケメンになっても僕にはとても恋愛は難しそうだ。
「ココもココもスフレお姉ちゃんにナディもパリスもみんな大好きだよ」
ココ、ナイスタイミング。
「僕も僕もみんなのことを愛しているからスフレもナディも
パリスもココも平等に愛しているよ」
中々会話に参加しなくなったパリス目がけて近づいて肩を寄せて行く。
「急に僕に寄ってくるなよ~」
「なに照れているんだよ、パリス。僕たちは男同士だろ」
「はぁ、この僕が男だと。僕はれっきとした女の子だよっ。
お、お前みたいに小股に変な物なんかぶら下がっていないんだぞ!」
「パリスは僕っ子女子だったのか?」
「もうなによ、今度はパリスばかりに絡んで、勇者様の浮気者っ」
「ココもココも混ぜてよ~」
このまま放置しているとドロドロの5角関係まで
発展しそうな勢いで怖すぎる。
「そうそう浮気者で思い出したけどイルバーナ城で
一方的に僕がスフレのことが好きだって噂が流れているんだ。
その言葉を絶対に信じたらダメだからね。
僕とスフレの仲を嫉妬して勝手に出回った陰謀で嘘なんだ」
「バカな嘘をばらまく悪いヤツもいるんですね、勇者様」
「そんな悪党はこの僕がぶっ殺してやる」
ぶっ殺されるのは実は僕なんですって、
この状況で口が裂けても言えるはずがなくて……。
「ぶっ殺すのはさすがに可哀想だから、
もし犯人を見つけても穏便に話し合おうね」
「犯人にも慈愛の心を抱くなくて……なんて優しいヒトだの。
勇者様だーーーーい好きっ」
「ココもココも勇者様だーーーーい好きっ」
だがそんな楽しい時間も経つのが早く感じるのはお約束で。
自然とみんなとの別れがやってくる。
「お外は真っ暗だからわたしの松明を使って下さい。勇者様」
「ココの松明もココの松明もっ」
「ありがとう、みんな。凄く助かるよ」
かさばるから本当は1本の松明で良かったけど
ハーレムルートを選択した僕には1人を選ぶことが出来ない。
ナディとココからの暖かいプレゼントを両手で受け取ることに決める。
「勇者様。またイルバーナ来たときは
今度こそわたしの家に泊まって行ってよ」
「また抜け駆けはずるいぞ、ナディ。
僕ももっとドロドロのお話聞きたいよぉーー」
「ココもココもナディの家に泊まるっーーー」
ロザリナ姫達の理不尽を忘れさせてくれるほど有意義で心地良い時間。
こんな楽しい思い出は決して壊したくないから。
「ああ、約束する。この小指に誓って」
ナディに貰った緑色の石が付いたネックレス。
小さすぎて首には入りそうにないので左手小指にはめている。
さすがに婚約指輪じゃないし、左手の薬指には付けられないよな~。
「勇者様っーーーーーーーバイバイっ」
「ココもココも勇者様についてくーーー」
「勇者様も困った顔をしているだろ。 ココも手を触れよ」
もうイルバーナを訪れることはないけど
ごめんね、ナディ、パリス、ココそしてスフレ。
勇者様のメッキが剥がれたら、今の僕ではいられないんだ。
きっとイルバーナに戻ったらあなた達も僕のことを軽蔑するだろ。
それが1番怖いんだ。悲しい思いをさせて本当にごめんね。
「バイバイ、みんな……ありがとう」
帰りを見守る口実だと自分に言い聞かせて、ただナディたちの姿が消えるまで
ずっと我が娘を手放す夫のように見ていた。
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