13話 「ロリコン先生のスレイブ講座」
スレイブ。
奴隷という意味合いでもあるが、一般的に想像する【悪い意味での奴隷制度】とは多少違う側面がある。
まず、彼らには【等級】が存在する。
これはスレイブの社会的身分を示すもので、六段階存在する。
・優等スレイブ:最上級のスレイブ。司令官や総督など、支配者階層。
・一等スレイブ:上流階級の奴隷。一般市民よりも上に位置する。
・二等スレイブ:中流階級。選挙制度がある場合、投票権がある。
・三等スレイブ:市民権のあるスレイブ。一部の参政権が認められる。
・四等スレイブ:労働者階層。一般労働者。一般的なスレイブ。
・劣等スレイブ:それ以下の存在。従来の悪い意味での奴隷。
最下層の劣等スレイブは、たしかに悪い意味での奴隷制度を象徴するように、場合によっては消耗品扱いされ、劣悪な環境下に置かれることもある。
が、殺せば殺人として扱われる場所が多く、最低限の人権はあるといえる。
当然、法が守られないこともあるし、そもそも東大陸には法律自体が存在しないこともある。そんな場所ではスレイブと一般人の間に差はない。
「先生! 奥さんは三等スレイブということですが、普通とは違うんですか?」
「うむ、そうだ。三等以上は一般市民と大差ない扱いになる。申請が通れば下級市民権を得ることもできるんだ。俺も下級市民の資格を持っているからスレイブという縛りはあるが同格ってことだな」
「権利が守られている、ということですね! 素晴らしいと思います!」
「そうだろう、そうだろう。だから結婚しても大丈夫なんだ」
「質問です! 結婚に年齢制限はないんですか!?」
「……ない…な」
「間があった! ロリコン、間があったよ、今!」
「ロリコンじゃない! 愛の勝利だ! それに今の俺は先生だぞ。しっかり聞きなさい」
「はい、失礼しました!!!!」
ここは魔獣解体用の広場、その空きスペース。
そこではいつの間にか、正座で講義を聞いているアンシュラオンがいた。
ものすごい食いつきようである。人生において一度たりとも本気で物事を聞いたことなどなかった彼が、今回ばかりは真剣に話に耳を傾けている。
ロリコンの妻は【三等スレイブ】という地位にある。
街での市民権があり、生活上は一般市民とほぼ同じである。一部の参政権から除外されるなど完全に同じではないが、一般的に三等以上になれば、もう普通の人間と同じだ。
ただし、三等スレイブはそこまで多いわけではない。ロリコンが行商人であり、都市に対していくらか金を収めることで融通してもらっているにすぎない。
となると、スレイブの中でもっとも数が多いのは四等の労働者階級のスレイブということになる。
彼らは都市間を自由に移動する放浪タイプの労働者であり、ごくごく一般的な被雇用者たちであるといえる。
基本的に定住しないので、契約は期間限定の【レンタル】という扱いになり、それが終わればまた違う都市に移動する形式を取る。日本でいえば、不法滞在している外国人労働者のようなものだろうか。
契約者に気に入られたり、住居を得ることができれば、三等スレイブになることもできる。そうなれば日雇いだけではなく普通に就職も可能だ。
二等以上になれば、その数はかなり少なくなるが、いないわけではない。
たとえば貴族や政府、軍の高官などに雇われる者は、必然的に身分が一般人より高くなる。そうしないと仕事に支障が出るからだ。
そして、一番上の等級ともなれば一般人を遥かに凌ぐ力を得ることもある。
「優等スレイブなんているんですね!?」
「俺も話にしか聞いたことはないが、そういうスレイブもいるらしい。南では、将軍をやっている者もいるというな。そういったスレイブは、持ち主が国王とか最高司令官とか、地位の高い人間と契約している者だろう。その場合、そこらの領主より地位が高くなるな」
「なるほど! つまりスレイブの本質とは【資産】である、ということですか?」
「いい着眼点だ。その通り。一般人とスレイブの最大の違いはそこにある。一般的にスレイブは【所有物】として扱われているんだ。だから取引に使われることがある。動産扱いだね」
「しょ、所有物!? そんなのいいんですか、先生!? 人間ですよ! 倫理的にどうなんですか!?」
「もちろん対外的には嫌う者もいるが、彼らの多くは【自ら望んでスレイブになる】んだ。なら、問題ないだろう?」
「そ、そんな!? どうしてですか! マゾなんですか!? 支配されたい欲求女子ですか!? わかります!! 大好物です!」
「なんで女子限定なんだ!? 男だっているだろうに。まあいい。これはいわゆる【自己アピール】だ。自分の有能さをアピールして就職先を紹介してもらうのと同じだよ。通常の雇用契約を、より濃密にしたのがスレイブ制度の根幹だ」
戦争や紛争によって敵対する勢力の民間人を捕まえ、強制的にスレイブにすることもある。そうした場合は劣等スレイブにされ、玩具にされることがあるのは致し方のない事実だ。
だが、有能な人材は尊重し、恵まれた境遇を与えることにはメリットがある。
なにせ人材不足だ。それがどんな社会であろうと人材は常に不足する。
