1章 04話 異世界転生? 勇者様召喚の議01
「あなた様が勇者様ですか?」
この僕が勇者だって?? その麗しき声に導かれたんだろうか?
目覚めると僕は女神様に慈悲を請うように片膝を付けてしゃがみ込んでいた。
ぼんやり見えるのは地面を覆うばかりの輝く砂、
六芒星やミミズの徘徊したような謎の文字といった現代社会では
余りお見掛けしない憧れた中二病ばかりの世界で。
……これってゲームでよくあるモンスターを召喚するための魔方陣なんじゃ?
僕は助かったのか? 血だって出ていないし、全然体の節々にも激痛を感じない。
死んでいない。まだ生きているんだ。
ああ死んでから蘇った可能性も残されているか?
まあ、どちらにしろあなたに僕は救われたんだ。
その日は楽しみにしていた念願のもふ球クエストⅣの発売日だった。
思い出したくもない夢にうなされた僕は例のごとく
学校を休んでコンビニに向かっていた。
ご都合良く体調を崩す特殊体質は高校に入学しても変わりなく、
朝から少し熱があった。
でもそんなことに怯えることなく僕は憧れの孔明のように知恵を巡らせる。
因みに孔明とは三国志で登場する軍師であり政治家でもある
優れた才を持つ人物の名だ。
道端で先生たちと運命的な出会いをしてもコンビニには
市販の薬が売られている。
余計な出費になるけどゲームソフトと一緒に市販の薬を購入すれば
たぶん僕のシャボン玉の膜よりも薄いめんつも保たれるかもしれない。
買った薬も備えあれば憂いなしってね。なんて素晴らしい計略だろう。
もちろん徒歩は疲れるだけなので、
文明の利器の自転車にまたがって移動している。
風を切り、朝早くからご苦労さまって感じで休みの優越感に浸って
学校へ向かう我が妹の沙耶奈とその愉快な仲間たち一行を
ひたすら追い越していく。
すれ違いざまに信じられないって沙耶奈にドン引きされたのは
まぁご愛嬌っていうことで。
密約として勤勉少女の沙耶奈にはまたコンビニスイーツを進呈してやろう。
だがその悪巧みも横断歩道を渡る直前で国家権力に阻止されてしまう。
ペダルを止め、青信号に変わる瞬間を待っていると
その悲しい事件は起こったんだ。
偶然隣に立っていた女の子のスカートがめくり上がる奇跡の突風。
本能に導かれるままに僕は女の子のパンツを覗こうと
反射的にハンドルを切り、
車体を低くしようと自転車を斜めして両足で踏ん張ったのだが……。
――――不意に誰かに押された気がした。
あれればかりにバランスを崩して、見事に自転車ごと道路に転倒。
そして車のクラッシュ音と共に強い光が浴びせられ、
瞬く間に僕はスポットライト夢見るアイドルになってしまう。
「……く、謎の光で何も見えないっ」
コンプライアンスの影響なのか? ごめんよ姉さん。
まだあなたの元へは旅立てないや。
これから転生して僕は可愛い女の子になって
廃校を救うアイドルして生きていくんだ。
「さあ、その美しい顔を早くお上げ下さい勇者様」
しかし死を受け入れたけどこうしてしぶとく僕は生きている。
あれは車の閃光だったのか?
それとも異世界に転送される奇跡の輝きだったのか?
今となればもうどうでもいいことで。何て美しい声なんだ。
勇者様と言えば魔王に捕らわれたお姫様。
だから正面にいるお方は僕に助けを求める嘆きの王妃様だと
簡単に推測出来てしまう。
近い未来母君になる王妃様に無礼のないように振る舞わなければいけない。
全身全霊でゲームで得た知識を振り絞って、満面の笑みで僕は顔を上げる。
「……ご、ごきげんようマダム」
僕を召喚したときに大きな衝撃が拡がったんだろうか?
大自然の中央ある大きな砂時計はひび割れてそこから大量の砂が漏れていた。
他にも訳ありの骨董市で売っていそうなオブジェに成り下がっている
左右配置されていた翼をもがれた天使みたいで悪魔のような石像。
だけど目の前にいる兵士に護衛された女性は廃墟に
佇む一輪の花のごとく女神様に見えた。
両サイドにクリームコロネを搭載したバターでつや出しした潤った長い髪。
尖ったエルフ耳に深緑の瞳。そして地面にまで届きそうな高貴な青いドレス。
まさにゲームに出てくるお姫様のイメージそのままの少女の姿であった。
妖精だからかなり見た目が若いのかな?
まあ、妖精って何千年も生きているパターンよくゲームの設定にあるし。
流れに身を任せて、このまま王妃様の手の甲にキスしないと
失礼に値するんじゃないのか?
英国紳士じゃない僕には分からないことだらけだ。
前世の記憶? まだあの女の子のパンツが未練たらたらの
心残りがあったようで、
「今日のパンツは何色でしょうか?」
口から生き霊、遺言。久しぶりのコミュニケーションもあいまって、
これが悲しい男のサガなのかって感じで勝手に言葉が足されてしまう。
「ねぇ、こんなボロボロの服を着た子供が本当に世界を救う勇者様なの?」
「我々に問われましても勇者様のお姿など一度たりとも
拝見したことがないので判断が難しいかと」
どうやらまったく高貴の王妃様達にはその精細な糸が伝わらなかったみたい。
一瞬言葉が通じないかもって身振り手振りで伝えようと
身構えたりも考えてみたんだけど。
「そうよね? そう言えばフォルクス様、
大賢者フォルクス様はどこに行かれたの?」
「さっきまでここにおられていたのですが、お前達は知っているか?」
「……分かりません」
どうも妖精の世界ではノーパンなのが当たり前の文化だったみたいでセーフ。
危ない、危ない初対面でいきなり勇者から変態紳士に
ジョブチェンジするところだった。
では改め手の甲にキスをしないと王妃様に失礼極まりないよな。
「何接近してきているのよ、汚らわしい」
おいおい、まさか転生して小汚いおっさんの肉体に
生まれ変わっているんじゃないだろうな?
長生きする妖精族にとってヒトはどんなに歳を重ねても子供に見えるから
僕を子供扱いしたって思っていたけどこの対応はどうやら違いそうだな?
確かに目線が低くなって体が軽くなったような気がするし、
声だって可愛くなった気がする。
それに小さい子供は下ネタ大好きっていう今の僕の思考回路にも納得できる。
だがまだヒトの子供だとも決定した訳じゃない。
目の前に空想上の妖精だっているんだ。
僕がゴブリンやオーガはたまたリザートマンとかに変貌しているかもしれない。
でも肌の色や質感でたぶんヒトの子だと思うんだけど
100%の自信もおっぱいもないし。たぶん男の子だろう?
そして唯一僕が何者か証明するヒントである
この穴の開いたボロボロの服なのだが……。
幼少期にどんな服を着ていて育ったかって、
いちいち朝食べたパンの枚数みたいに覚えてもいないから結論何も分からない。
でもツッコミどころ満載の体だけど女の子のパンツを覗こうとした記憶は
完全に残っている。鏡よ、鏡。いったい僕は何者ですか?
って鏡、鏡はどこどこシンデレラいや白雪姫さん?
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