1章 06話 いざ、聖剣の間へ(神々の双璧)01

「すなわちこの者は真の勇者殿に決定ですぞ。

 これでイルバーナの未来も安泰ですな~ロザリナ姫。

 さぁー、これより魔王に対抗するためにも聖剣の間に移動しますぞ」


「それは大妖精オベニア様の許可がいるし、そもそも世界会議の承諾だって」


「何を申されるのですか? ロザリナ姫。

 禁忌である勇者召喚の儀までやったのです。いったい何を恐れるのですか?

 全てがイルバーナの民の幸せを思ってのことでしょう」


「我が剣はロザリナ姫と共に逆賊と罵られようが

 地の果てまでも付いていく所存であります」


「アレンティンあなたまで」


「我々も兵士長に意見に賛同しますぞ、ロザリナ姫」


「今こそ妖精国イルバーナが先陣を切って魔王を討伐するのですぞ!」


我ばかりと次々と掲げるイルバーナ兵達の声援。


「わかりましたわ。皆の気持ち」


「あのー、僕の気持ちは含まれているのでしょうか?」


この世界を救うために僕は召喚された伝説の勇者様のはずなのに

脇役のようなハブられる扱いなのですが気のせいかな?


「もー、心の器が小さいわね。それでもあなたは本当に伝説の勇者様ですか?

 先に聖剣の間に行くわよ、フォルクス様にアレンティン」


「承りましたぞ、ロザリナ姫」


「御意」


天から漏れる出る光に向かって背中に生えている羽を広げるロザリナ姫。

そしてフォルクスとアレンティン達が後ろに続く。


「……ちょっと待ってくれよ。みんなみたいに僕は飛べないんだって。

 それに聖剣の間の場所だって知らないし」


「この崖いや神々の双璧の上には我が国イルバーナ城があるわ。

 ひとまずわたくし達はそこにある聖剣の間に続く大広間で待っています」


「だから知らないって……」


「きっと空を飛べなくても真の勇者様ならこんな柔な崖など垂直で走れますわ」


「そんな理不尽な……」


「ふぉふぉふぉ、これも聖剣の試練ですぞ勇者殿」


ロザリナ姫達一行は綺麗な羽を力強く動かし、あんなの飾りです。

偉い人にはそれが分からんのですって感じで脚力を一切使わないで

軽やかに高低差を飛び上がっていく。

また僕は異世界でも1人になる運命なのか?


「いったいロザリナ姫は勇者様とやらにどんな幻想をお待ちなんですかね?

 崖を垂直で走るって超人いや魔法使いじゃなければもはやバケモノですよね?」


立ちふさがるのはヒトの手が加えられていない大自然という名の

そびえ立つ神々の双璧。

ゲームならスティクを上に倒すだけでキャラクターが勝手に

山地を登ってくれるのに。


「愚痴を吐いても仕方がない。試しにちょびっとだけ登ってみるか?」


中二病な空間が好きなのに1人取り残されると急に不安になって怖くなる。

この感覚もきっと容姿が子供の姿になっているせいなんだろうな?

両親が離婚して施設に入った時は心の安まる所はなくて、

いったい自分が何者で誰だかだんだんと分からなくなってきた。

今はその気持ちに近いかもしれない。

これまでの愛情が全て継ぎ接ぎだらけの嘘だったなんて

思いたくもなかったんだ。


「この出っ張りに足を掛ければ……」


クライミングの知識はなかったけどパズルゲームの見極める決断力が

次の岩を掴む判断力に繋がってくるのには正直驚いた。

しかも手足が短くなって力も弱くなったにも関わらず、

無限増に沸いてくるスタミナはさすがちびっ子の体っていうところだ。

好奇心もスケベ力もアップしている気がする。

もしかしたら現役高校生であった頃よりも悲しいけど体力のスペックが

高いかもしれないな?

しかしヒトの子だと仮定してなぜ転移されて子供姿になったんだろう?

若き幼い頃の姿に時間がさかのぼったのか?

それとも他人の体に憑依しているだけなのか?

この小学生低学年ぐらいの中肉中背の僕と似たような体格の身体は

特徴的なホクロや傷がない限り判別しにくい。

あと少し体が成長していれば思い出したくもない火傷の痕で

簡単に誰だか分かるのに。


「く、またこんな時に右腕が……」


曖昧な記憶だけどこの頃の僕は普通に右腕が使えたはずなのに。

どうしてこんな時に限って美少女フィギアのように肩が回らないんだよ?


「……ああ、やってしまった」


きっと昔の過去を思い出してしまったから罰が当たったんだ。

届く思っていた岩にも届かず、崩れた体勢を立て直す筋力もなく

そのまま滑り落ちて行く。

もし今度生まれ変われるとしたら、第2の人生は可愛い女の子がいいな?

そして大好きな家族と友達やペットに囲まれて幸せに暮らして生きて行くんだ。

また勝手にお前の名前を書いた冷蔵庫のプリン食べてごめんよ沙耶奈。

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