社会全体が優れていても、それに見合うだけの人材を育成するのは至難だし、劣った社会でも一般人並みの教養を持つ者は同じく貴重である。
スレイブ制度の根幹にあるのは、より迅速な社会の立て直しであり、人権の保護にあるといえるだろう。
たとえば経済的に困窮した場合、スレイブになることで手っ取り早く身の安全を図ることができる。
悪く言えば身売りではあるのだが、不当な暴力によって搾取されるよりは、強い力を持つ人間に保護してもらったほうが安全だ。
少なくともスレイブ専門の商人が保護している間は安全だし、嫌な相手ならば当人の意思で契約しない自由もある。スレイブ商にとっても大切な商品なので、粗末には扱わないのだ。
どれくらい選り好みできるかは当人の能力と契約内容次第だが、基本的に自己の意思は尊重される。自分の人生は自分で決めることができるのだ。
それが能力の高い人間ならば、さらに重要視される。嫌々働いても人間は力を発揮しないからだ。
よって、スレイブには等級同様、個人の能力に応じてランクがある。
これも、六つのランクが存在する。
・上級スレイブ:希少性の高い存在。世界に数百人程度。
・一級スレイブ:付加価値のあるスレイブ。武人や特殊技能など。
・二級スレイブ:健康で容姿や体格に優れたもの。より高度な知識や教養がある者。
・三級スレイブ:一般的な教養を持ち、計算などができるもの。
・四級スレイブ:三級より劣るもの。
・下級スレイブ:さして役に立たない資源とされている存在。
となっている。
ロリコンの妻は計算ができ、売り子などの能力があるので三級に属し、等級と合わせて「三等三級スレイブ」と呼ばれる。
一般市民階級であり、一般的な教養を持つ人材。
という意味である。
このランクとなると労働者としては十分立派で、信用ある商会の店員として雇われることもある。当然その場合、ちゃんとした労働契約が結ばれる。
ロリコンが契約者であり保証人でもあるため、ロリコンの支配下にいれば他者から害されることはない。(スレイブとして軽く見られることはあるが)
「ロリ子ちゃんとは、どこで知り合ったんですか?」
「ロリ子ちゃんはやめろって!! 犯罪臭がするだろうが!」
「でも、ロリコンなんですよね? わかります」
「何が!? 何がわかるの!? 顔!? 顔がそうなの!?」
「先生のこと、よくニュースで見ました。先生ならいつかやると思っていました」
「ただの犯罪者じゃねーか!? 捕まった時に出るやつだろう!?」
「それで、どこで出会ったんですか?」
「俺がまだ街で商売をやっていた時、問屋で働いていてさ。一目惚れだったんだよなぁ。それでさ、へへ、譲ってもらったんだ。けっこう吹っかけられたから、それはもう値が張ったんだぜ。それでも欲しかったから、がんばってさ…。なんつーの? 給料の三倍ってやつ? いやー、がんばったねぇー」
「このロリコンがあぁああああ! やっぱり強引じゃねーか!!!」
「ちがっ、ちがうっ! ちゃんと意思を確認したから!? 両想いだから!」
「本当か? 怪しいもんだな」
「信じろって。それに彼女も外の世界が見たいって話でな。じゃあ、一緒に行商でもやろうかって今に至っている」
「それで、先生はどうやって結婚したんですか!? 詳しくどうぞ!」
「変わり身が早いな。詳しくもなにも、スレイブとは普通に結婚できるんだ。本当はもう少し時間を置いてからと思ったんだけど、体裁があるしな。すぐに結婚したよ」
「つまるところ、猛る情欲を抑えきれなかったというわけですね! 早くむしゃぶり尽くしたいと!!」
「お前にとって俺は野獣なのか!?」
「その気持ち、わかります。オレもむしゃぶりつきたい。だから本音でどうぞ!」
「誤解を招く発言はやめろって。…そう言われると完全否定はできんが、それだけならば彼女じゃなくてもいいんだから、そこは忘れるなよ」
当然ながらスレイブではなくても娼館で働く一般女性もいる。情欲だけならば、そこで満たすこともできるのだ。
普通に結婚したいだけならば一般市民だってかまわない。あえてスレイブである必要性はないだろう。
しかし、どちらかに人間不信や、より強い絆が欲しいと思う者がいれば、スレイブとして契約して結婚するのも一つの手段である。
「スレイブと結婚ってのは、やっぱり世間体がよくないこともあるからな。あまり公言したくはないもんだ」
「だから過剰反応したんですね。言い訳が先に出たと」
「どんだけ心を抉ってくるんだ、お前は!? べつに十二歳以上は成人なんだから、結婚自体はおかしいことじゃないからな」
「十二歳以上が成人なの? 法律があるの?」
「法律なんて綺麗なもんはないが、このあたりの慣習じゃそんなもんだぞ。農家の子供とかは、早ければ十歳くらいで子供を産む子もいるしな」
(日本でも明治時代前は、十五歳までに結婚するのが普通だったと聞くが…このあたりはかなり若いんだな)
十歳はさすがに若いとしても、十五歳にもなれば結婚適齢期を過ぎたと考えられることもあるようだ。
貧乏であるほど子供が増えるとはよく言うが、この村の開発状況から見ても不思議ではないのだろう。
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