1章 09話 いざ、聖剣の間へ(神々の双璧)04

青かった空がだんだんと暗くなっていく。


「もうこんな時間経ったの?

 早くセアダスの元に戻らないと怒られるかもっ」


急にキョロキョロと顔を動かし、シドロモドロになる妖精さん。


「もうここまで来たら大丈夫。だから早くセアダスさんの所に行ってあげて」


これ以上妖精さんは迷惑は掛けられない。

まだ急な勾配が続くけど頂上まではもう少し。

ここまで運んでくれたんだ。後は僕1人の力だけでも……。


「後もう少しできつい傾斜が終わるからそこまでは勇者様が

 何と言おうと絶対に運ぶからね」


「それだとかなり遅れてセアダスさんっていう妖精に大目玉を食らうんじゃ。

 別々行動した方がお互いのためになるかもしれないよ」


「へぇ? 大目玉?? 勇者様って意外と下手物食いなんだ。

 セアダスの目は細くからつぶらな瞳だから食べても

 美味しくないと思うよ、勇者様」


「大目玉を食らうって例えはこっぴどく叱られるって

 意味だから目は食べないってっ。

 もう後は1人でも登れるから降ろしてくれるかな?」


「……だって勇者様って右腕を怪我しているでしょ」


最初から妖精さんは知っていたんだ僕の右腕が使えないことを。


「わたしって実は怪我している者を放っておけない

 優しい性格だったんですよ~」


至って真剣に場を和ましてくれても妖精さんの瞳はかなり震えていて。

僕よりも立場が強いヒトの命令が重なって優先順位を付ける行動は

トラブルの元になるって嫌でも体が理解しているから、


「……なら任せるね」


ただ頷いて、僕は妖精さんとセアダスさんとのわだかまりが

残らないように祈った。

僕のことを心配してくれた妖精さんの気持ちが

凄く嬉しかったのかもしれない。


「風が強くなってきたね、寒くない勇者様」


「まだ寒いのは水泳で慣れているから。

 内の学校では春の終わりぐらいにはもうプールに水を入れていたからね」


「学校ってなになに勇者様」


「集団行動を強要して知識を学ぶ場所と言えば分かりやすいかな?

 輪を乱した僕みたいなヤツはだんだんと阻害されて

 振り落とされていく修羅の国でもあるんだよ」


「学校って怖い場所だね。わたし勉強も大嫌いだし、

 絶対に行きたくないよ~」


また僕のように学校を嫌い増やして行ってどうしたいんだ?

同情してくれる仲間欲しかったのか?

心の中どこかでは僕自身も変わらないといけないってずっと思っていたのに。

妖精さんに変な誤解させてしまった。

補足しないとまた僕みたいなヤツが次々と生まれてくるかもしれないから。


「これは不安定の感情が入り交じった個人の感想だからね。

 学校は友達を作ったり一緒に勉強やスポーツをして互いに成長していく

 楽しい時間でもあるんだよ。

 いーーやあの頃は笑ってばっかりで口が取れそうだったよ」


「ホントかな? わたしには勇者様の顔が引きって見えるけど……」


「空がキラキラして綺麗だね、妖精さん」


「あーーずるーーい。勇者様が話題を変えた。

 でも空は透き通っていて美しいね。

 見て見て、勇者様。イルバーナのお城がこんなに遠くに見えるよ」


「……本当だ」


木の根がグルグルと巻かれていて古城とも思える程のイルバーナのお城。

妖精さんが飛んで行き来する穴だろうか?

あちこちに穴が開いていて無数の温かいオレンジ色の光が

ライトこぼれ落ちている。


「ねぇ、ねぇ、勇者様。イルバーナのお城からみんなが

 住む町に繋がっているんだよ」


「そこに妖精さんは住んでいるのかい?」


「今はイルバーナのお城で住み込みで働いているけど

 立派な兵士になってお家に帰るんだ」


イルバーナ住人までも魔王から国を守るために戦っているのか?

通りでロザリナ姫達が勇者様の力に頼りたいはずだ。

僕は戦争を知らない世代。

だけど戦って被害を受けるのはいつも弱い国民から始まるんだ。

その危機を少しでも救うために勇者様として

僕はこの国イルバーナに降り立ったんだと思う。

妖精さんは兵士にならなくていい。もっと自由に生きて欲しいんだ。


「僕が秒速で魔王を倒すから早くお家に帰れるといいね」


「あはは、どんなに勇者様の力が偉大でも秒速はさすがに無理だよ。

 だって魔王と対面している間にも時間は経っているでしょ」


「……ごめん、少し盛りすぎた」


「少しねぇ……大盛りいや特盛りだよ勇者様」


そしてまたお喋りしていると妖精さんとの長い旅はあっという間に終わった。

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