1章 05話 異世界転生? 勇者様召喚の議02

「ま、まさかわたくしの手ばっかり見つめて

 何かよからぬことを考えているんじゃないわよね?」


「あははっ、そんなわけないじゃないですか?

 嫌だなもう~王妃様ってお茶目さんなんだから」


この空気で王妃様の手にキスしていたら完璧に今度こそ死ぬところだった。

もし体が変わっていると仮定するなら、

人間と妖精よる価値観の違いがあるのかも?

人間社会でも時代によって異性に好かれる顔も体格も違ったって

習った記憶もあるし。

人種やヒトの好みも最後は健康サプリように個人差がありますって、

曖昧な部分だからな。


「王妃様ですって……この無礼者っ。まだわたくしは未成年で結婚もまだよ」


また何で火に油を注いで怒りの沸点を上げているんだ?

僕はマゾじゃないって。

じゃあ何? あなた様の正体は王妃様ではなく娘のお姫様だったてことなの??


「せっかく他国から資材を集めて呼び出してあげたのに。

 わたくしを怒らせて、速攻自然豊かな大地に還りたいの?」


ああ、こんな勇ましいお姫様だったら魔王を一発蹴り飛ばして

盛大に生還しているよね。

じゃあ僕がこの世界に召喚された理由はいったいなんだんだ?

ま、まさかの日本古代の伝統の結婚相手を

探すお見合いのためじゃないだろうな?


「少し落ち着いて下さい。マドモワゼル。

 てっきりあなた様は魔王に捕らわれているかと

 思いましたしだいですそうろう」


ああ、やっぱり結婚を意識して語尾がおかしくなった。

使い慣れていない言葉や不慣れな手の甲にキスの挨拶とかといい、

見様見真似の西洋かぶれはやるもんじゃないよな。ちょっと反省。


「わたくしを魔王が捕らえる? 何のご冗談を。

 数年前の大戦で魔王は命を落としましたよ」


「はぁ? じゃあ、やっぱり結婚相手を探す私利私欲ために僕を呼び出したと。

 モテる男は辛いですね、あはは」


もちろんリアルではなくギャルゲーの中での話だけど。


「ち、違います。誰があなたみたいに不潔な者など誰が好きになるものですか?

 この国イルバーナの半分の森林が新たなる魔王と名乗る者の

 侵略化に下ったのです」


明らかにこのあちこちに穴があるズボンのおかげでお姫様は動揺しているな。

そうだ、このズボンの穴をファッションにしてデザインの一種と考えれば

パリコレのランウェイも堂々と歩けるんだ。


「お嬢さん、このズボンの穴は決して不潔でありません。

 意図的に摩擦を与えて作った僕特製の自慢の穴でして。試行錯誤から早3日。

 カッターや紙やすりを使ってこの自然な穴を作り上げた匠の血と汗の結晶です」


思えば隣のお婆ちゃんもダメージジーンズを受け入れるのに

だいぶと時間が掛かったもんな?

遊びに行くといつも青い布が縫い付けられていたのは良い思い出である。


「また何て愚かな言い訳をっ。

 自ら衣装に穴を作る者がこの世に存在しますか?」


「それがいるです。これが若者の流行で

 最先端のファッションなのです(たぶん)」


「道理で臭うはずです。

 あ、あなたはこのわたくしをバカにするためだけに

 召喚された勇者様ではなく道化師です。

 兵士長アレンティンよ、直ちにあなたの剣をわたくしに貸しなさいっ」


「はぁっ、了解しました。ロザリナ姫」


兵士長アレンティンと呼ばれた妖精は腰にぶら下げていた物騒な刃物を

たかだかに掲げ、


「我が主君に栄光あれっ!」


と騎士道精神を掲げ、カシャンって鈍い鎧音を立てて跪く。

そしてロザリナ姫に剣を差し出す兵士長アレンティン。


「ぼ、ぼくは綺麗好きの潔癖性ですから帰ったら直ちに破れたズボンの穴は

 継ぎ布を縫って塞ごうと思っていた次第です~」


もしかしてロザリナ姫も僕のお婆ちゃんと一緒の思考の持ち主ですか?

