第21話

 洞窟の中は耳が痛くなるほどの静寂に満ちていた。

どこまで行っても、時折、雫の落ちる微かな音しか聞こえてこない。


 ここは魂の眠る場所。

 死したる真竜の民が、永遠に安らぐ母のかいな


 真竜の聖域『竜の谷』──五人の竜王達と共に王城を出た龍二は、何故かこの場所を訪れていた。入口を守る『地の竜』の扉をくぐり、導かれるように真っ直ぐ奥へと進む。そして最深部にある巨大な竜珠の前まで来ると、龍二は後ろへ控えた竜王達を振り返った。

「和脩吉、摩那斯、難陀。君たちに施された最後の封印を、今から解呪する。だけど、その『力』を使うかどうかは、君たちの意志に任せる」

 龍二は名指しされた三人が、力強く頷くのを見届けてから、巨大な竜珠に左手を触れさせた。

 呟き始めた言葉は、古代語なのかまるで意味は解らない。だが、彼の前に跪く三人の竜王達は、龍二の口からその言葉が紡がれるたびに、己の身の内に込み上げてくる力を感じていた。

「これでいい。さあ、神座かみくらへ…そして兄ちゃん…四聖獣を、助けてやって」

「お任せください!行ってきます!龍二様!!」

 解呪の儀式を終えると、三竜王は言葉も短く洞窟を出て行った。それを笑顔で見送っていた龍二の身体が、突然、眩暈でも起こしたようにぐらりと揺れる。

「龍二様!!」

 急いで龍二を支えた娑加羅は、彼の顔にびっしりと浮かんだ汗に気が付いた。口には出さないが、古代語の呪文は、よほどの力を必要とするのだろう。

 まして今の龍二は、ラーヴァーナによって、半分の力を奪われた状態だ。その影響が華奢な身体にかける負荷は、長年飛竜に仕えてきた娑加羅でさえ想像に絶するものがあった。

「大丈夫ですか、龍二様…少し、お休みになった方が」

「僕なら…大丈夫。君達二人は…街の外へ逃がした人々を…できるだけもっと離れた地へ…このナーガルジュナから、遠く離れた地へ誘導してやって」

「では…もしや、龍二様は…!?」

 娑加羅は龍二の指示に何事かを察し、改めて主と仰ぐ者のまだ幼い顔を見詰めた。

 彼の目の前には、迷いのない澄んだ瞳と、強い意志を晴れやかな表情に変えた、美しい少年が凛として立っていた。

「人々の避難は、五彩竜に任せております。どうか私と、この憂鉢羅だけでも、龍二様のお手伝いをさせてください」

 真摯な娑加羅の言葉に、龍二は優しく微笑んだ。

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