それにちゃんと昨日もお風呂に入りましたけどそれでもあなた様は

肉をそぎ落とし骨になるまで洗えとおっしゃられたいと申されたいのですか?


「もしあなたが真の勇者と証明するならわたくしの剣ぐらい簡単に

 避けられるでしょう」


「僕には無理ですって~」


いえいえ、多分このボロボロの服の臭いで王妃様は激怒されているんですよね?

ぼ、ぼくは勇者様だからそんなことは全てお見通しでございます~。


「そんな謙遜を。あなたは女ごと剣などかわすまでないと言いたいの?」


「いえ、そ、そんなこと一言もおっしゃっていませんですって~。

 それに剣をかわさなかったら体が真っ2つになって、普通死ぬでしょうがっ」


「なら、勇者お得意の魔法で剣を防げばいい話でしょう」


「だからもふ球クエストⅡの勇者は魔法は使えないんですって」


「もふ球クエストⅡ?? また意味不明な言葉でわたくしをバカにしてっ」


そもそも武芸も知らない素人が剣を振り回すロザリナ姫に

勝てるわけないだろうって。

もしかして異能力とか目覚めてこの世界を無双するご都合フラグとか

立ったんじゃないのか?

そもそもチートスキルの死に戻りや不死、絶対無敵防御そして

大賢者とかどうやって自分が取得しているって確認するんだ?

ゲーム機のコントローラーは手元にないから、学生書?

それとも保険いや国が広めようとしているマイナンバーカード??


「……どこにおられたのですか? 大賢者フォルクス様」


「大賢者のスキルきたぁっーーーー!」


ひび割れた大きな砂時計の影からひょっこりと顔を出し目を丸くして、

こちらの様子をじっと伺っていた大賢者フォルクスと呼ばれた

エルフ耳の痩せ細った男。


「むむむ、人間の匂いがする。成功ですじゃ、ロザリナ姫」


……ってなんだ、ただの老いぼれた爺さんか? がっくり。

のそのそと杖をついて近づいてくるフォルクスは白髭を生やし、

とんがり帽子と青のロープ身に纏ったまさに

大賢者の風格そのままの姿であった。


「そんな急に大声を荒げてはしたない勇者様だこと。

 この塩のような不快な匂いを発する人間がひょっとして

 勇者様特有の証なのですか? フォルクス様」


「いえいえ、それは勇者殿の匂いではなく人間特有の匂いだと申しますか?

 確か? ロザリナ姫は人間と会うのはこれが初めての経験でしたかのぅ~」


「これだとまるでわたくしが世間知らずのお嬢様じゃない。

 もう匂いの件はいいわ。それよりもフォルクス様。

 あなたが用意してくれた砂時計に既に亀裂が入っていたのです」


散々僕のことを汚物のように見ていたくせいに。

そんなあっさりと受け流すなんてちょっと酷すぎるんじゃないかいお嬢さん?


「天使の像の翼も最初から少しだけ欠けてました。

 それらの全ての要因が、この礼儀知らずな清潔感の欠片も

 感じないこの変な勇者様を召喚してしまった引き金になったのではないかと

 わたくしは思っています」


「……あれは中古品いやそうではなく、そうじゃ?

 伝説など風化して美化されていくのが現実ですぞ、ロザリナ姫。

 この変哲もない庶民の風格だからこそ、

 天は二物を与えずだったかも知れません」


あのフォルクスって爺さん、途中で話をすり替えやがった。

もし新品の道具で召喚の儀をしていたら、

もっと優秀な勇者がこの世界に導かれていたのか?

運命とは皮肉なものだよな。欠陥品の中古のおかげで僕は命拾いしたなんて。

つくづく異世界転生とは強運が試される場所なのかもしれない。

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